7話 熱狂と反動と
本物の猫の為に作られた酸素室より、あゆみとバイカルの背負った猫の宇宙用キャリーバックの方がお気に入りの様で、ずっと猫はキャリーバックの中に入ったまま、時計の星へと到着した。
「阿吽たちの好意をものともせず!さすが猫!」
あゆみは何気に嬉しくなった。
『阿吽たちには猫は気に入ってたよ!と言っとこう』
一行は、時計の惑星の裏側に周り、再び時計の惑星に降り立った。
「で、どうするんだ?」
元の場所に戻って来るなり、アルバムさんが聞いてきた。
猫は連れてきた。
猫が鍵だと言うのは、あゆみが言った事だ。
それなのにあゆみは、
「で、どうするんだ?」
とアルバムさんに聞いた。
「いや、お前が【あの猫がIDでありパスワードなんだ】って言ったから、猫を連れて来たんだろうが!」
「俺は閃く係、アルバムさんは考える係、だよなバイカル」
『ああ、その通りだ』
「なんだよそれ!」
「俺たちはチームだ。チームとはそう言うものだ!」
『さあシンキングタイムだ。アルバムさん』
そう言うと機械猫たちは、踊りだした。
多分、シンキングタイムダンスなのだろう。
ダンス自体はやたら可愛い。
ずっと地下の秘密基地で、一匹で生活していた機械ネズミにとって、頼られる事は心をくすぐられた。
「仕方ない」
無茶苦茶だが、機械ネズミのアルバムさんは考えた。
あゆみの直感が正しいと仮定して・・・
生きてる猫がIDでありパスワードであると、仮定すると・・・
なぜ、生きてる猫がIDでありパスワードであり得るのか?
キャリーバックの中の猫は、機械ネズミを見つけると、
「にゃーにゃー」
と騒いだ。
「明らかに獲物を見る目だが、良い鳴き声だ」
機械ネズミは呟いた。
そして、楽しそうにシンキングタイムダンスを踊る機械猫たちを見た。
何となく思考も弾む気がした。
そうだ・・・
この太陽系では、誰も本物の猫の鳴き声を知らない。
情報としては残っているが、その音声は加工されたモノだ。
生の鳴き声ではない。
情報を保存する為に、デジタル化され何度も加工された技術だ。
その過程で発生するデジタル化の癖のような物は、消すことは出来ない。
だとすれば、生の鳴き声は、IDやパスワードとして、価値があるのではないのか?
この時計の惑星の中の連中が、生の猫の鳴き声を認識出来る、と仮定すれば・・・
あゆみの直感が正しければの話だが。
その結論が出た頃、機械猫は壊れたんじゃないかと思う程、踊り狂っていた。
「おい答えが解ったぞ」
機械ネズミが言うと、機械猫たちは踊りを止めた。
「俺ら何やってるんだろう?」
『踊りに魂が籠ってないんだよな』
「そう・・・薄っぺらい、まるで壊れた玩具だ」
『だな』
と機械猫たちは、熱狂の反動で堕ちてしまった。
「面倒な奴ら」
機械ネズミは愚痴り、
「壊れた玩具か」
と呟いた。
そして鏡のような大地を見渡した。
「こんな人工的な時計の星の上で、壊れた玩具のような俺は、一体何をやってるのだろう?俺は5000年前に死んだはずなのに・・・」
機械ネズミは、堕ちた機械猫に引きずられて、自分も堕ちてしまった。
つづく