コツと熊
砂場に来たラカはアロハさんに縮地法のコツを教わっていた。
「縮地法に大事なのは相手に動き出しを悟られないようにする。 上半身の体制や足に力を入れ、 貯めを作れば相手にバレてしまう。
簡単に説明すれば、視界いっぱいに大きな箱が2m離れた場所にあるとする。 それが前に進んでも動いたようには見えない。
それと似たような現象だな。
身体の動きが無ければ目は錯覚を起こし、距離が縮まっていないと認識する。
しかしこれはあくまで視界の認識を狂わしているに過ぎない。
目で追おうとするから効果があるだけで目で距離や空間を把握していない者には通用しない。
例えば、気配を把握する者や音で把握する者には効果はない。そういう奴等もいると頭には入れておけ。
しかしそう悪いものでもない。
これを習得出来れば瞬発力は鍛えられる。
いくら気配や音で把握しようが反応出来なければそのまま倒す事は出来る」
アロハさんは縮地法の説明をしてくれたけど、実際には使えるスキルだと思う。
戦闘中に相手の不意をつけるいいスキルではないだろうか?
「大体の説明は理解出来ました。
でも身体を動かさずにどうやって移動するのでしょうか?」
「身体を完全に動かさなかったら人間は歩けない。 そこまでは馬鹿でも解る事だ。 だが、身体の動きを最小限に抑えて、動きを誤魔化せる事は出来る。 それはなぁ、 足の指先だけで前に飛ぶんだよ。 足の指を鍛えるのに最適なのが砂場って訳だ。 」
足の指先だけで移動なんて出来るのだろうか? イヤ違うな。アロハさんが実際に出来ているのだから出来ない訳はないのか。
「今出来ないと思っただろう? これは相当器用な奴か努力した者しか出来ないからなぁ。
実際にやってやるから正面に立ち俺の足を見とけ」
アロハさんがそう言いつつ、 靴を脱ぎ裸足で砂場の上に立つ。
1つ1つの動きを逃さない為に凝視をする。
足の指先に力を貯めるのが解る。
足首より上は何も動いていない事が解る。
「坊主、 よく見とけよ。 これが縮地法だっ‼︎」
足首より下は、力を解放したせいかほんの僅かは動くがそれ以外の身体は微動だに動かず2m前に飛んでいく。
「すごい‼︎」
これを2ヶ月で覚えれるのかは少し不安だが頑張って見よう。
ラカも裸足になり砂場の上に立って見よう見真似をしようとしたら
「身体が動きすぎだ。 膝も動いている。これでは今から動きますよと言ってるようなもんだぞ? 動かすのは足首より下だけだ。」
こんなにも駄目出しされるとは思っていなかった。
身体機能スキルがあるから少しは出来ると思ったけど少しも出来なかった。
今度は身体を動かさずに足首より下だけを動かすように意識をする。
指先に力をを入れ、 前に進もうとするも全く前に進まない。 1cmも動かない事に驚いた。
「おっ。最初からそこまで出来るなんて才能あるじゃねぇか。 最初の1週間は身体が動かないように注意してやろうと思ったけどそれはクリアしているな。
しかし坊主。 ほんの少ししか動いてない事に驚いてるな。 最初からそれぐらい出来れば上出来だ」
1週間は身体の注意をするつもりだったのか。 やはり身体機能スキルが、役に立っているな。 しかし身体機能スキルを持っていても、 こんだけの距離しか前にいかないのか…もし持っていなかったら2ヶ月で習得なんか出来ないのではないだろうか…
そんな事を考えながらも1時間ほどずっと砂場で練習をしていると
「ここから先が長い。無理をするな。
今から今日の食材を確保して来い。
それとこれを足に付けていけ。
砂場以外では外すなよ」
手渡されたのが、足に巻きつけるウエイトだった。
その重さが約5キロぐらいだ。
明らかに嫌そうな顔をしてしまうがこれも修業なのだと諦め足首に巻きつける。
「あの… 食材探しに行くのはいいのですが、 探す場所のヒントとかあれば嬉しいのですが…」
アロハさんは腕を組み少し考え
「ここから東に真っ直ぐ行けば湖がある。
そこのタイキングと言うモンスターを倒せば鯛がドロップする。 熊のモンスターのグリグリズリーからは熊のステーキをドロップする。 後は森の中にはキノコなどが生えているから採取も出来るぞ。
後、 注意する事は、 湖より奥には行くな。多分坊主じゃ勝てないモンスターがいるからまだ行くな。 どうしても行きたい場合は俺を連れて行け。」
やはり熊とは戦わないとダメなのか…今は戦うのは止めておこう。
湖にいるタイキングってモンスターを倒しに行こう。 うん、 そうしよう。
「わかりました。 今日は湖のタイキングを狩ってこようと思います」
アロハさんに手を振りながら重い足を気にしないように気にしないように森の中を入っていく。
食料確保の為、 木々の間を見渡しながら歩いていると、 キノコと思われる植物が生えている。 しかしそのキノコは傘が紫色で赤い斑点… これは食べれそうにないキノコだよね?
