8話 ただ地味で無口な女子
『宇宙ステーション・アントン』
「水と食料の搬入の準備が出来ました。
我々から伺いますか?
それともあなた方がこちらに来ますか?」
映像無線から、ニヤけたヤーシャが聞いた。
「こちらから伺います」
沙羅は返答した。そして
「錬も宇宙服着て、一緒に来て」
「えー!?」
錬が即答で拒否ると、知佳の視線を浴びた。
表情はなく、何を思っているのかは解らなかったが、全開のおでこが光を反射して輝いた。
錬はそのおでこをひと目見た後に、知佳と視線を交わした。
知佳は視線を逸らすことなく、錬の目を直視していた。
錬はその直視の意味を探ったが、解答は見つけさせなかった。
僕は、知佳の視線に、一体何を求めているのだろう?
「さあ、行くよ、錬」
結局、錬は沙羅の言葉に従った。
気密室で空気を抜くと、2人はふわりと無重力空間に浮いた。
バランスを崩した錬の手を、沙羅が握って引き戻した。
星を追われ、難民キャンプを逃げ出して以来ずっと、錬は1つ年上で14歳の沙羅に助けられてばかりいた。
錬は何も出来ない自分に苛つきつつ、沙羅に小声で
「ありがとう」
と、ひとり言の様に言った。
聞こえたのか、沙羅は優しく微笑んでくれた。
『宇宙港』
沙羅と錬が宇宙船外に出ると、早速、鷲の紋章を誇らしげにつけたレッドイーグルが近づいて来て
「ご案内します」
と言うと沙羅と錬を囲んだ。
宇宙船の窓から子ども達が、心配そうに見つめていた。
沙羅は「大丈夫だよ」と子供たちに笑顔で手を振って見せた。
錬が知っている沙羅は、こんなに世話好きで優しいイメージはなかった。
ただ地味で無口な女子。
つづく
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【人類たち】
沙羅14歳
錬 (レン)13歳
知佳12歳
【宇宙ステーション・アントンのクルー】
ケイ 管理官
ヤーシャ ケイの側近
レッドイーグル隊 鷲の紋章を付けた精鋭