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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

死神の鎌

作者: ひろ
掲載日:2026/10/05

 夜中3時、人気のない時間を選ぶようにして、その男は交番を訪れた。




 「ごめん下さい。夜分に申し訳ございません、少々お伺いしたいのですが?」


 「こんばんは。

 市民のお困りごとを聞くのも私共の役目。時間にしても、皆様のご都合もあることでしょう。気に病むことはございません。

 どうなさいましたか?」


 「なんとも素晴らしい職業意識。

 市民ですらない、しかも今まさに職業意識の欠片もないような失態を犯してしまった私などが、あなた様のような立派な婦警さん...おっと、今は【婦警さん】は不適切ですね。配慮が足りず申し訳ございません齢なもので。あなた様のようなご立派な方のお手を煩わせるなんて、なんと罰当たりなことか。」


 「配慮はするもので強制するものではございません。言い直す時点で既にご立派と存じます。

 そして市民で無くとも、今まさに困られている方の力になるのが私たちの使命です。ためらう必要はございません。お困りごとをおっしゃってください。」


 「なんとあたたかなお心遣い。痛み入ります。

 それではお尋ねいたしますが、鎌の落とし物の届け出はございませんか?」


 「鎌ですか? 草刈り用の?」


 「いえ、もっと大きい。

 そうですね、貴方の背丈くらいある柄に、私の背丈くらいある刃が付いた...、」


 「死神の鎌のようですね。」


 「そうです。まさにそれです。

 実は私、死神を生業としている者なのですが、実は何処かで鎌を無くしてしまいまして。」


 「なるほど。確かに服装が死神のそれですね。『市民ではない』というのも納得です。」


 「私が心配になるほど理解が早くて助かります。

 それで、届いていないでしょうか?」


 「そうですね...、ここだけではなく、他にも照会を掛けてみましたが、届け出は無いようですね。」


 「そうでしたか。

 ああ困りました。あれがないと仕事ができません。」


 「たまには仕事をお休みするのも良いのではないでしょうか?

 リフレッシュ出来ますよ?」


 「前向きな方ですね。しかし私一人が休む事でたくさんの人に多大なご迷惑がかかってしまうのです。」


 「他の方にヘルプを頼んでみては如何でしょうか?」


 「出来ないのです。少なくともこの国の管轄は私だけなのです。」


 「全国に30万人からの仲間がいる私からすると、想像もできない激務ですね。ご苦労さまです。

 ときに、仕事ができないとどうなりますか?」


 「人が死ななくなります。」


 「人口減少問題が解決しますね。」


 「あなた様の前向きな思考は賞賛に値しますが、そう良いことではないのです。

 痛くても辛くても体が動かなくなっても死ねない。これは恐ろしいことですよ。」


 「これは私が浅はかでした。確かに辛いですね、納得です。

 それでは、見つかるまで他の鎌で代用するというのは如何でしょうか?」


 「せっかくのご提案にケチをつけるようで心苦しいのですが、普通の鎌では駄目なのです。【死神の鎌】には特別の力が付与されているので命を刈り取れます。普通の鎌だとただの傷害事件です。」


 「そうなりますと、恐れ入りますが警官としてはそれは看過致しかねますね。」


 「命を刈り取ることは許してくれるんですね。

 それにしても困りました。今こうしている間にも死を待ち望んでいる方がいらっしゃるのに。」


 「確かに辛いですね。

 それでは私も一緒に探しましょう。今日行った場所をしらみつぶしに当たるのです。何処かに置き忘れたのかもしれませんよ。」


 「あなた様の貴重なお時間を拝借することになり、大変申し訳ございません。」


 「私のためでもありますのでお気になさらず。

 では、鎌の特長を詳しく教えていただけますか?」


 「そうですね。

 長さは先程説明したとおり。色は限りなく黒に近いシルバー。柄には精巧な装飾が施されていて、鎌はベルヌーイ曲線を描いていて...」



**********



 「見つかって良かったですね。」


 「ありがとうございます。まさか夕食に立ち寄ったスタバの傘差しに忘れてきていたとは。お恥ずかしい。」


 「人間誰しも間違いはあるものです。」


 「私は人間ではないですけどね。

 その人ならざるものにも暖かい手を差し伸べていただき、感謝の念に堪えません。

 では早速。」


 「あら、私の命を刈り取るのですね?」


 「はい。」


 「仕事が早いですね。」


 「迅速が私のモットーです。

 それなのに...、この度は大変なご迷惑をおかけして、誠に申し訳ございません。

 私が不甲斐ないばかりに辛い思いをさせてしまいました。」


 「気になさらないでください。本来であれば貴方が交番を訪れる少し前、交番襲撃犯に刺された時に私は死んでいたはずでした。

 最後にあなたのお役に立てて良かった。」


 「全く、あなた様という人は、本当に前向きな方だ。

 それでは失礼いたします。」




 ザシュ




 管轄外ではありますが、来世が実り多きものになりますよう、転生課に働きかけておきますね。

 


 それにしても、この世界は惜しい方を亡くしてしまいました。


 鎌を紛失したことで、私の処分は免れません。

 ここはついで。交番襲撃犯の命を刈り取ってしまいましょう。

 死ぬはずでは無い者の命を刈り取るのは服務規程違反ですが、なに、処分が重くなるだけです。


 全く職業意識の低い死神です。婦警さんに怒られてしまいますね、ふふふ。





 この世界が優しさで包まれますように。




おしまい。


トータル44ptもいだだきました!!

ありがとう御座います

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