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「泥水」と罵られ追放された宮廷錬金術師、実は城の水を浄化する要石だった。彼が去った瞬間に王城の水は腐り果て阿鼻叫喚、一方の彼はついてきた精霊たちと黄金のスープ屋を始めます

CWAVE の第一・第三日曜 21:30-22:00

「みちこの寄り道くまもと話」投稿テーマが「おつまみ」と言うことで、投稿原稿書いてるつもりがこんなストーリになりました。

ラジオで読んでいただくことが目的でもなく、自身の不思議な感覚といただいた「おつまみ」を組み合わせてみました。

ご丁寧にみちこさんが意見までいただいた。

御指摘いただくとは思ってもいませんでした。3遍のストーリを一つにまとめ、記念にアップしておくつもりなのが始まりです。


プロローグ1 泥水スープと呼ばれた宮廷錬金術師の静かなる退場


 新国王アレクセイの襲名披露パーティーは、歴史に残る大惨事――いや、大爆笑の渦に包まれていた。


 大陸中から招かれた王族や外交官たちの前には、最高級の純金製の皿が並んでいる。だが、そこに注がれているのは、どう見ても『雨上がりの水たまり』だった。


「こ、これは……なんというアバンギャルドな……」


 隣国の帝国大使が、ひきつった笑みでスプーンを口に運ぶ。会場中の視線が彼に集中した。

 一口飲んだ瞬間、大使の目がカッと見開かれ、そしてスッと虚無になった。


「……お湯?」


 静まり返る会場。勇気ある公爵夫人が続いて口にするが、即座にハンカチで口元を押さえた。


「あら嫌だわ! これ、雨に濡れた犬の背中の匂いがしますわ!」

「なんと! 私の皿からは、腐葉土と古漬けを煮込んだような刺激臭が!」

「味はしないのに、臭いだけは一級品の獣臭さだ! まるでオークの汗をすするごとし!」


 豪華絢爛なシャンデリアの下、着飾った貴婦人たちが「くさっ」「泥だわ」「味しねえ!」と上品さをかなぐり捨てて騒ぎ出す。

 見た目は完全に茶色い泥水。漂う香りは野性味溢れる獣と土の臭気。味は驚くほど無味乾燥。

 きらびやかなパーティーの席で、これほど貧相で場違いな液体が存在するだろうか。会場は失笑と嘲笑、そして物理的な臭気によって阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。


「ええい、下げろ! 今すぐその汚物を下げろォォ!!」


 新国王の絶叫が響き渡った。


     *


「リュカ、貴様ぁ! よくも私の顔に泥を塗ってくれたな! 文字通りの泥水で!」


 パーティー終了後の厨房。アレクセイ国王の怒号が、愛用の寸胴鍋をビリビリと震わせた。

 俺、宮廷錬金術師リュカは、ただ静かに頭を下げていた。


「申し開きを……」

「黙れ! 滋養強壮だの精神安定だの、そんな能書きは聞き飽きた! 客人は吐き気を催していたぞ!」


 王の横で、料理長ガストンが勝ち誇ったように腹を揺らして前に出る。


「陛下のおっしゃる通りですぞ! 私の作った芸術的なテリーヌも、貴様のそのドブ汁の悪臭ですべて台無しだ。獣臭くて味が薄い? 家畜のエサでももう少しマシな味がしますぞ!」


 ガストンが鼻をつまんで見せると、取り巻きの文官たちがドッと下品な笑い声を上げた。

 確かに、俺のスープは『鎮魂茸』と『静寂の根』を煮込んだもので、精神の澱みを浄化する。だが、その代償として見た目と匂いは最悪、味は虚無に近い。先代国王や激務の兵士たちは、その効能だけを求めて愛飲してくれたが……平和ボケしたこの新体制には、ただの嫌がらせにしか映らなかったらしい。


