9話 機械の猫の愛が止らない!
にやけるカラカル機械猫のあゆみに、白虎のバイカルはぼそぼそと何かを言った。
『あゆみ落ち着いて。交渉は最初が肝心だ。人類との約束を思い出せ』
白虎は多分、そんな事を言ったのだろう。
あゆみと白虎バイカルとは、付き合いが5000年にも及び大体解る。
5000年前に人類と交わした約束。
「5000年も前の約束だろ。それにしても、本当に帰って来るとは(笑)」
白虎バイカルも背中で笑った。
『約束は希望。それがなければやってられない』
白虎は多分、そんな事を言った。
自己中な機械の猫のくせ、5000年も律儀に覚えていたのは奇跡だろう。
管制室のスクリーンには、占拠された人類の宇宙船が映し出されていた。
カラカル機械猫のあゆみが、宇宙港に呼ばれたのは、人類との交渉を任されたからだ。なのに機械の猫たちが勝手に宇宙船を占拠してしまっていた。
「どういうつもりだよ」
カラカル機械猫のあゆみは、白虎バイカルに愚痴った。
白虎バイカルは首を傾げた。
「これだから猫は、自分勝手だって言われるんだ!」
この太陽系の機械猫たちにとって人類は重要なカードのはずだ。
管制室のメインカメラに、人類の沙羅と知佳が映し出された。
情報ではあの娘が交渉相手らしい。
カラカル機械猫のあゆみは交渉手段を考えながら、じっと見つめた。
画面の中で知佳が新体操のこん棒を投げたりしながら、踊っていた。
くるくる回るこん棒と可愛く踊る人類の少女に、あゆみの心は踊った。
くるくる回るこん棒。
可愛く踊る人類の少女。
くるくる回るこん棒。
可愛く踊る人類の少女。
それが猫心を刺激しすぎたのかも知れない。
「可愛い、そして楽しい!そして、めっちゃ愛おしいー」
機械の猫のあゆみは絶叫した。
『ちょっと待て』
白虎が振り向くとすでに、カラカル機械猫のあゆみは管制室から飛び出し走り去っていた。
「可愛く楽しい人類よ!これが人類愛と言うのであれば!
ぼくの愛を受け取ってください!もうぼくの愛は止められない!」
あゆみは、狭い機械猫専用通路を駆け抜けた。
☆彡
宇宙には色んな生命体がいる。
人類を含め、哺乳類に爬虫類は昆虫類、機械生命体に金属生命体にプラズマ生命体。
霊体オンリーなんてのもいる。
銀河連邦に登録されているだけで、12000種類はいるらしい。
そして、初めて出会った異種との初交渉が大切なのは、銀河連邦内では常識だ。
もちろん、宇宙時代を生きている14歳の沙羅も12歳の知佳も知っていた。
今、人類にとって機械猫が、重要な交渉相手である事は間違いない。
「猫ちゃん出ておいで♪」
箱の中に潜りこんだまま出てこない機械の猫に、沙羅は声を掛けた。
でも、これから起こる事は、必然だったのかも知れない。
何もない壁に穴が突然開き、機械の塊が雄叫びを上げながら飛び出してきた。
「沙羅ちゃん!危ない!」
宇宙船に乗って以来、戦闘民族として目覚めつつあった知佳は、持っていた新体操用のこん棒で、機械の塊を撃ちかえした。
芯を捕らえたその打撃は、機械の塊を大きく吹き飛ばした。
「にぎゃああああああああ!」
予想外の出来事に、機械の塊は絶叫した。
つづく
人類たち
【沙羅】この惑星に漂流してきた人類の少女14歳。錬の兄が好き♪
【錬】ゲーム好きな人類の少年13歳。
【知佳】躍るのが好きな12歳の少女
【あゆみ】元人間のカラカルの機械猫。自称エースパイロット。
【白虎のバイカル】人見知りの激しい虎型アンドロイド。宇宙港管制官。