4話 愛おしい者との記憶
鍾乳洞の中は、膝まで地下水が流れていた。
有機生命体に取って、欠かせない水も、
アンドロイドに取っては、
機械に異常をきたす湿気の元に過ぎなかった。
デューカの背後から、
装甲騎兵の鍾乳洞内を駆ける足音が近づいてきた。
その音に、デューカの心の奥から、
否定しがたい感情が沸き起こってきた。
「・・・死への恐怖?
消え去ることに対する恐怖か?
何故、消え去ることに恐怖する?
ただ消えるだけだろ?
データが消えるだけだろ?
そもそも生きてると言えるのか?俺は?」
デューカはその理解しがたい感情から、
必死で遠ざかろうとするかのように、
前方を走る味方と思われる機械の足音を追った。
デューカの背後では、
装甲騎兵の機銃の銃声が響き渡っていた。
足元で弾丸が乳白色の柱と水面を、弾き飛ばした。
慌てたデューカは足を滑らせ、
予想以上に激しく流れる水とともに、
闇に隠された絶壁の下へと落ちていった。
「でも・・・愛おしい者との記憶は、消されたくない・・・。」
と、頭部の記憶装置を守ろうと右往左往するが、
それも空しく音を立てて、地底湖らしき所へ落ちたらしい。
地底湖に沈み始めたデューカは、
自らの身体の防水機能について考えた。
「えーと・・・防水ってなんだっけ・・・」
機械の身体が溺れ行く危機の中で、
デューカの混濁した意識に、声が聞こえた。
「意図的に消されたんだよ、我々の記憶は・・・」
つづく