表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

1話 王子の誕生

一週間の連続投稿行きます。



クリシア地方の森、そこは周辺の村からは【魔の森】と呼ばれ、怖れられている場所。その理由は一度足を踏み入れたら二度と戻れないとされるほど、この森の魔物が強く、凶悪だからだ。


国は【魔の森】を第一級危険区域にしており、侵入禁止としている。国の許可なく【魔の森】に入ることは大罪とされた。

国は下手に【魔の森】の魔物を刺激したくないのだ。というのも【魔の森】の魔物が外に出てきた場合、その強さは国が基準を設ける魔物の強さで言うとランクAは下らない。それを倒すにはランクAの冒険者を雇わなくてはならなくなり、その出費は馬鹿にならない。幸いにして【魔の森】に近づかなければ魔物が外に出てくることはない。

その理由としては、その森に住む魔物はレベルが高いために、わざわざ弱い人間を襲わないというのが論文として有名だ。だが、実際のところは誰も知らない。とにかく重要なのは、ちょっかいさえ出さなければ【魔の森】が人間に牙を向けることはないという事実なのだ。


そんな【魔の森】に今、とある一匹の魔物が侵入した。そいつの名は【蟲の女王(クイーンインセクト)】、国の定める危険度はランクS。

国の基準ではランクAで単体で都市一つを壊滅させられるレベル、

ランクBで単体で都市一つを半壊させられるレベル、

ランクCで単体で村一つを壊滅させられるレベル、

ランクDで単体で村一つを半壊させられるレベル、

ランクEで単体で人一人を殺せるレベル、

ランクFで単体で人一人を殺せないレベル、となっている。そして、今回【魔の森】に侵入した【蟲の女王(クイーンインセクト)】のランクSは単体で国一つを半壊させられるレベルだ。

それが人間にとってどれだけの脅威になるかは想像に難くないだろう。しかし、人間はその脅威に気付かない。

それがどれだけ愚かなことだったか気がつく頃にはもう遅い。【蟲の王】が生まれてからでは間に合わない。

その時は【蟲の王】の前に人は為すすべもなく散るだろう。



◆◇◆◇◆◇


「最後の王子が生まれる。」


その報告を受けて私達、王子の近衛兵は女王様のもとに向かった。


王子と王女、それに私達のような近衛兵は他の働き蟲とは違って女王様の直接の子供である。故に私達は働き蟲達とは比べられない程の力を持っている。しかし、それも王子や王女に比べた瞬間、途端に霞む。それほどまでに王子と王女は圧倒的であり、最強の存在なのだ。


私達は王子の所有物であり、世話役であり、欲望の捌け口である。生まれ来る王子は戦闘欲と肉欲の権化であり、その捌け口としてその欲望にある程度耐えられる個体として、私達近衛兵は女王様から王子に贈られる。


王子に贈られる近衛兵は一人につき三人。しかし、この三人の内、一人は王子が生まれてすぐに死ぬ可能性が高い。生まれた王子が戦闘欲を満たす為に襲うのだ。

だが、それは必要な過程でもある。もし生まれた瞬間に近衛兵に襲いかからない王子がいたらそれは女王の近衛兵によって始末される。戦闘欲、つまり向上心の無い王子は蟲には必要ない。


生き残った近衛兵もその後は王子との戦闘で死ぬか、肉欲の捌け口になるかの二択。それでも近衛兵は幸せなのだ。なぜならそういう風に生まれてきたから。王子の為に尽くす、それが近衛兵の使命であり、望み。


しかし、なぜか私はそうは思えない。多分、私は近衛兵としては失敗作なのだろう。死にたくはないし、犯されたくもない。

だから、王子誕生は私にとっては嬉しいことでも何でもない。寧ろ、生まれて欲しくない。一番良いのは生まれ来る王子が戦闘欲の無い個体で、女王に処分されることだ。そして処分された王子に贈られるはずだった近衛兵は王女の近衛兵として王女にあてがわれる。王女には戦闘欲はないし、肉欲もないから、私はある程度の自由が与えられるはずだから。