まぁ一応採取してアイテムボックスに入れておこう。 しかしこの毒々しいキノコ。 ここら辺に無数に生えているな。 取り敢えず取れるだけ取ってアロハさんに渡そう。
毒々しいキノコを採取していたら違う色のキノコを発見した。
傘が黄色い。 斑点はなく、 美味しそうなキノコだ。 これもアイテムボックスに入れ、次々とキノコ狩りをしていたら後ろの方でカサカサと葉が揺れる音がした。
後ろを振り返るとそこには、 全長3mはあろうグリグリズリーと思われる熊が両手を広げて此方を威嚇していた。
「グォォォォオ‼︎」
目が合い後ろに後ずさるが此処で背を向けて逃げても今後倒さなければならない相手。
ここはグッと恐怖を堪えて白雨を握る。
グリグリズリーが前に進もうとした瞬間、 ラカは背中を向けて走り出す。
「やっぱりまだ無理〜‼︎ この世界では力があるかも知れないけど、 熊とか怖〜い」
猛ダッシュをしているがいつもより速さがない。 両足合わせて10キロの重りが邪魔している。
後ろを振り返ると、グリグリズリーとの距離は変わらない。
グリグリズリーを見ていたら、枝に足が引っかかり転んでしまう。
地面に手をついてしまうが、もうすぐそばまで近づいているのが分かる。
慌てて後ろを振り返るとそこにはグリグリズリーの右手が上に振りかぶっている。
後は腕を下ろすだけなのだろう。
すぐさま横に転がり、 1撃を回避出来た。
すぐさま立ち上がり、グリグリズリーの右腕が振り下ろされた地面を見た。
クッキリと手形がついている。
この攻撃は受けたくないなぁっと冷や汗を流し、すぐさま抜刀する。
足が重く、うまく動けないから逃げられない。討伐するしかないか。
今度こそ覚悟を決めて白雨を構える。
又もやグリグリズリーと目が合い、 少しの間辺りが静かになった。
グリグリズリーが耐えられなくなったのか、 雄叫びを上げながら右腕を振り上げながら向かってくる。
「グォォォォオ‼︎」
ラカは肩の上に白雨を担ぐ。
腕が振り下ろされた。
ラカは頭の中に何やら刀の技名が思い浮かぶ。
その腕を目掛けて白雨を頭に浮かんだ名前を叫びながら振り下ろす。
「半月ッッ‼︎‼︎」
その刀線は、 名前の通り、 180度の円を描きグリグリズリーの右腕を真っ二つに切り裂く。
「ォォォオ‼︎‼︎」
腕を半分に切り裂かれ、 絶叫のような声を上げ、 悪足掻きのように左手腕で攻撃をしかけてくる。
ラカは半月が上手く決まり唖然としている所に右側から脇腹に衝撃を加えられ、吹き飛ばされる。
イキナリの衝撃に受身も取れずに地面を転がり立ち上がろうとグリグリズリーを見るが憤怒している。
今は惚けている場合じゃない。
先ずはアイツを倒さないと…
すぐさま立ち上がり、相手に向かって走り出す。
グリグリズリーは左手を大きく振り回す。
しかし大振りの攻撃には当たる気はしない。
左手を掻い潜り、 懐に潜り込み腹を目掛けて渾身の力で一太刀振るう。
グリグリズリーの上半身が地面に落ち下半身と分離する。
するとグリグリズリーは消え、ステーキ肉とお金袋のアイテムとなる。
安堵の息を吐き、その場に座り込む。
しばらくすると空はオレンジ色になりもうすぐ夜になりそうだ。
「今日はもう帰ろう…」
ラカは立ち上がり、アロハの家に帰る




