追放した『泥水』錬金術師こそが国の守り神だった!? 安らぎと水を失い発狂する王様が、玉座から転げ落ちて埃を貪り食うまでの崩壊記録。
CWAVE の第一・第三日曜 21:30-22:00
「みちこの寄り道くまもと話」投稿テーマが「おつまみ」と言うことで、投稿原稿書いてるつもりがこんなストーリになりました。
ラジオで読んでいただくことが目的でもなく、自身の不思議な感覚といただいた「おつまみ」を組み合わせてみました。
ご丁寧にみちこさんが意見までいただいた。
御指摘いただくとは思ってもいませんでした。3遍のストーリを一つにまとめ、記念にアップしておくつもりなのが始まりです。
##第5章 失われた泥水、崩壊する玉座
彼らはまだ気づいていない。
彼らが追い出した「泥水」こそが、この城の平穏を守っていた唯一の防波堤だったということに。
その時、ふとジェラールの脳裏をよぎったのは、昨日追放した男の顔だった。
地味で、冴えない、宮廷錬金術師のリュカ。
彼が毎日、馬鹿の一つ覚えのように大鍋で作っていた、あの奇妙な色のスープ。
『陛下、本日のスープでございます』
『なんだこの泥水は! 見た目も悪い、味も薄い! 二度と余の前に出すな!』
そう言って、嘲笑いながら叩き出した。
だが、今思えば、あのスープを飲んだ後だけは違ったのだ。
即位の重圧で眠れない夜も、あのスープを一口飲むだけで、不思議と泥のように深く眠れた。政敵への疑心暗鬼で胃がキリキリと痛む時も、あの温かい液体が腹に落ちると、「まあいいか」と肩の力が抜けた。
城の者たちもそうだった。
リュカのスープは、宮廷の食堂で誰でも自由に飲めるように置かれていた。貴族も、兵士も、下働きも、皆が仕事の合間にあの大鍋の前に並び、寸胴から立ち上る湯気を胸いっぱいに吸い込んでいたのだ。
(まさか……いや、そんな馬鹿な)
これまでこの国が「清廉潔白の国」と呼ばれ、内乱もなく平和だったのは、ジェラールの父である先王の政治手腕だと思われていた。
だが、実態は違ったのではないか?
そういえば、リュカのスープには常に不思議な「客」がついていたという噂があった。
厨房の奥、湯気の中に浮かぶ、黄金色のフワフワとした毛玉のような何か。
誰も正体を知らなかったが、あれこそが伝説の精霊『水鏡の毛玉』だったのだとしたら?
その精霊は、極上の「安らぎ」を放つリュカのスープを餌とし、その対価として住処であるこの城に清らかな水を湧かせ、人々の負の感情を浄化し続けていた守護神だったとしたら?
リュカを追放したことで、スープの供給が絶たれた。
主がいなくなれば、ペットもいなくなるのは道理だ。
精霊はリュカを追って城を去ったのだ。
水の加護も、心の平穏も、すべてはリュカというたった一人の錬金術師についてきた「オマケ」だったということに、ジェラールはようやく気づき始めた。
「う、うああああ……ッ!」
ジェラールは頭を抱えてその場にうずくまった。
思考がまとまらない。喉の渇きが理性を焼き尽くしていく。
水が欲しいのではない。
あの、すべてを許してくれるような、穏やかな安らぎが欲しいのだ。
――それから、一週間。
栄華を誇った王都は、見る影もなく荒れ果てていた。
水不足による衛生状態の悪化で、城内には鼻をつく異臭が充満している。
残ったわずかな泥水を巡り、高潔だったはずの騎士たちが剣を抜いて殺し合いを演じていた。
ある者は発狂して窓から飛び降り、ある者は幻覚を見て壁に向かって演説を続けている。誰もが疑心暗鬼になり、目は血走り、爪はボロボロになるまで噛み砕かれていた。
玉座の間。
かつて威厳に満ちていたジェラール二世は、焦点の定まらない目で玉座の肘掛けをガリガリと引っ掻いていた。
爪が剥がれ、血が滲んでもやめない。痛みすら感じていないようだった。
「……スープ」
乾ききってひび割れた唇から、掠れた声が漏れる。
「あの……スープを……」
禁断症状だった。
精神を安定させる絶対的な支柱を失った反動で、彼の精神は崩壊寸前まで追い詰められていた。
「リュカを……呼べ……」
ジェラールは虚空に向かって命令した。
だが、誰も答えない。
彼の周りには、もう誰もいなかった。
近衛兵も、大臣も、側近も、皆、水と安らぎを求めて我先にと城から逃げ出したか、あるいは廊下の隅でうずくまって震えているかだ。
「あの泥水を作らせろ……! あれがないと……頭が割れるッ! 死んでしまうッ!」
王の絶叫が、誰もいない広間に虚しく響く。
彼が「無能」と切り捨てた男は、今頃どこかで、あの温かいスープを作っているのだろうか。そう想像するだけで、ジェラールの脳裏には鮮明な後悔と、取り返しのつかない絶望が焼き付く。
「誰か……誰かリュカを連れてこい……!! 国をやる! 王位もやるから!!」
ジェラールは玉座から転がり落ち、冷たい床に這いつくばった。
床の石の隙間に溜まった埃を、スープの粉末かと錯覚して指で集め、口へと運ぶ。
ジャリッとした不快な感触と共に、彼は涙を流した。
「泥水でいい……あの泥水が飲みたいんだぁ……ッ!!」
かつて「泥水」と侮辱したその液体こそが、この国の生命線であり、王の魂を繋ぎ止める聖水だった。
それに気づいた時には、もう全てが手遅れだったのだ。
国中が渇きと狂気に支配される中、追放された錬金術師を連れ戻す術を持つ者は、もはやこの国には一人も残っていなかった。…
ストーリーはどうでしたか?私の創作はまだまだ続くよ。
少しでも楽しんでいただけて、良い暇つぶしになっていたら嬉しいです!
実は、もっとみんなと作品についてお喋りしたくて、ミクチャで平日17時から19時くらいで配信をしてます。ただし、創作優先&リアル優先で、おやすみあり イベント目的じゃないからアイテムいらないよ
感想を聞かせてもらったり、創作の裏話をしたり……そんな双方向のやりとりができるのを楽しみにしています。
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ぜひ検索して覗きにきてくださいね。
それでは、また次のストーリーでお会いしましょう!




