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第三話

 お前は……ダンテ……!?

 なんでここに……。

 まて、やめろ、ハルに手を出すな。


「やめろぉ!!」


 ……夢?

 違う……夢じゃ、ない。

 ハルは死んだ。殺された。

 あのアクマ……ダンテに。


「つうか……どこだよここ」


 俺の部屋、ではない。

 白い部屋。俺はそこのベッドの上だ。

 まるでどこかの研究所の休憩室のようだ……。


 ここがどこなのか考えていると、入口が開いた。


「あ、目を覚ましました?」


 部屋に入ってきたのは女の子。

 歳は15,6歳ぐらい。明るい茶髪のおかっぱヘア。身長は155ぐらいか。

 少女は俺のことに気づくと微笑んでそう聞いた。


「…………あんたは?」


 警戒心をあらわにしながら尋ねる。

 すると、その反応を予想していたのか、悲しそうな笑みを浮かべる。


「そう警戒しないでください。私は楓、時雨シグレカエデ。アンジェラチルドレンの一員です」

「アンジェラチルドレン……?」


「はい。公園でアクマに襲われているところを仲間が助け、あなたをここまで運んできたんです」

「……一つ、聞いていいか?」

「はい?」


 もしかしたら、そんな思いが頭の中を支配する。


「俺と一緒にいた女の子も、ここにいるのか」

「彼女は死にました」

「っ……!」


 俺の淡い希望を、彼女は即答で破壊した。

 分かっていたつもりだったが、改めて現実を突き付けられると少しつらい。


「そう、か……」

「すみません、このようなことは隠してもあなたのためにはならないと思ったので」

「いや、むしろはっきりいってくれた方が諦めがつく」


 と言っても……顔は言ってることと全く違うんだろうけどな。

 だが、カエデはそのことには触れないで続けてくれた。


「ありがとうございます。話は戻りますが、あなたを保護したのには理由があります」

「理由?」

「はい。あなたのことをこちらで調べさせてもらいましたが、天宮翔さん、あなたはあの、天宮空さんの弟ですね」

「っ……! なんでそんなこと!」


 今までひた隠しにしてきた。

 アンジェラチルドレン第27代隊長、天宮空。

 天性の才能を持つと言われた彼が俺の兄だということは、家族以外知らない。

 先生も、友達も、あのハルにだって教えたことはない。


「アンジェラチルドレン日本支部のデータベースには、日本に滞在している人全員のプロフィールがあるます」


 だてに国に貢献してないってことかよ……。

 まさかアンジェラチルドレンにそんな力があったとはな。


「……それで、弟だったらなんなんだよ」

「ショウさん、私たちアンジェラチルドレンはあなたを迎え入れたいと思って……」

「断る」


 カエデの提案を喰い気味に拒否する。


「……理由をうかがってもよろしいでしょうか」

「確かに俺は弟だよ……。でも、それだけだ。兄貴みたいに才能があるわけじゃない」


 そのことを口に出すと、忘れたい記憶がよみがえってくる。

 兄はあんなに立派なのに弟のお前は。そんなセリフを何度も呼ばれてきた。

 俺は兄貴じゃないんだ。兄貴と違って当然じゃないか。なにが悪いんだよ。


「それはつまり、空さんほどの才能はない、ということですか?」

「ああそうだ。だから俺に期待するのはやめ……」

「いやです」


 仕返しと言わんばかりに、今度はカエデの方が拒絶した。


「……おまえ、人の話聞いてたのか?」

「はい。翔さんは兄より劣っている、という話ですよね?」


 随分とはっきり言ってくれるな……。


「分かっているなら何で……」

「それだけですよね?」


 カエデの思わぬ返答に、俺は呆れてしまう。


「それだけって……」 

「あなたの兄は抜きにして、あなたに才能がまったくないと誰か言いましたか?」

「……それは、そうだけど」


 返答に困っていると、カエデは真剣な顔でこういった。


「不安なら、私が保証しましょう。あなたは天宮空に続く逸材だと」


 それを聞いて俺はため息をつく。


「わけわかんねえ……なんであって間もない俺のことをそんなに信じれるのか」


 まったく持って分からない……そのあって間もない少女の言葉で、心が軽くなった自分自身が。

 カエデは笑ってこう答えた。


「ふふ……女の勘です」


 恐ろしいな、女の勘ってやつは……。


