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推しの引退

「愛佳~、オレンジ切ったよ。食べない?」

「だーっ!! ママ、いま忙しいの、邪魔しないでっ!!」

ドアをノックした母親の方を見向きもせずに、愛佳はタブレットの画面を見つめ続けていた。画面には煌びやかなライトとその中で舞い踊る五人のアイドル達、愛佳の最推しである『FaceToFace』のデビュー5周年の記念ライブの配信公演の真っ最中だ。一秒たりとも目を逸らすわけにはいかなかった。

(あ~、本当に奇跡の五人だわ……。顔、性格、身長、歌声、ダンス。全てにおいてバランスが良くて、パーフェクト。尊みの極地。これ以上のアイドルは居ないでしょ!!)

そんなことを思いながら、鼻息荒く画面を見つめる。理想はライブ会場へ行くことだが、バイトが禁止の高校生活ではそんな贅沢は出来ない。『FTF』が所属するアイドル事務所は若いファンが多いことを知っていて、だからこうやって配信ライブを続けてくれている。愛佳はまだ一度も生のライブを味わったことがないが、画面越しですらこの尊みなのだから、会場で彼らを見てしまったらもう卒倒ものなのではないかと思っている。

特に愛佳の推しなのが、センターで歌い踊っている暁玲人だ。涼やかな顔に浮かぶ王子スマイルは数多の女子を射抜き、しなやかに伸びる体は少年と青年の狭間である年齢独徳の体つきで魅惑的だ。彼が画面に向けて笑顔を見せるだけで愛佳の心臓はバクバクと疾走し、ターンで飛び散る汗が映れば画面越し(そこ)に生きている証を覚えて失神しそうになる。いっそのこと、誰かが作り出した精巧で美しい人形アンドロイドだ、と言われた方が納得できるほど、玲人はアイドルとして完璧なのだ。これで惚れるなという方がおかしい。愛佳は彼のデビューの前からのファンであり、山ほどいる彼のファンの一部だった。だからネットで見る配信は、常にファン同士で繋がりながら視聴している。現に今も、画面越しの玲人の可愛さ、美しさ、男っぽさ、少年らしさ、と言った全ての彼の要素について、萌え語りを繰り広げている。

『ああっ、玲人くん、その角度の流し目ヤバい!』

『指の振り、美しすぎるわ!』

『もうおぐしからして常人と違う!!』

等々。萌え語りの友からは愛佳と同じ熱量の反応が帰ってきていて、愛佳としても存分に推しを愛でることが出来ていた。

「でもまだ五周年だもんね! これから十年、十五年、二十年、って続いて行くんだと思ったら、どんどん大人になってく玲人くんを追いかけられるのは、ファンの幸せの極みだよね!!」

『うん、ホントにそうだね!』

きゃっきゃとチャットで話ながら配信を食い入るように見つめる。そして最後のバラードが終わり、メンバー一人一人からのファンへのメッセージが語られる。玲人が一歩歩み出て、カメラに輝く笑顔を向けた。

『今日まで僕を応援してくれたファンの皆に伝えたいことがあります。僕は今日、この公演をもって……、『FaceToFace』を引退します。五年間、がむしゃらに走り続けてきた。……僕は、普通の高校生になります』

…………。

(えっ?)

何かの聞き間違いだろうか? 今日は4月1日……? エイプリルフールだっただろうか?

愛佳はカレンダーを見た。今日はライブ配信最終日の、8月30日。

「えっ?」

画面の中の玲人は大きな花束を受け取り、そのまま他のメンバーに肩を抱かれながら笑っている。

(えっ?)

あまりに突然のことに、脳みそがついて行かないまま、ライブ配信は終わった。ふとチャット画面を見ると、其処には現実を受け止めた萌え語り友たちの阿鼻叫喚の発言が飛び交っていた。

(…………えっ??????)

そんな中、愛佳は全く現実を受け入れられないでいた。ぽかんと事務所のロゴマークに切り替わった配信画面を見つめ続け、最後までチャットの阿鼻叫喚発言に入っていけなかった……。



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