「リュカ・エルベ。貴様はクビだ。宮廷錬金術師の資格を剥奪し、国外追放を命じる!」

「……承知いたしました」


 俺は淡々と答えた。言い返す気力もなかった。

 むしろ、肩の荷が下りたような気さえした。毎日毎日、魔力をすり減らして彼らの精神衛生を守ることに、俺自身も疲れ果てていたのかもしれない。


「二度とその辛気臭いツラを見せるな。さっさと出て行け!」


 罵声を背に受け、俺は厨房を出た。

 荷物は少ない。背負い袋一つと、腰に下げた愛用の木製マグカップだけだ。

 王城の裏門をくぐると、夜風が頬を撫でた。厨房のこもった熱気とは違う、冷たくて自由な風だ。


「さて……行くか」


 俺は一度だけ城を振り返った。

 あの泥水スープがなくなれば、明日から城内の人間たちの精神がどうなるか。あのヒステリックな王や、嫉妬深い料理長の心がどう暴走するか。

 想像するだけで恐ろしいが、それはもう俺の知ったことではない。


 俺は荒野へと続く街道に向け、静かに歩き出した。

 月明かりだけが、追放された錬金術師の背中を照らしていた。##プロローグ2 黄金の湯気と、王城の渇き


 俺が歩き出すと同時だった。

 天井の高い厨房のはりの隙間から、何千、何万という微細な光の粒子が、雪のように舞い降りてきた。

 それは埃のようにも見えたが、もっと温かく、明確な「意志」を持った光だった。

 光の粒は、まるで磁石に吸い寄せられる砂鉄のように、俺の持つマグカップから立ち上る湯気の後を追尾し始めた。


 さらに、厨房の水道の蛇口から、ポタ……ポタ……と雫が落ちる音が止まる。

 常に満たされていた洗い場の水桶の水位が、音もなく下がり始めていた。

 まるで、水そのものが俺の後を追おうとしているかのように。


 俺は廊下を歩く。

 すれ違う衛兵たちが、俺を見てギョッとした顔をする。

 だが、彼らが驚いたのは、俺が追放されたことではない。俺の背後に、うっすらと黄金色のもやのようなものが付き従っているように見えたからだ。

 精霊の姿が見える者には、それが無数の小さな水の精霊たちの行列に見えたかもしれない。


「り、リュカ様……? その後ろの……」

「ああ、気にしないでくれ。ただの湯気だ」


 俺は力なく笑って答えた。

 自分でも、それが何なのかまだ分かっていなかった。

 ただ、妙に背中が温かい。孤独なはずの退城の道が、まるで大勢の友に見送られているような、不思議な安堵感に包まれていた。


 城門をくぐり、王都の石畳を踏みしめる。

 振り返ると、夕日に染まる王城が黒いシルエットとなって聳え立っていた。十年間、全てを捧げた場所。


「……さようなら」


 俺は小さく呟き、王都を背にした。

 もう戻ることはないだろう。どこか静かな田舎で、本当に美味しいスープ屋でも開こうか。

 そんなことを考えながら、俺は一歩を踏み出した。


 その直後である。

 城内で最初の「異変」が起きたのは。


 厨房に残されたアレクセイ王が、リュカを追い出した高揚感と、喋りすぎたことによる喉の渇きを覚えて、近くにあった銀のグラスを手に取った。

 中には、王都自慢の名水である、清冽な井戸水が注がれていたはずだった。


「ん……? なんだ、この水は」


 王が口に含んだ瞬間、顔をしかめて「ぶっ!」と派手に吐き出した。

 水が、腐ったような生臭さを放っていたのだ。

 グラスの中を見ると、さっきまでクリスタルのように透明だった水が、灰色に濁り、ドロリと澱んでいる。


「おい! なんだこれは! 料理長、腐った水を出したのか!」

「め、滅相もございません! 汲みたての最高級の湧き水です!」


 ガストンが慌てて別の水差しから水を注ぐ。

 だが、注がれた瞬間、その水もまた瞬く間に灰色に変色し、耐え難い腐臭を放ち始めた。

 いや、それだけではない。

 洗い場の桶の水が、茹でる前の野菜を浸していた水が、すべてドス黒く変色していく。


「ヒッ……!」


 下働きの少年が悲鳴を上げた。

 彼の手元では、瑞々しかった野菜が、まるで水分そのものを奪われたように一瞬で茶色く変色し、しなしなに萎びていた。魚は眼の色を失い、肉は干からびていく。


「どうなっているんだ!? おい、誰か説明しろ!」


 アレクセイ王が喚き散らす。

 だが、誰も答えられない。厨房はパニックに陥っていた。

 この城の水が、いや、水に宿る「清浄なる加護」そのものが、たった今、この城を見限って出て行ってしまったことに、気づく者はまだいなかった。

 彼らが嘲笑い、追い出した「泥水」こそが、すべての水を清く保つための要石かなめいしだったのだ。


 混乱する城内とは対照的に、城門を出て行くリュカの持つマグカップの中だけが、黄金色に輝く清らかなスープで満たされていた。

 それは、失われた祝福そのものだった。

ストーリーはどうでしたか?私の創作はまだまだ続くよ。

少しでも楽しんでいただけて、良い暇つぶしになっていたら嬉しいです!


実は、もっとみんなと作品についてお喋りしたくて、ミクチャで平日17時から19時くらいで配信をしてます。ただし、創作優先&リアル優先で、おやすみあり イベント目的じゃないからアイテムいらないよ

感想を聞かせてもらったり、創作の裏話をしたり……そんな双方向のやりとりができるのを楽しみにしています。


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