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4話 外の世界


『予はこれから狩りに出掛ける。用意をしろ。』


その言葉を聞いた瞬間、私とキリカとモニカの空気が変わった。

王子の死因で最も多いのが狩りの失敗だ。今まで十人生まれた王子も狩りで五人死んでいる。

この森には王子でも勝てないような魔物が数多く存在する。しかし、王子達は自らの戦闘本能に身を任せ、勝てないと分かっていながら、闘いを挑むのだ。


「一度、自室に戻る許可を頂けますか?」


「構わないが、なるべく急げ。」


頭を下げ、自室に急いで戻る。


「ベルゼブル様は死なせない。」


キリカが走りながら呟く。


「ええ。命に代えても守ります。」


それを聞いたモニカも決意に満ちた言葉を吐いた。


私はどうなのだろう。確かにベルゼブル様は多少怖いが、戦闘も交わりも要求してはこない。それどころか私達に対して優しくもある。だが、だからといってこの二人のように命まではかけられそうもない。

自分の命に関わらない程度で、ベルゼブル様を守る、それが今の私の心構えだ。






◆◇◆◇◆


「お待たせ致しました。」


三人は侍女の格好から、騎士のような格好になって戻ってきた。


「行くぞ。外まで案内しろ。」


予と近衛兵の三人は階段を下ってゆき、森に出た。

予の出発は盛大に行われ、出口に行くまで、蟲共の道が出来ていた。どうやって予の出発を嗅ぎ付けたのだか。

まぁ、よい。ともかく、ようやく予の力をふるえる時がきたのだ。


「強き者の臭いがする。」


予が喰らうのに値するものがこの森にはいる。早く出会いたいものだ。

予は強者を求めて森に足を踏み入れた。


「お待ち下さい。」


予の足を止めたのはモニカ。


「なんだ。」


予の声は少々威圧的であった。

水をさされたことに若干の苛立ちを覚えたのだ。


「わ、私の蜂を斥候として放ちますので、ベルゼブル様が探し回る必要はございません。」


モニカの声は震えていた。どうやら予の気に当てられたらしい。


「そう怯えるな。怒ってはいない。

獲物の散策はモニカに任せるとしよう。」


モニカは安堵の表情を浮かべた後、魔法陣を浮かべ、そこから大量の蜂を森に放った。

そして数分もたたぬ内に予に獲物の位置を伝えてくれた。


「あちらです、ベルゼブル様。」


モニカに付いていくとそこには兎に似た獲物がいた。兎と言ったがその大きさは四メートルもあり、額には長い角もある。

しかし、予が喰らうには値しない。


「準備運動にはなるか。」


予は一瞬で兎の頭の位置まで跳び上がり、尻尾で兎の頭を跳ね飛ばした。

頭を無くした兎はもちろん絶命した。


「これはお主等が喰え。」


予程ではないが、この三人も喰えば身体の能力が向上する。ならばこの獲物はこやつらに与えた方が良いだろう。


「ですが、これはベルゼブル様が倒した獲物、私達に食す権利などございません。」


「構わぬ。こやつのような獲物は喰らうに値しない。

モニカ、より強き者を探し予に教えよ。」


「御意。」


予は三人が兎の脳と心臓を喰らうまでしばし待つ。

獲物の中で一番美味く、力の宿る場所が脳と心臓だ。それ以外の場所も力宿らなくはないが、それら二カ所の比ではない。


「ベルゼブル様、このまま獲物を朽ちらせるのも勿体無いので働き蟲に回収させてもよろしいでしょうか?」


「働き蟲を呼びに行く時間はない。」


予は早く強き者の肉を喰らいたいのだ。


「それは私の蜂に任せます。」


「なら構わぬ。

喰ろうたなら早く次の獲物に行くぞ。」


「では、こちらに。」


次に予が出逢ったのは巨大な亀。

予は拳でもって甲羅を砕き、一撃で絶命させた。これもまた、予が喰らう価値ある獲物ではなかった。

その次は羽無き巨鳥。確かに速くあったが、これも予の敵ではない。

そして、巨大な芋虫や巨大な蛙、双頭の犬と倒していったが、どれも予の喰らう価値ある獲物とは言えなかった。


もしかしたら、強き者はモニカの蜂程度では見つからぬのやもしれぬな。

上手く隠れているのか、見つかった瞬間に蜂を処分しているのかは分からんが。

モニカには悪いが予もそろそろ我慢の限界なのでな。


「ならば予が直々に見つけるしかあるまい。」


予は自らの感覚を研ぎ澄ませ、強き者の発する力を感じ取る。


「あっちか。」


「どうなさいました?」


モニカが訊ねてくる。


「向こうに予の求める者がいる。

着いてまいれ。」


予が走り出すと、三人も予についてくる。


「ベルゼブル様、それはあなた様には少々厳しいお相手かと存じます!!」


モニカが聞き捨てならぬことを言った。

つまりモニカは強き者の所在を知っていながらあえて予から遠ざけていたということ。


「予は強き者のもとへ案内せよと言ったはずだが。」


「申し訳ございません。」


今、予はほんの少しだが怒っておる。それはモニカが予の強さを信用していないことへの怒りであり、予より遥かに弱き者が予の身を案ずるという滑稽さへの侮辱でもある。

しかし、モニカが予を心配したというのも分かるが故に本気で怒ってもいない。

もし、モニカが男であったり、斯様にまで美しく無かったら殺していたであろうな。真に美しきことは得よのう。


「まぁよい。多少気に食わぬが、今は強き者と闘い喰らうことが先決。」


再び走り出す。しかし、今度は三人のついてこれないような速さで。


「お待ち下さい!!」


モニカがいるなら予の居場所も予の目的地も分かるだろうから心配あるまい。

これ以上あやつらに予の楽しみの邪魔をさせたくはないからな。














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