「泥水」スープ、実は伝説の精霊が宿る『飲む精神安定剤』でした。追放された俺は最強のモフモフ精霊と隣国へ。一方、俺を追い出した祖国は心の平穏を失い、崩壊が始まっているようです
CWAVE の第一・第三日曜 21:30-22:00
「みちこの寄り道くまもと話」投稿テーマが「おつまみ」と言うことで、投稿原稿書いてるつもりがこんなストーリになりました。
ラジオで読んでいただくことが目的でもなく、自身の不思議な感覚といただいた「おつまみ」を組み合わせてみました。
ご丁寧にみちこさんが意見までいただいた。
御指摘いただくとは思ってもいませんでした。3遍のストーリを一つにまとめ、記念にアップしておくつもりなのが始まりです。
##第3章 絶望を食む黄金の毛玉と、心洗われる泥水スープ
王都を追放されたその夜。
俺は国境に近い森の中で、小さな焚き火を囲んでいた。
パチパチと薪が爆ぜる音だけが、静寂に包まれた夜の森に響く。手の中には、退職金代わりに持ち出したあの「泥水」スープが入った、使い古しのマグカップ。
それを一口飲んだ瞬間だった。
俺は、気づけばボロボロと涙を流していた。
悲しいのではない。悔しいのでもない。心が、猛烈な勢いで洗われているのだ。
まるで泥だらけだった魂を川に浸し、硬いタワシでゴシゴシと磨き上げられているかのような感覚。汚れが落ちていくたびに、身体の芯から温かい光が溢れ出してくる。
これが、いわゆる「悟り」だろうか。
高僧たちが何十年も厳しい修行の果てに辿り着くという、現世にいながらにして霊山浄土へ至る、即身成仏の境地。
俺はたった今、森の中で焚き火の前で体育座りをしたまま、仏になった気分だった。あらゆる執着が消え、ただ「在る」ことの喜びに満たされている。
ハッとして、俺は震える手の中にあるスープを見た。
見た目は相変わらずだ。ただの根菜と薬草を煮込んだ、茶色く濁ったスープ。
だが、錬金術師としての俺が、素材の声を聴き、無意識に配合していた黄金比。土の養分と水の恵みを最大限に引き出すための、計算され尽くした手順と魔力操作。
それが、目の前に浮かぶこの「毛玉」――いや、ただのモンスターではない。この神々しさは、間違いなく高位の精霊だ。
俺のスープは、この土地の守り神とも呼べる存在を呼び寄せる、極上の触媒になっていたのか。
「お前が……ずっと、俺のスープに宿っていたのか」
俺が問いかけると、空中に浮かんでいた黄金の毛玉はふわりと降下し、俺の肩にポンと乗った。
ずしりと重いが、決して不快ではない。むしろ、分厚い高級な毛布に包まれているような、絶対的な安心感がある。
金色の柔らかな毛並みが頬をくすぐり、脳裏に直接、鮮明なイメージが流れ込んできた。
『ウマイ。オカワリ。ツイテイク』
言葉ではないが、意思は明確に伝わってくる。
どうやら、こいつは俺の――あるいはスープを飲んだ人々の――「負の感情」を極上のスパイスやおつまみとして食らい、その対価として圧倒的な「精神的安定(悟り)」を与えてくれるらしい。
つまり、この毛玉が宿るスープは、ただの栄養補給のための食事などではなく、飲む者の魂の澱みを浄化する「霊薬」そのものだったのだ。
ああ、そうか。
ストンと、腑に落ちる音がした。
だから先代の国王陛下は、どんなに公務で疲れていても、俺のスープを飲むと「憑き物が落ちたようだ」と豪快に笑ってくれたのか。
だから城内の兵士たちは、血生臭い魔物討伐という過酷な任務の中でも精神を病むことなく、いつも穏やかでいられたのか。
俺が守っていたのは、彼らの胃袋だけではなかった。心そのものだったのだ。
「そうか……俺は、無能じゃなかったんだな」
呟いた声が、今度は夜空に吸い込まれず、自分の胸の奥底にしっかりと響いた。
心が軽い。背中に大きな翼が生えたように軽い。
驚くほど前向きな力が、腹の底から湧き上がってくる。
自分を追い出した王への復讐心も、理不尽な扱いへの憎しみもない。ただ、「自分はこれでいいのだ」という確固たる自信だけが、静かに燃えている。
俺は残りのスープを一気に飲み干した。
冷めていたはずなのに、喉を通る液体は熱く、優しく、そして深遠な味がした。土の香り、森の息吹、そして命の輝き。これが「泥水」だなんて、あいつらの舌と目はどうなっていたんだか。
最後の一滴を飲み干した瞬間、肩に乗った毛玉が嬉しそうに『キュゥ』と鳴いた気がした。
俺は立ち上がった。
焚き火を踏み消し、荷物を背負い直す。
背負う荷物の重さは変わらないはずなのに、今の俺には道端の小石程度にしか感じられない。
「行こう、相棒。隣国へ」
俺は木々の隙間から見える、まだ見ぬ土地の方角を見据えた。
この先、どんな困難が待ち受けていようとも、今の俺なら笑って乗り越えられる気がする。だって俺には、この最強の精神安定剤(毛むくじゃら)がついているのだから。
「俺たちのスープを待っている人が、きっといるさ」
俺が力強く歩き出すと、毛玉は肩の上で楽しげに跳ねた。
その背後で、国境の向こう側――俺を追放した祖国の方角から、何かが急速に枯れ果て、崩れ去っていくような不穏な気配が風に乗って漂ってきたが、今の俺にはもう関係のないことだった。...
ストーリーはどうでしたか?私の創作はまだまだ続くよ。
少しでも楽しんでいただけて、良い暇つぶしになっていたら嬉しいです!
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それでは、また次のストーリーでお会いしましょう!




