11話 熱帯魚がまさに生き生きと泳いでいた
『首都・評議会議長室』
評議会を一時休廷させた、議長が議長室に戻るに、主席秘書官のリサは報告した。
「アントンにて、人類及びその宇宙船の確保が完了した模様です」
「こうも簡単に・・・人類とはなんと愚かで欲深い生き物だ。嘆かわしい。
その愚かさによって、自ら築いた文明すら破壊してしまった」
議長は、失笑から微笑に表情を変え、水槽の熱帯魚に餌を与えた。
陸上の動物は絶滅に追い込まれたが、水に守られた水中の生物は生き残る事が出来た。
>生き物は良い。
リサの思考回路の奥で思考した。見ていると心が躍る。
水草が大量に入った大きな水槽の中では、熱帯魚がまさに生き生きと泳いでいた。
議長も言葉にはしないが、その表情から同じ気持ちだと言う事は解った。
「魚の方が可愛げがある分ましだ。
人類は知能がある分、俗悪さも過剰になる。
未だにアンドロイドの記憶回路の中にある、俗悪な人類の記憶が残っていること自体、文明社会の恥に等しい。
忌々しい人類の記憶などすぐにでもこの星から消し去りたいところだが、その前に・・・カーンはどうなっている?」
「『サマルカンド封鎖完了』と連絡が入りました」
「アレム神父と総裁を評議会の証人喚問のに出廷させる。
そのシナリオをすぐにシンクタンクに思考させろ」
「はい」
「多少大袈裟にしてもかまわん。
いや、むしろ大袈裟の方がより説得力を持つ。
奴らの悪行の数々を惑星中に知らしめるのだ。
人類の俗悪な記憶に引きずられた連中の信頼を、まとめて失墜させるのだ」
「はい、俗悪な人類の記憶諸共葬り去らせます」
独裁者の議長の前だから、口に出た言葉ではない。
リサの本心から出た言葉だ。
俗悪。人類を一言で語るのに、これほど適切な言葉はない。
リサの記憶装置の奥で、俗悪な時代の記憶は、何度も繰り返し流れた。
機械となった今でも、忘れる事がない屈辱。
>俗悪な人類の時代。
それを消し去り、清浄な世界を取り戻す日があると、議長は言った。
この惑星では、人類時代に哀愁を覚える層と、人類時代を俗悪と感じる層の解離は、日々酷くなっていった。
つづく
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