例えばの話……だ
仮にだ。例えばの話だ。
もしも自分が○○だったら、もしも○○なことが起こったら。そんなとき俺はどう行動するだろう、どう切り抜けるだろう。
絶対にありえない出来事を、そうそうに起こりえない出来事を想像することはないだろうか。
ありえないとわかっているのに、ついつい考えてしまって一人妄想にふける。
例えば、うーん、そうだな。例えばの例えばっていうのもおかしいけれど、昔こんなことを考えたことがある。
例えば、俺がとあるヒーローだったら。
超能力とか自分に秘められていた特殊な能力に目覚めて世界を救う、まるで漫画の主人公のように世界のために戦い、そして「悪」を倒し世界を平和へと導く。
俺がまだ小さくまだまだ何も理解していなかった頃、なれたらいいのに、そうだったらいいのにと思い考えていたこと。誰だって一度は考えたことがあるんじゃないだろうか。少なくとも俺はそれを夢に見ていたことがあった。
まぁ、当然ありえない話なんだけどな。超能力も魔法も変身能力もないこの世界ではけっして起こることのないただの御伽噺。
それにもし存在してたらそれはそれで世界が大変なことになっていそうだ。
……うん、なんかなくて良かった気がしてたぞ。楽しそうだけど、超能力とか変身能力をかに囲まれ、それがはこびっている世界って、ある意味なんだ。楽しそうだけど、いろいろ疲れそうだ。
例えば、世界が滅びに向かっていたとしたら。
この設定で仲間と協力してなんとかしちゃうってのが、さっきの例えと同じになってしまうんだけど、ここでは世界を救う能力なんてなくてただ生き延びるために、もしくは最後に向けて何をしようかってことだ。
そんなことを考えたところで俺にはサバイバル能力もなく、ものごとを解決するための知識が多くあるわけでもなく、時にこれといってやっとこうと思うようなこともないんだけどな。
じゃあ、なんでこんな例え話を出したんだ、っていう結末になってしまうんだが、そこはとりあえず気にしない。だって、それって自分でぼけて自分で突っ込んでるようなもんだろ?一人で心の中で漫才なんて悲しくねぇか?
……いやいや、この例え話をしてる時点で友達のいない悲しい人間のように見えてしまうかもしれないけど、ちゃんとリアルに友達はいるからな。いるからなっ。
あとはそうだな。
例えば、もしこの世界が、俺のよく知る現実が夢だとしたら。この現実がいつか覚めてしまうものだとしたら。
怒られてるとき、嫌なことがあったとき、そういうときは夢から覚めて全てなかったことになれならば、それでもいいと思う。
今までの出来事全てなかったことになる、都合がいいかもしれないけど、それもいい。
だけど、楽しいとき、うれしいときほどこれが現実でいいと思うことはない。
もしそれが全て夢で、いつしか覚めなければならないもので、偽りのリアルだとしたら嫌だ。楽しいことうれしいこと全てなかったことになるなんて絶対に嫌だ。
嫌なことは消したい、良いことは残したい。
自分に常に利益があるように全てが回ってほしい、
そんなのは傲慢だ。それは理解しているけれど、このことを考えると怖くなってしまう。
夢ならいっそ覚めないで眠り続けていたい。ただ、そうありたい。
この一瞬を、どうか消さないでほしい。
覚めてしまえば「夢」の中身はたちまち忘れてしまうのだ。起きたばかりは覚えていたとしても、そのうち忘れてしまう。
あーもう、こんなことを考えていたらキリがないな。他には何を考えたっけな。
そして今はこんなことを考えている。。
もしも異世界にトリップしたら。
異世界といえば真っ先にファンタジーで、魔法があって、ドラゴンがいて、お城があり、エルフや妖精がいる、実際ではありえない世界を思い浮かべる。そんな世界にただ一人とばされるのだ。
……そういう小説とかやたらに色々ネットであったりするけど、そこはスルーして下さい。無視して下さい。
んで、トリップしてから出会った人たちと仲良くなって元の世界に戻るために方法を探す旅に出るってのが定番だよな。
