10話 貴公の訪問を歓迎します。
機械ネズミは鏡の様の地面に耳を着け、内部の音を探った。
「これは海の音か?少なくとも水がこの内部には存在している!」
その機械ネズミの知己に飛んだ視線とは逆に機械猫たちは、ぼーっとしていた。
「おい猫ども!この状況にもう飽きたのか!危機的状況だぞ!」
「飽きたって言うか、省エネモードに入ったるだけだ」
『無心って奴だな』
「省エネモードって、なんか気持ちいいよな」
『それな』
「何もしないことが、何かをしてることになるって良いよな」
『俺たち何もしてないのに、大活躍してんだもんな』
「なんか違うと思うぜ、その考え方」
機械ネズミは機械猫に構うのを止めて、時計の惑星の内部を探った。
ぼーっとしたままの、機械猫たちは、ぼーっとしたまま話した。
『時計の星の中に海か』
「準惑星の大きさだ、海があってもおかしくはないわな」
『海があるって事は、何らかの生態系が存在しているのかも』
「生態系かぁ今度は何の生き物だろう。すでに苔の知的生命体がいたからな」
『苔な、あれは想定外過ぎたな』
時計の惑星ゲートが開かれ、シュガーコートの操舵する宇宙船は、この時計の惑星の宇宙港に入港を始めた。
「これはわたくしの、わたくし自身による、わたくしの為の冒険でございます」
シュガーコートは1人呟いた。
異なる知的生命体とのファーストコンタクトの重要性は、良く知っている。
「わたくしに出来ますでしょうか?」
時計の星のゲート内は、まるで懐中時計のように磨かれていた。
ガラス越しに、高層ビルほどの大きな歯車が動いていた。
間違いなく宇宙港のゲートの開閉と連動している。
シュガーコートの情報量では、わざわざ歯車形式にするのに、どれだけの金額になるのかを、想像も出来なかった。
宇宙船の無線回線が受信を確認した。
「ようこそ時計の惑星へ、貴公の訪問を歓迎します」
と感情の籠っていない音声が届いた。
宇宙港管理タイプのAIだろう。
シュガーコートよりかなり高価だ。
シュガーコートは管制に従い、宇宙船停泊ゾーンに進んだ。
宇宙港のガラス越しに、宇宙港の外に地上が見えた。
「小惑星を組み合わせて、作ったのかな?」
つづく