20話 異なる生命体同士の同盟
この状況に飽きて踊りだすあゆみとバイカルを、横目に機械ネズミは、調印書に目を通した。
「それなのに、銀河連邦はこの太陽系に関与しないと?」
機械ネズミの問いに、青銅の生き物は少しだけ時間を空けて、
「銀河連邦元老院の一部は、この太陽系のアンドロイドたちの背後に、銀河帝国の影を感じているのでしょう」
この太陽系は、銀河系の辺境に位置する。
ゆえに連邦と帝国の影響は少ないと、機械ネズミは考えていたのだが、意外な展開に、今度は機械ネズミが、少しだけ時間を置いた。
何かの争いに巻き込まれたのか?
機械ネズミは考えて見たが、5000年も前だし、銀河連邦や銀河帝国の情報はないに等しい。
銀河連邦と銀河帝国の何らかの抗争に巻き込まれて、1つの太陽系の文明が滅ぼされる事は、ない話ではない。
機械ネズミが青銅の生き物に視線を送ると、彼は話し始めた。
「ゆえに異なる生命体同士の同盟は、この銀河を生きる上で必須と言えるでしょう」
調印書には【義勇軍】と記されていた。
「義勇軍?」
「そうです。あなたがたとの同盟を、銀河連邦としては推奨しない。しかし、反対もしないと言う立場です」
秘密結社のサイン・コサイン・タンジェント。
若干、ふざけた名前の組織と同盟を結ぶ。
機械ネズミには、想定外の事が多すぎて、思考が及ばない。
青銅の生き物は、万年筆を機械ネズミに渡した。
この同盟を自分が決めて良いのか?
秘密結社のサイン・コサイン・タンジェントの幹部である機械ネズミには、その権限がある。
秘密結社のサイン・コサイン・タンジェントは、トップダウンではなく、スタンド・アローン・コンプレックスな組織だ。
機械ネズミは考えた。
義勇軍と言う不安定な存在との同盟を、自分が決めて良いのか?
少なくともあの苔玉星人にしろイルカにしろ、悪意は感じない。
「そうですね」
機械ネズミは、自分自身に言い聞かせた後、調印書にサインをした。
その横で、機械猫たちは、水槽のイルカたちを眺めていた。
10章 時の記憶 完
11章へ つづく