甘酒より恋に酔いたい 4
「おかえりなさい」
雫は桜木駅の改札口で、しっかり「彼女の顔」をして出迎えた。
晴れやかな顔で大介が手を振っている。
「ただいま。これ、『ド定番』の八つ橋、京都土産」
そう言って、店名が書かれた紙袋を渡す。
「和菓子屋の彼女に八つ橋はどうか、とも思ったんだけど、『大河内屋』には置いてなかったよね?」
「はい、置いてないです。これは『生』じゃないほうの八つ橋ですよね。大好きだから嬉しい!ありがとうございます」
その後、駅前のハワイアンパンケーキの店で、今回の試験の手応えを聞いた。
「多分大丈夫だと思うよ。テストは余裕にできたし、小論文も想定内だった。面接も苦手な圧迫ものじゃなかったからね」
「先輩、それを気にしてましたもんね」
「うん。経験上、追い詰められるような質問は苦手だよ。去年の面接は圧迫面接が多かったらしいから、覚悟はしてたんだけどね」
「それじゃあ、どんな面接でした?」
「俺がスポーツ医学の道に進みたいと言ったら、面接官がそっちの専門の教授だったらしくて、急に目をキラキラさせて嬉しそうに質問してきたんだ。『入学したら、ぜひ、僕の部屋を訪ねて欲しい』って言ってもらったときは、『やった!間違いなく面接は良い点数がもらえるな!』って思ったよ」
「ラッキーでしたね」
「ホントについてた」
「やっぱり目的をしっかり持って、面接に臨むのが大切ですね」
「その点では雫は東洋薬学を学びたいっていう目標があるから、それをしっかりアピールすればいいよ」
「そうですね」
そして大介の合格が決まったら、彼が使っていた参考書や問題集一式を貰いに行く、という約束をした。
大介はとにかく要点を書き込むクセがあるので、とても参考になるのだ。
「貰いに行くときは、父に車を出してもらいますね」
そう言って、パンケーキ店を後にした。
* *
美玲が北海道に転居して2か月余り経ち、空席だったサッカー部のマネージャーも「臨時」ではあるが何とかなった。
ひと足先に大学合格が決まった、元ソフトボール部のマネージャーが卒業まで引き受けてくれることになったのだ。
知世子ひとりではさすがに大変で、「もう無理」「もう嫌」と不機嫌を態度に出していた。
いくら彼氏である安則がサッカー部にいるからといっても、こう機嫌が悪い状態が続くと、何かの拍子に「私も辞める!」と言い出しかねないので、部員たちはとにかく宥める日が続いて、それはそれで大変だったのだ。
「後釜を決めずにいなくなった美玲なんか、許せない!」と露骨に言っていたが、先輩マネージャーが来た途端に「先輩で良かったですぅ」と機嫌が直って部員もホッとした。
暫く落ち着いた日常が戻り、今日は雫の家でバレンタインのチョコレート作りをしている。
そこになぜか知世子も。
美玲にベッタリだった知世子は、彼女がいなくなると他のグループに入りづらくなっていて、一番おとなしい雫と愛華のところにちゃっかり来たのだ。
チョコレートを湯煎しながら、愛華が知世子に尋ねる。
「美玲から何か連絡あった?」
アーモンドの薄皮を取り除きながら首を横に振る。
「ううん。メール1通もないよ。所詮、私の存在ってそんな程度だったのよ」
「そりゃあ、連絡しにくいのは分かるけど、『元気だよ』くらいは欲しいよね」
人一倍プライドが高い美玲が「父親の逮捕」ということで、知世子に慰められるのに耐えられるはずもない。
駿にすら連絡がないのだから、余程悔しいのだろう。
四六時中一緒にいた親友との絆がプッツリ切れたというのに、知世子はあまり気にしている様子もなく、涼しい顔をしている。
「まあ、ここにいる3人とも彼氏がいるわけで、私たちは『勝ち組』ってことだよね」
以前から親しい仲だったように振る舞う知世子の図太さに、雫も愛華も「少しは見習いたい」と感心したのだった。
雫に対してとってきた行動ですら、きっと知世子の中では「消去」されているのだろう。
美玲の話はそれっきりで、スーパーの裏話やお買い得情報など、意外と面白い話が聞けて、感心したり笑ったりした。
知世子が入って来てどうなることかと思ったが、結局楽しくバレンタインのチョコレートが完成したのだった。
「美玲がいなくなったんだから、幼馴染みの雫が駿にチョコを渡してあげないと可哀想よ。あんな感じで別れたから、他の女子もわざわざ休みの日に渡さないだろうしね。ただし、彼氏にあげるのとは違うのでね」
ナイスな提案をしてくれたおかげで、雫は堂々と駿のために特別なものを作ることができた。
次回、大介の合格発表とバレンタインです。ついに…