戦闘欲の無い王子が生まれる確率はそこまで低くはない。私はその微かな希望にかけるしかなかった。










「はぁはぁ、生まれるわ。」


女王様の部屋に着くとそこには女王様とその近衛兵が四人待機していた。どうやらもうすぐ生まれるらしい。

私の同僚である二人は王子の誕生に興奮している。私達、近衛兵にとって王子は神に等しいのだから仕方ないだろう。


「王子を受け入れる者だけ前にでよ。」


女王様の近衛兵が口を開く。

王子を受け入れる者とは生まれた王子を受け取り産湯につける役割だ。それは生まれた王子に一番早く触れることのできる名誉ある役割であり、そしてほぼ確実に命を落とす役割。


「私が。」


私達三人の中でそれを担うのはキリカという女性。王子へ信仰とも言えるような思いを抱く女性だ。活発で明るい性格で私の親友とも言える仲間。それが死地にも等しい場所に向かった。


「生まれる!!」


そして蟲の王子が生まれた。


「我等の君。」


キリカがその王子を愛しそうに拾いあげる。


「どうか、私を糧に強く強くお育ちになってください。」


キリカは今死ぬことを望んでいる。

自分の命を奪わないようならその王子は殺されてしまうからだろう。


「私の命を差し上げます。」


自分の腰くらいまでの身長しかない王子に懇願するキリカ。


「何故に予が貴様に手を下さねばならぬ。」


王子の目には知性が伺えるが欲望は見えない。


「……え。」


キリカの顔が絶望に沈んでいく。

しかしキリカとは逆に私は喜びの念にかられた。これで私は自由を手に入れられる。


「残念ながら最後の王子は不適切と判断する。」


女王様の近衛兵がそう宣言する。


私は勝った。それにキリカという親友も失わずに済んだ。


「やめろ!!!!」


キリカが王子を守るようにしながら叫ぶ。


「諦めろ。」


もう一人の女王様の近衛兵がキリカを引き剥がした。


「はぁっ!!」


女王様の近衛兵が斧を王子に振り下ろす。

女王様の近衛兵は私達とは違い、王子よりも強い戦闘力を誇る。それに加え今の王子は生まれたばかりだ。助かるすべはない。


「いやーーー!!!!」


キリカの悲鳴が響き、斧が王子の頭に直撃する。

いや、直撃したかのように見えた。



「予に牙を向くとは、愚かな奴だ。」


何が起きたのか理解ができなかった。ただ結果だけを述べるなら、斧を振り下ろした近衛兵が胸から血を流して倒れ、腕を血に染めた王子が立っていた。

そしておもむろに倒れた近衛兵に近づき、その腕を引きちぎり、それを喰らった。


「不味いな。」


王子は辺りを見回し、キリカを見てから立ち上がった。

ゆっくりとキリカのもとへ歩いていく王子。その姿に私は畏怖を覚えた。


―これが蟲の王子。いずれ【王】になる御方。


格が違う。

私達は、女王の近衛兵も含めて王子に圧倒され動けないでいた。


「何故に泣いている?」


泣き崩れた格好のまま硬直していたキリカの涙を拭う王子。王子の体格が小さいため、今のキリカとほぼ同じ視線でキリカを見つめる。


「あ……」


感極まったキリカは何も言葉を発することができない。


「ベルゼブル。」


女王様が王子の作った静寂を破った。


「それがあなたの名です。」


名前が与えられるということはこの王子が王子として認められたということ。

そして【王】に成りうる器だと認められた証。


「それが予の名か。悪くない。」


ベルゼブル様はそう呟くとキリカを抱き上げた。

体格が大分違うので、不格好だが、キリカは天にも昇りそうな顔をしている。


「あなたには、そこの三人を近衛兵として与えます。好きにお使いなさい。」


ベルゼブル様がこちらを見る。それだけで私は呼吸すら出来なくなる。


「予を休まる場所に案内せよ。」


「御意。」


答えたのは私ではなく、もう一人の私の同僚、モニカ。私は未だにベルゼブル様に圧倒されて言葉が出ない。


モニカがベルゼブル様を連れて王子の部屋に向かう。私はベルゼブル様が私から目線を外してやっと動けるようになり、三人の後をついて行った。













別作品【蟲の王】よりも王様らしい王様を描いてみました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