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3話 城


「はぁ〜。」


ベルゼブル様がいなくなって私、カリンは安堵の溜め息をついていた。

他の王子には会ったことが無いから分からないけど、ベルゼブル様の纏う空気は凄すぎる。生まれた瞬間に既に女王様の親衛隊すら圧倒するその力。王の器を感じさせる気品。体はあんなにも小柄なのに私には大き過ぎるくらい大きく見える。


「で、あんたのそのだらしなさは何なの?」


キリカが達してしまっていたことは私も気がついていた。女のフェロモンをこれでもかとまき散らしていたら嫌でも気がつく。


「だって、ベルゼブル様に優しくされたら私、もう天にも昇る気持ちになっちゃったんだもん。」


「それで本当に昇天してどうするのよ。」


私達、近衛兵は確かに王子の寵愛を受ける立場だが、だからって自分から誘うような行為は如何なものか。


「でも私、ベルゼブル様には愛して頂けなかった。」


確かに、あれだけ女の匂いをさせておいて肉欲の権化でもある王子が手を出さないのはおかしい。

王子は種の繁栄の為、自らの子孫を残すという本能が一際強いのだから。


「こんな、はしたない女は抱けないってこと!?」


……可能性は無くはない。むしろ大いにあり得る。あれだけ気品に満ち、知性に富むベルゼブル様だ、交わる相手にも気品を求めているのかもしれない。


「とりあえず、その濡れた下着をどうにかなさい。」


「………はい。」


はぁ。でもとりあえずは私と仲間は命も貞操も奪われずに済んだのだし、ひとまずは安心かな。

ただ、ベルゼブル様は正直怖いけど。






◆◇◆◇◆



「どこか行きたい場所はございますか?」


「見晴らしの良い場所に行きたい。」


予はまだ外の世界を見てはいないし知りもしない。予は近い内に外に行くつもりだ。だから、できうる限り外の世界を知っておきたい。


「では、頂上へお連れ致します。

あそこならば、ここら一帯を見回せますから。」


モニカは上へ上へと登っていく。


上から予と等しい程の力を感じる。


「上に予の同胞(はらから)がいるな。」


「ベルゼブル様の同胞、つまり王族でございますね。

いかがなさいますか?」


ここで退くのも予の性には合わぬ。それに同胞は予のことを待っているようだしな。


「構わん、進め。」


「御意。」


階段のようなものを登り続け、とうとう頂上に辿り着いた。

そこは見晴らしの良い崖の上。どうやら予の住む城は蟻の巣のごとく、この地に張り巡らせられているようだ。


「遅かったわね。」


予に話しかけるのは美しき少女。予よりは大きな身長をしており、人で言うなら齢十二といったところか。


なぜだろう、一目見た瞬間、本能でこの少女を求める予がいる。この少女と交わりたいという欲求が絶えない。

しかし、その思いに捕らわれたのも一瞬。予は予の意思で欲を抑え込んだ。


「リアス様。

唯一にして絶対の王女。王の后を約束された存在です。」


モニカがそう呟く。

どうやらモニカはあまりリアスとやらに好感を持ってはいないらしい。言葉に棘がある。


「あら、勝手に紹介されてしまいましたね。」


見た目よりも随分と落ち着いた物腰。その動きには色気まで伴っているように見える。


「初めまして、最後の王子。紹介にもあったけれど私の名前はリアスよ。」


「予の名はベルゼブル。

こやつはモニカだ。」


「それで、近衛兵も連れずにリアス様は何をしているのでしょう?」


口を挟んだモニカの声はまるでリアスを威嚇しているかのよう。

強気なことだ。


「近衛兵ごときが生意気ね。」


「私はベルゼブル様の物ですので、リアス様に礼を尽くす義理はございません。」


「そう。」


ゆっくりと腕を突き出すリアス。

次の瞬間、モニカ目掛けて凄まじいエネルギーの塊が放たれた。


「へぇ、お母様の言うとおりのようね。」


モニカは予の尻尾に守られ無事だ。


「予の兵に手を上げることは許さぬ。」


「ふふ、面白いわね。

近衛兵に甘くてそのくせ、私の魔法を受けても傷一つ無いというその強さ。

それに肉欲も乏しい。私と対峙して襲い掛かってこなかった王子はあなたが初めてよ。」


なるほど、この身の内から湧き上がる欲望は王子としての本能であったか。


「といっても、みんな返り討ちにしたけど。

ベルゼブル、あなたはどうするの?」


「興が乗らぬな。」


「あら残念。あなたなら抱かれても良いと思えるのに。」


「戻るぞ、モニカ。」


このままリアスの近くにいるのは危険だ。いつ予がリアスを襲ってしまうか分からない。

肉欲という意味ではない。殺して喰らってしまいそうなのだ。

リアスには予が喰らう価値がある。しかし、見た目が美少女故に、前世の記憶がそれを許さない。だから予はこの場を去らねばならない。


「また会いましょうベルゼブル。」





リアスと別れ、モニカと共に部屋に戻る。


「ベルゼブル様。」


部屋に戻る道中、モニカが予に話しかけてきた。


「なんだ。」


「勝手なことをしてしまい申し訳ございません!!」


頭を深く下げるモニカ。


「面を上げよ。」


「ですが、私は結果としてベルゼブル様を傷つけるようなことをしてしまいました。」


頭を下げたまま懺悔するモニカ。


「構わぬ。あれはリアスに非があるのだ、予はモニカを責める気はない。それに予はあれしきで傷つかぬ安心せい。」


「ですが!!」


「予は予の言うことが聞けぬ者は嫌いだ。

もう一度言う、面を上げよ。」


「……はい。」


モニカの顔は涙で濡れていた。


「これしきの事で泣くな。美しき顔が台無しだ。」


モニカの濡れた瞳や頬を尻尾で拭ってやる。

手で無いのは単純に身長差のせいで届かないからだ。


「予の前では笑っておれ。その方が予は嬉しい。」


「はい!!」


どうやら予の前世の記憶は女に関してのみ予に干渉してくるらしい。前世の予はとんだフェミニストだったようだな。





「モニカ、主も着替えの必要があるようだな。」


部屋に戻ってから予はモニカにそう告げた。

モニカもキリカと同じ雌の匂いを放っていた。


「………はい。」


「予は部屋の外で待っている。着替えが終わり次第、声をかけよ。」


「………………はい。」








「お入り下さい、ベルゼブル様。」


部屋の外で待つ予に声を掛けたのはカリンだった。


中に入ってみるとキリカとモニカは顔を真っ赤に染めていた。


「予はこれから狩りに出掛ける。用意をしろ。」


「「「御意」」」















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