謎とチョコは溶けるもの 4
子どもの頃からずっと聞きたかった、たったひと言。
「初めて言ってくれた」
「初めて?そんなことないだろう…1回くらい言ってなかった?」
駿は脳内コンピューターをフル回転させて記憶をたどるが、都合が良いデータは見つからない。
「言わなくても伝わるだろ?」
なんとも身勝手な言い分である。
「言ってくれなきゃわかんないよ」
雫が駿の胸に顔を埋めて腰に手を回した。
駿がストレートの黒髪を撫でる。
「もっと早く言えば良かった。雫以外好きになったことないのに」
「美玲は?」
「好きだったことは1秒だってない」
「好きでもないのにキスしたの?」
雫の肩を掴んで顔を上げさせた。
「するわけないだろ!…今のがファーストだよ」
そう言った瞬間、あの忌々しい魔法を思い出した。
「まさか雫、今のキスでオレのこと、嫌いになったりしてないよな?」
「好きな人からキスされたのに?なんで嫌いになるの?」
意味が分からず首を傾げた。
「いやぁ、10歳の時、シュウにキスされてほっぺたをひっぱたいていたのを見てたんだ」
雫は「ん?」と言って考えると、「ああ~、あれね」と笑う。
「あの頃はシュウのことが好きだったんだろ?前日にオレが魔法をかけたから、ひっぱたいたのかと…」
「何でも叶うっていう魔法?」
「そう。実はあれ、『雫はキスをした子を嫌いになる』っていう魔法だったんだ。オレが苦し紛れに考えたんだけど、現実になるとは…」
それを聞いて雫はお腹を抱えて笑い出した。
「何それ!まさか魔法を信じてるの?そもそもわたし、シュウが好きじゃなかったよ。駿に意地悪ばっかりしてたじゃない」
「つまりオレは、自分のいい加減な思い込みで雫にキスできなかったってことか!」
駿は額に手を当てて天を仰いだ。
「7年間も?」
「もうすぐ8年」
「わたしのこと好きだったのに?」
「ずっと両想いだったのにな」
そう言いながら再び見つめ合い、抱きしめ合う。
「雫。キスしていい?」
「いつでも。何度でも」
2度目のキスは甘い味がした。
* *
3月の晴れた空、雫と大介の「契約」が期限を迎えた卒業式の日。
在校生代表の送辞は雫が、そして卒業生代表の答辞は大介がにこやかに読み上げた。
雫と大介がつき合っていたことを知っている人たちは「ドラマのワンシーン」だと囃し立てた。
「先輩、お元気で」
「今までありがとう。受験のことで聞きたいことがあったら、何でも聞いて」
そう言って最後の握手を交わした。
大介はリオと同じワンルームマンションに部屋を借りることになり、実質的に同棲が始まるのだ。
父親はリオのことは、一時の気の迷いだったと信じている。
そのため、リオの卒業までの1年間を乗り切れば、親の呪縛から逃れることができるのだ。
明日にはリオが待つ京都に行くという大介を、校門のところで駿と2人で見送った。
「そうそう。今朝、北海道の美玲から手紙が届いたんだ」
そう言って、制服のズボンのポケットから半分に折られた封筒を取り出して雫に手渡した。
封筒に送り主の住所はなく、「美玲」とだけ書かれている。
「読んでいいの?」
駿が頷く。
ごめんね、駿。
黙って引っ越して悪いと思ってる。
私はこっちで頑張る。
だから駿も私を待ったりしないでね。
美玲
便箋の中央にでーんと書かれていた。
いかにも美玲らしい、と雫は思った。
「なあ。オレ、もしかして美玲に振られたことになってる?」
プッと吹き出して、雫が手紙を駿に返した。
「ま、いいんじゃない?」
いよいよ次回がエピローグです。
この後、どうなったか?
どうぞお確かめください。




