6話 デューカ、泣く。
それでも、それなのに、
銃撃は、デューカの左腕を吹き飛ばした。
「ぬわー!」
デューカは叫んだ。
吹き飛んだのは、一点ものの高価な左腕を、
さらに自分で、1000年以上試行錯誤を繰り返しながら、
チューニングをしたお気に入りの左腕だ。
それは人間時代を超える最高の腕と言っても良い、
素晴らしい腕だったのに・・・
泣ける、非情に泣ける。
この程度の銃撃は、何度もくぐりぬけて来たのに・・・
ソフィーがいないと、運にも見放されるらしい。
運に見放されたデューカは路地の突っ走った。
再び装甲騎兵が放った銃撃が、
足に当たりデューカは、路地に倒れこんだ。
「なんでやねん!」
自分の不運に嘆いた。
しかし・・・しかし!
倒れこんだすぐ目の前に、
鎖が「ガチャン」と音を立てて投げ込まれた。
「そいつに捕まれ!」
誰かが、電子音で叫んだ。あえて加工しているのだろう。
大昔のテクノ音楽を思い出した。
経験上、あえてこんな加工をしている奴が、
まともであった試がない。
しかし・・・躊躇ったのは、一瞬。
デューカは、残った右手でその鎖を掴んだ。
路地の先でバイクのモーター音が響き渡り、
路地裏の先にいるであろうバイクが、
西部劇の様に鎖に捕まったデューカを引きずった。
鎖を離せば背後に装甲騎兵、
引きずられれば地面との摩擦で機体はぼろぼろ。
「誰か知らないが、もうちょっとましな助け方があるだろうが!」
それでも、デューカは鎖を必死に捕まえ、
そして地面を引きずられた。
長年連れ添ったデューカの機体が、
一つそして一つ、剥がれ落ちて行った。
想いでの詰まった機体の破片が、
路地裏にゴミのように散らばっているのが、
ちらりと見えた。
「うう・・・」
泣けた。
『首都郊外・森林地帯』
森林をそよぐ冷たい風は、
とても清らかで気落ちの良い風だった。
「あの人類に似た生命体がいない以上、
首都に向かっても仕方ない。」
ソフィーの声は、清らかな夜空に馴染んだ。
「如何いたします?」
青い視野レンズの参謀の声も、清らかな夜空に馴染んだ。
民衆に慟哭を引き起こす、
恐怖のアローン参謀兵の声なのに・・・
ソフィーと一緒にいると、周囲の存在は、
ソフィー寄りの存在へと、少しずつシフトする。
例えそれが命のない機械だとしても。
「命のない機械だとしても・・・」
ソフィーは、じっと夜空を眺めながら呟いた。
自分で呟いて置きながら、居た堪れなくなった。
その言葉から、逃避するように、
ソフィーは人類の事を考えた。
そして、参謀に告げた。
「私は人類を追って宇宙へ行きたい。」
私は、まだ命のある人類に会いたい。
つづく