15話 人としての思考と人格形成を失ってしまう事
目の前にあるのが、秘密基地のドアだ。
そりゃあ秘密基地だし、本来なら合言葉的な物を言えば良いのだが、ドアの前であゆみは、少し考えた。
「何だっけ?」
とバイカルに聞いても
「合言葉って何だ?」
となるだけだったし。
「まあ、いっか」
とあゆみは、配線穴の奥にある秘密基地のドアをノックした。
「誰だ?」
ドアの向こうからすぐに声がした。
仕方ないので、
「猫だ」
とだけ、するとドアの鍵が開く音がした。
『って大丈夫か、ここのセキュリィティーは』
と白虎バイカルも驚くくらいのセキュリィティーの低さだった。
まあ、機械猫が通れるくらいの小さな横穴だし、人型の治安部隊が突入してくる事はまずない。
ドアを開けると、意外と綺麗な部屋があり、テーブルの上にはネズミが2本足で立っていた。ネズミと言ってももちろん機械だ。そしてもちろん元人間だ。
テーブルの上には、まるでミニチュアドールハウスのようになっていて、多分この機械ネズミの生活圏なのだろう。
こいつは人間の時から、ミニチュアドールハウスに住みたかっのかも知れない。
そう思える程、可愛らしいミニチュアドールハウスだった。
『あいつ名前はなんてったけ?』
『俺が知るかよ』
あゆみは軽快に声を掛けようとしたが、バイカルに聞いても無駄だった。
まあ機械猫なんてそんなもんだ。
どこか思考回路の奥を探せばあるのだろうけど、整理整頓されてない記憶なんて、砂漠の中の宝石だ。
それにしても、機械ネズミは小さい。
元人間が機械猫になるのも問題だが、元人間が機械ネズミになるは、もっと問題が合った。
それは記憶装置の容量の問題だ。
人型のアンドロイドが搭載できる記憶装置に比べて、機械猫はその容量が少なくなってしまう。
それは人としての思考と人格形成に影響する。
それを防ぐために高価格高性能でコンパクトな記憶装置を、機械猫たちは使用している。
人としての思考と人格形成を失ってしまう事。
機械猫になったとはいえ、それは譲れなかった。
機械猫たちでさえ限界を感じているのだが、機械ネズミはその限界を超えているんのだ。思考回路があり得ないくらいの小ささだ。
人類時代の記憶は、別に外部記憶装置にあるのだろうけど。
あゆみとバイカルは、会った事はないのだが、元人間のカブトムシやクワガタなんてのもいるらしい。まあ5000年前に、終わってる生命体だし、仕方ないか。
機械ネズミは軽快にタップダンスのステップを踏むと、
「よう猫、久しぶりだな。あゆみとバイカルだっけ?」
機械ネズミは言った。
あれ?俺らの名前覚えてる?
あれ?俺らより賢い?
あゆみとバイカルは目を合わせた。
『大丈夫だ』
とバイカルは言ったが、何が「大丈夫」なのかは不明だった。
『まあいい』
とあゆみは言ったが、何が「まあいい」のかは不明だった。
つづく
機械の猫たち
【あゆみ】元人間のカラカルの機械猫。自称エースパイロット。
【バイカル】人見知りの激しい虎型アンドロイド。元々は白虎。
機械のネズミ
【アルバム】機械猫より賢そう。