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罪の痛み

作者: 霜月音闇

背を押す百万の殺意。






 この銃の重さが怒りの重さ。


 この引き金の軽さが命の軽さ。


 初めて味わった殺人の味は酷い高揚と吐き気の中で心を齧った。


 少年は言った。


『一人殺しても殺人、百人殺しても殺人だ』


 何度も吐きながら先へ進む。


 ここで止まれば殺される。


 ここは戦場、地獄の釜の中。


 狂気と高揚と殺意と憤怒、憎しみを煮詰めた坩堝るつぼ


 銃を手に駆ける。


 敵を踏みつけ、仲間を踏みつけ、感覚を踏みつけ、心を踏みつけ、人間であることを、踏みつけ。


 少年は戦士になり、うなされる様に繰り返す。


『背を押したのは民衆の殺意だが、引き金を引いたのは俺の恐怖だ』


 戦争は、起こったときから全員悪で、勝った誰かが正義を語り、死んだ悪を膨張する。


 戦争で正義だ悪だと論ずることは愚でしかない。


 それでも戦士は正義を信じて銃を取るんだ。


 そして人を殺す。


 善悪の区別なく。


 敵を殺し、人を殺し、民衆を殺し、自分も殺す。


 戦士は、何人殺しても英雄にはなれない。それでも戦士は引き金を引く。


 何故殺した?


 敵を、人を、民衆を、自分を。


 殺した。


 その銃で、その手で、その殺意で。


 ブラウン管の中、ラジオの向こう、どこかの国の兵隊を憎めと教えた、ノイズの混じった声が。


 帰る場所も、行く場所も。


 戦士は何も望まない。


 怖いものはありますか?


守るものはありますか?


 戦争を忘れられない人間は、何度となく引き金に手をかける。


 そして後悔する。


 何度も、何度も。


 それでも戦士は銃を取るんだ。


 民衆の為に、自分の為に、国の為に。


 戦士は言う。


『愛国心なんてゴミみたいなもんだ、その重圧が俺を殺人鬼にする』


 民衆の声が聞こえる。


 敵を殺せ、人を殺せと。


 まるでそれが正しいことのように。


 だから殺せたんだ、自分を。


 背を押す百万の殺意に身を委ね、戦場を駆ける。


 殺しているのは俺じゃない、そういい訳を続けながら。


 今日も少年は人を殺す。


 背を押す民衆の殺意で、引き金を引く、自分の殺意で。


 それを画面越しで見ながら貴方は言うだろう。


 戦争はよくないと。


 人殺しはよくないと。


 傍観者を気取ってチャンネルを変える。


 それも立派な殺しですよ。


 見殺しというね。




 罪の意識、感じますか?






 引き金を引くのは、貴方自身?





                  了

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