13話 記憶保持者の消去依頼?
『首都・記憶図書館最深部』
青い視野レンズの参謀兵は、ソフィーから譲り受けた感情ファイルを自身の思考回路にインストールした。
一般的感情がないと、一般的なアンドロイドと接する際に不都合があるからだ。
心配なのは感情故に、戦闘力が低下する可能性だ。
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インストールを終了したが、今のところ変化はない。
参謀兵は、思考回路内の情報を見渡した。
>問題ない
そして、鏡に映る自分をチラッと見た。
鏡の中の自分は、清涼感のある制服を着ていた。
記憶図書館司書は、一般の図書館と違い、きちっとした制服を着ていた。
参謀兵は戦闘兵器とは思えないその姿に、気恥ずかしさを感じた。
「感情故なのか」
そう思った直後、思考回路表層に突然現れたソフィーの感触に慌てた。
ソフィーの感触が思考回路中に充満していった。
上品で優しい感触。
参謀兵が人間ならば、A10神経をドーパミンが駆け巡り「快感」もしくは「幸せ」と表現をしただろうが、彼の自意識はそれを認識出来るほど、人間的では無かった。
青い視野レンズの参謀兵の、思考回路に鮮明に映ったソフィーは高めのトーンで、
「元気?」
と明るく聞いてきた。
絶対服従な命令しか受け取ってこなかったアローン兵の参謀への挨拶としては、あまりにも場違いな言葉に、バグを起こしそうになった。
参謀兵が、かろうじて
「はい」
と答えた。
「仕事は進んでる?」
「はい、現在、人類当時の消去された情報の登録ナンバーを洗い出しました。
人類時代の記憶の消去された情報は、全体の31%」
「約31%も!」
「その消去理由の内訳は、約15%が記憶保持者の消去依頼によるものです」
「記憶保持者の消去依頼?」
「精神的トラウマを起こす可能性のある記憶に関しては、記憶管理局に申請を出し、申請が通れば消去が可能な様です」
ソフィーは、その話をどこかで聞いた事を思い出した。
たいていのアンドロイドは、申請の面倒さと人類時代の記憶の貴重さを考えて、見向きもしなかった。
「私だって、消したい記憶が無い訳じゃないけど、嫌な事を忘れて楽しい思い出だけで、生きるなんて。
でも、記憶消去理由の約15%もあるとはね」
ソフィーと参謀兵の間に、数十秒の沈黙が流れた。
まだ間の感覚が理解できない参謀兵が、話す気配が無いのでソフィーは
「続けて♪」
と促した。
つづく
【ソフィー】アローン兵と唯一リンクするアンドロイド 人類だった頃は女性
【青い視野レンズの参謀兵】ソフィーに忠誠を尽くす参謀兵(優先順位1)