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『遠い星の話』  作者: 五木史人
10章 時の記憶
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7話 熱狂と反動と



本物の猫の為に作られた酸素室より、あゆみとバイカルの背負った猫の宇宙用キャリーバックの方がお気に入りの様で、ずっと猫はキャリーバックの中に入ったまま、時計の星へと到着した。



「阿吽たちの好意をものともせず!さすが猫!」


あゆみは何気に嬉しくなった。


『阿吽たちには猫は気に入ってたよ!と言っとこう』




一行は、時計の惑星の裏側に周り、再び時計の惑星に降り立った。



「で、どうするんだ?」


元の場所に戻って来るなり、アルバムさんが聞いてきた。



猫は連れてきた。


猫が鍵だと言うのは、あゆみが言った事だ。



それなのにあゆみは、


「で、どうするんだ?」


とアルバムさんに聞いた。



「いや、お前が【あの猫がIDでありパスワードなんだ】って言ったから、猫を連れて来たんだろうが!」



「俺は閃く係、アルバムさんは考える係、だよなバイカル」


『ああ、その通りだ』



「なんだよそれ!」



「俺たちはチームだ。チームとはそう言うものだ!」


『さあシンキングタイムだ。アルバムさん』



そう言うと機械猫たちは、踊りだした。


多分、シンキングタイムダンスなのだろう。



ダンス自体はやたら可愛い。



ずっと地下の秘密基地で、一匹で生活していた機械ネズミにとって、頼られる事は心をくすぐられた。



「仕方ない」


無茶苦茶だが、機械ネズミのアルバムさんは考えた。



あゆみの直感が正しいと仮定して・・・


生きてる猫がIDでありパスワードであると、仮定すると・・・


なぜ、生きてる猫がIDでありパスワードであり得るのか?



キャリーバックの中の猫は、機械ネズミを見つけると、


「にゃーにゃー」


と騒いだ。



「明らかに獲物を見る目だが、良い鳴き声だ」


機械ネズミは呟いた。



そして、楽しそうにシンキングタイムダンスを踊る機械猫たちを見た。



何となく思考も弾む気がした。



そうだ・・・



この太陽系では、誰も本物の猫の鳴き声を知らない。


情報としては残っているが、その音声は加工されたモノだ。


生の鳴き声ではない。


情報を保存する為に、デジタル化され何度も加工された技術だ。


その過程で発生するデジタル化の癖のような物は、消すことは出来ない。



だとすれば、生の鳴き声は、IDやパスワードとして、価値があるのではないのか?



この時計の惑星の中の連中が、生の猫の鳴き声を認識出来る、と仮定すれば・・・


あゆみの直感が正しければの話だが。



その結論が出た頃、機械猫は壊れたんじゃないかと思う程、踊り狂っていた。



「おい答えが解ったぞ」


機械ネズミが言うと、機械猫たちは踊りを止めた。



「俺ら何やってるんだろう?」


『踊りに魂が籠ってないんだよな』


「そう・・・薄っぺらい、まるで壊れた玩具だ」


『だな』



と機械猫たちは、熱狂の反動で堕ちてしまった。



「面倒な奴ら」


機械ネズミは愚痴り、


「壊れた玩具か」


と呟いた。



そして鏡のような大地を見渡した。



「こんな人工的な時計の星の上で、壊れた玩具のような俺は、一体何をやってるのだろう?俺は5000年前に死んだはずなのに・・・」



機械ネズミは、堕ちた機械猫に引きずられて、自分も堕ちてしまった。




つづく


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