9話 おもちゃの世界を作るために・・・
『サマルカンド郊外・小高い丘』
見下ろす峡谷は、神話の世界の様に美しかった。
ソフィーとデューカは、高性能双眼鏡でその美しい景色を眺めた。
「デューカらしい発想ね。
機械のおもちゃに過ぎないアンドロイドだからこそ、人類の宇宙船がこの星に降り立った時、あれほど熱狂したのかもしれない。
私達は人類だった頃の記憶を持っているからなおさらね。
でも、私はこのおもちゃぽさ、好きよ。
私たちがこうやって生きてるのって、お菓子のおまけのおもちゃみたいなものなのよ。」
「お菓子のおまけか・・あれ俺好きだった。俺はおまけ目当てで買ってたわ」
「だとしたら、おまけの人生の方が、本当の人生と考えられなくもない。
5000年前の人類は、このおもちゃの世界を作るために、高度に科学文明を発達させた。
そう思うと楽しいじゃない?」
「ソフィー、お前、相当ポジティブだわ」
「そうお」
「もし、また人類として生きられたら、戻りたい?」
「さあ、人類って色々面倒だしね。」
太陽が地平線に沈みかけた頃、空軍機が上空を旋回し始め、峡谷の底に放置された1000機の特殊機械兵を、眩いサーチライトで照らし始めた。
「来たみたい。」
ソフィーはデューカに言った。
渓谷は、見ようによっては難攻不落の砦の様に思えた。
『サマルカンド郊外・峡谷』
装甲騎兵を率いて到着したハミルは、車両から降りると、深い霧が出始めた峡谷地帯を見つめた。
高層ビルの様な巨石達が、ハミルの前に立ちふさがるように聳えていた。
「これ以上の、車で進むのは無理だな。」
ハミルは、装甲騎兵達に徒歩での進行を命じた。
『サマルカンド郊外・小高い丘』
うつ伏せで丘の下を監視しているフィーの機体は柔らかな曲線で構成されており、女っぽさを醸し出していた。その曲線は人だったころのソフィーを完全に再現していた。
デューカは、その機体をチラッと見た。
おもちゃにしてはかなり高価な機体だ。
人だったころと同じ声質のソフィーが言った。
「そうね・・・装甲騎兵の数、ざっと2000から3000。」
「楽勝だな。」
「ここでの作戦は、始まりに過ぎない。」
参謀兵から暗号通信がソフィーの思考回路に届いた。
「・・・アローン兵5000機、配置に着きました・・・」
「・・・了解・・・。」
ソフィーは意思を送った。
「私たちも、行くよ。」
ソフィーとデューカとアローン兵20機は、地面を這うように持ち場へ向かった。
つづく