12話 黄昏る青い街
『西都・サマルカンド』
太陽系最大の企業集団・鉱物資源企業団公社の城下町として栄えた西都・サマルカンド。
そのサマルカンド市民に取って、内務省治安部隊を撃滅し、鉱物資源企業団公社ビルを占拠した、ソフィーとその配下のアローン兵の存在は、極めて不可解な存在に思えた。
ソフィー自身は、そのスレンダーな身体と洗練された顔立ち、内面から溢れてくる様な優しさによって、見るものに安らぎを感じさせた。
しかし、ソフィーの周囲を固めるアローン兵の、威圧的な機体と冷酷な表情は、サマルカンド市民の記憶装置の奥から恐怖を呼び起こさせた。
アローン兵は内務省、そして内務省を裏で操る評議会議長の、無慈悲な体現者そのものだった。
実際、過去の歴史に置いて、アローン兵によって、多くの市民が記憶もろ共粉砕されて来た。
ソフィーの周りをうろつくデューカとか言うアンドロイド。
このアンドロイドに関する市民の評価は、可も無く不可もなく、デューカには残念だが、誰も興味を示さなかった。
デューカは、朝からずっと流れている報道を見ながら
「適当な事ばかり言いやがって!」
と吠えた。
ソフィーによる、鉱物資源企業団公社ビルを占拠以後、ソフィーが敵か味方が判断できずにいた民兵組織は、静かになりを潜めていた。
噂では10万機は言われるアローン兵に一瞬で粉砕されることを恐れたためだ。
10万機は、誇張された噂に過ぎないのだが。
『サマルカンド・鉱物資源企業団公社ビル・最上階会議室』
ソフィーとデューカは最上階から、サマルカンド市内を見下ろしていた。
デューカは
「今まで、地下で行動しすぎた分、突然、こんな明るい場所に出るとキツイな・・・
サマルカンドの報道局は、俺達がサマルカンド市を乗っ取ったみたいな事、言ってるし・・・
どうする?なんか、えらい事になってしまったな。」
と言って、黄昏る様に街を見下ろすソフィーの横顔を見た。
その横顔を見ながらデューカは、5000年前の人だった頃の、ソフィーを思い出した。
そして、「あの頃と変わらない横顔」と思考回路の奥で思った。
ソフィーは声になるかならないかの声で
「うん」
と返事をした。
この境遇の変化に、ソフィーの思考回路は混乱していた。
思考回路を、複雑な方程式が「答を早く出せ!」と喚き散らしているように思え、目を背けたくなる。
ソフィーは、会議室の窓から離れ、ゆったりとしたソファーに座ると目を閉じ、五感を完全に遮断し、無音の闇の中に、自分の意識を浸した。
思考回路の奥にある青い視野レンズの参謀兵のフィルを開き、今となっては懐かしさすら感じる、青い視野レンズの参謀兵にアクセスした。
つづく
【ソフィー】アローン兵と唯一リンクするアンドロイド
【デューカ】ソフィーと同じ職場で働いていた同僚
【評議会議長】 人類及びアンドロイド内の人類の記憶を消そうと企む
【青い視野レンズの参謀兵】ソフィーに忠誠を尽くす参謀兵(優先順位1)
機械兵には禁止されている人工知能を、獲得しつつある。