その道中で、特殊能力に目覚めたり、可愛い女の子を守ったり、ちょっと有名になっちゃったりしつつ進むんだよな。ファンタジーなんだから、魔法も剣もあるし、今まで使ったことも見たこともないものを巧みに扱って敵を倒すのとかって、ちょっと憧れもするよな。
ほら、俺だって、男だし?剣士とかカッコイイって思ったりもするんだよ。個人の趣味なんだし、別にいいだろ。
それで異世界にもどんどん馴染んでいって、あるときは一国のお姫様すら守り、みんなでわいわいと薪を囲みつつ、どんちゃん騒ぎを朝まで続ける。
きっとそこでは今俺がいる世界とは全く異なる経験ができるのだおう。
見たことのない風景を見て、食べたことのない料理を満喫し、俺を取り囲む文化とは反対の中世のような文化が広がっているのだろう。
一度でもいいからちょっとは拝見してみたいなぁ。
ついでに異世界の別嬪さんも……なんて思ってないからな。断じて可愛い女の子の相手をしてみたいないて思ってない。思ってないからなっ。
……嘘です、思いました。
いいじゃないか、ちょっとぐらい夢を見さしてくれてもっ。男なんだから仕方ないだろっ。
さておき、だいたいこういう例えを俺が考えたくなるのは暇なとき、授業中、そして現実逃避をしたくなるときだ。
そして、今はちょうど現実逃避の真っ最中である。
もしも異世界にトリップしたら、それが今の題。
もしもの話なんだから、当然それは現実じゃない。そう、現実じゃないはずなんだ。ありえないはずなんだ。
なのに一体これはどういうことなんだろう。
さっきまで見ていた一軒家が立ち並ぶ住宅街は目の前から消え、かわりにうつる景色は中世のヨーロッパにありそうな白く、美しい真っ白なお城。
いやいや、おかしいだろ。俺、さっきまで外を歩いてたはずなんだけど、いつのまに俺は移動したの。
「なぁ、今のって」
「うん、完全にこの世界に呼ばれてたね」
呆然としている俺に目の前にいる三人のうちの二人が俺にはよくわからないことを話す。
一人は黒髪の俺と同じ年ぐらい、高校生ぐらいに見える少年。なんとなく親近感が持てる少年だ。右腕には赤く、黒と金で文様が描かれた腕輪をしている。いかにもファンタジーっていう感じの腕輪だ。
もう一人は十、十一歳ぐらいだろうか、金髪のストレートヘアで腰近くまで髪を伸ばし、空色の瞳を持つ活発そうな女の子だ。おまけに少女には不釣合いな剣を背中につっている。なんかすげぇ。
しかも、なんだ、その耳。
俺は少女の耳に釘づけになった。それは横に長く伸びとんがっていて、まるで、少女を空想上のあの種族だとしめしているかのようで……
「あ、あの、あなたがその」
残るもう一人、栗色の髪を一つに束ね肩から足らした少女が何かを言おうとして、止めてしまった。外国人のように鼻が高く顔立ちも俺にとっては珍しい。
うん、それより全くと言っていいほど状況が飲み込めないぞ。
「たぶん、そうだよ。この人だよ」
金髪の少女が俺をちらっと見てから栗色の髪の少女に肯定する。
だから、なんなんだって。ここどこだし、ていうかお前ら誰だよ。あと、金髪の少女がどう見ても年下にしか見えないのに見下しているようにしか見えないのがちょっといらっときたんだけど。
「それよりちゃんと説明してあげなよ」
ナイス、名前がわかんなけど黒髪の少年、助かる。切実に説明が欲しい。
それを受けて二人の少女がそうだねと互いに微笑む。それから、元気よく金髪の少女がぴょんと跳ねて俺のほうをくるりと向く。長い金髪が太陽の光を受けきらきらと輝く。
そして、一言爆弾発言を落としてくれた。
「異世界へようこそ」
……これは絶対夢だ。
本作品は部活用に書いたものです。
よくある異世界トリップもののように見えますが、それはただのオチです。これが長編になる予定なんて全くないのであしからず。
ちなみに最後の金髪の少女と黒髪の少年はまだ書いてないネタに出てくる人物だったりするのだけれども……