「だが断る」

「えぇ!?」


「才能云々はともかく、俺は悪魔と闘う理由がない。無意味に死ぬ危険を冒したくなんてないからな」

「ああ、まあ……それもそうですね」


 俺が断る理由を聞いてカエデは一応納得したようだ。

 とおもったら、でも、と付け加えてきた。


「ありますよ、戦う理由」

「え……」


「あなたとハルさんを襲ったあのアクマ、ダンテがまだ生きているとしたら?」

「な……! ほんとなのか!?」


 驚きの声を上げる俺に彼女は頷いて肯定した。


「ショウさんが倒れたあと、アンジェラチルドレン数人で討伐を図るも、返り討ちにあいました。そしてダンテは逃走。おそらくですが、もうこの街……いえ、日本にはいないでしょう」

「何でそう言い切れるんだ……?」


「アクマは3つにランク分けされていますが、本来魔人クラスはアンジェラチルドレンが5人もいれば十分に対抗できます」

「え……、でも返り討ちにあったんじゃ」

「はい。しかもダンテは一切の傷を負わず(・・・・・・・・)、です。この報告から私たちは、ダンテを第三の魔王クラスと認定しました」


 衝撃の事実に驚いている俺に、カエデは頭を下げてきた。


「ハルさんの敵を討つために……私たちに力を貸してください。天宮翔さん」


 数秒の沈黙。

 俺の答えはほとんど決まっていた。

 だが、最後に一つだけ確認したい。


「お前たちといれば……ダンテを倒せるのか?」

「それはあなた次第です」


 ……そうか。

 俺次第、か。

 だったらやることは一つだよな、ハル。


「……いいだろう」

「っ……じゃあ!」


「ああ……アンジェラチルドレンに入るよ」




「では、詳しいことは明日またここへきてください」

「わかった」


 今日はもう遅いから、ということで今回は帰ることになった。

 家族への連絡はしてあるので何も心配いらないと言っていたが……不安だ。


 しかし思い返すと知らないうちにかなりハルに依存していたようだ。

 ここ最近の行動がすべてハルのためだ……うわあ。

 でも……結局守れなかった。

 どれだけ大切にしても、どれだけ必死になっても、結果は残酷なものだ。


「っ……う、く……!」


 泣くな。まだ泣くな。

 ここで泣いたら動けなくなる。

 泣くのは家に帰ってからだ。

 そして……今日で泣くのを最後にするんだ。


 そうこうしているうちに、家に着いた。

 時刻はもう日が変わろうとする頃。

 家のカギは開いていた。


 家の中に入ってみると、真っ暗の中、リビングだけ明かりがついていた。

 リビングに言ってみると、母親が深刻そうな顔で俯いていすに座っていた。


「……ただいま」

「ショウ……話があるわ。そこに座りなさい」


 俺は無言でうなずいて、母親の前に座った。

 母親は顔を地面に向けたままこういった。


「アンジェラチルドレンの人から、全部聞いたわ。ハルちゃんのことも、あなたがこれからどうするのかも」


 そして顔を上げて俺を見ると、確認するように聞いてきた。


「どうしても、行くの?」

「ああ……。ハルの敵をとる」


 それを聞くと、母親はため息をついて肩の力を抜いた。


「やっぱり、兄弟ね。ソラと全く同じ理由」

「え……?」

「ソラの場合は、幼馴染じゃなくて彼女だったんだけどね。彼女がアクマに殺されて、敵を討つために、って……。今じゃ隊長にまでなっちゃって……」


 ……そんな理由があったのか。

 当時押さなかった俺は、わけのわからないうちに兄貴がいなくなって、心配と同時に安心していた。

 もうこれで兄と比べられなくて済む――――と。


「いいわ、いってらっしゃい」


 諦めたように母親が言った。


「あなただって、私とお父さんの子供だもの。絶対大丈夫」


 母の言葉に泣きそうになる。

 家族がこんなに暖かいと思ったのは、随分久しぶりだ。

 常に兄と比べてくるせいで、敵のように感じていたから。


「……ありがとう……!」

「お腹すいたでしょう。晩ご飯、温め直すわね」


 その後、温めた晩ご飯を食べ、風呂に入ってぐっすりと寝た。

 もちろん、寝る前に泣いた。

 今まで我慢した分、これから流す分全部。

 

 もう泣かない。ダンテを倒して、ハルの敵をとるんだ。

 そう決意して、俺は深い眠りについた。

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