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ヤギとヤギ飼い


ヤギ飼いは苦悩している。彼のヤギを殺して燃やさなければならない。


彼はヤギ飼いなのだから、ヤギがいなければならない。だが、彼のヤギは殺され燃やされなければならないのだ。

彼にヤギがいなければ彼はヤギ飼いとして生きていくことはできない。だが、彼はヤギ飼いとしての生き方しか知らず、ヤギ飼いとして生きていく事しかできない。だから、彼はヤギがいなければ生きていく事が出来ない。しかし、彼のヤギは殺され燃やされなければならないのだ。

それは決して避ける事は許されない、決定した事実だ。だが、ヤギを殺して燃やすことは、彼を殺して燃やすこととと同じことなのだ。

つまり、彼は自分を殺して燃やさなければいけないのだ。




ヤギ飼いのヤギは何も考えていない。ただ、ヤギであるだけである。ヤギはヤギなのだから、ヤギはヤギであるヤギをヤギとしてヤギであり続けるだけである。


だが、ヤギにとって大切なのはヤギである事ではない。目の前の草を喰らう事である。狼に喰われない事である。子孫を残す事である。その為には、必ずしもヤギがヤギであり続ける必要性はない。

だが、ヤギはヤギである事を疑う意義がない程度にヤギであり、ヤギでしかなく、ヤギ以上でも以下でもなく、ヤギである。ヤギにとって、ヤギ飼いが何を考えているのかという事など、取るに足らない事である。ヤギ飼いが何を考えていようと、ヤギがヤギであるという事実は変わらないからだ。生殺与奪の権利など、気にするだけの価値もない。生きようが死のうが与えられようが奪われようが、ヤギはずっとヤギのままだからである。ヤギはヤギである限りずっとヤギである。




ヤギ飼いはヤギを殺した。ヤギは死んだ。

次にヤギ飼いはヤギを燃やそうとしたができなかった。ヤギ飼いはヤギを燃やすための薪も炭も火も持っていなかったからである。

しかし、殺されたヤギをそのまま放っておくわけにはいかない。ヤギを殺して燃やさなければならないと決まっていたからである。

彼はヤギを殺したのだから、今度は燃やさなければならない。燃やさなければならないのだ。殺しただけではいけない。それでは意味がない。


殺されたヤギは燃やされなければならない。





ヤギはヤギである。生きようが死のうが、殺そうが殺されようが、ヤギはヤギである。ヤギがヤギである事は変わらない。ヤギはヤギだからだ。ヤギがヤギでなくなるのは、ヤギが完全にヤギではないものになったときである。それまではずっとヤギはヤギのままだ。

だが、ヤギがヤギでなくなっても、ヤギがヤギであったことに変わりはないし、それはヤギだったのである。




ヤギ飼いはヤギを殺して燃やした。

ヤギを持たないヤギ飼いはヤギ飼いではなくなった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初の一文が読者の読欲を高めれている、と思う。 [気になる点] 短編であるこの小説に「ヤギ」が50回以上出て来てますけど、多すぎるのでは? あまりにも「ヤギ」が出てくるので、読んだ後、頭…
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