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キスと魔法と××と~幼馴染みは両片想い!【嘘の魔法で7年間お預け状態。じれ甘恋物語】  作者: 静林


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4/7

映画館は御用心 1

「しずくぅー!駿くん来たわよぉー!電車遅れるよぉー!」


 母が叫んでいる。

 雫は既に制服を着ているが、洗面所の鏡の前からなかなか離れられない。


「いま行くからぁ」

ーああ、時間がない…。わたしのストレートヘアって、寝癖が付くと洗わなきゃ取れないのに!


 昨日、駿から借りた桜小路恭介の新作「ヒントは今川焼のウラにある」を帰宅後すぐに読み始めたのだが、髪を乾かす時間も惜しくて、まだ湿っているにも拘わらずベッドに入ったのがいけなかったのだ。


 時計の針がてっぺんを越えても読んでいたために、今朝は起きるのが遅くなって洗髪する余裕がない。

 仕方なく髪を濡らして、手で引っ張りながら駿が待つ玄関へ急いだ。


「おはよう、雫。・・・もしかして寝癖ついてる?」

「おはよう。・・・そうなのよ。目立つ?ヘン?」


 正直言って、駿にとっては雫の髪がうねっていようと、絡まっていようと全く気にならないのに、ほんの少しの「くねくね」を気にする彼女が面白かった。


 だからこういう時は、「いや、大丈夫。雫は可愛いから」と言っておけば良いのだ。


 子どもの頃から、なぜか駿が「雫は可愛い」と言ってやると大抵の物事が解決してきた。


 それは高校2年の現在も変わっていない。

 今もそう言われた雫は、「えへっ」と嬉しそうに歯を見せて笑顔を彼に返しているのだ。


「昨日借りた桜小路先生の本、読んだから帰りに返すね」


 トントンとつま先を突いてローファーを履く。


「えっ?もう読んだって?今回のは結構分厚いのに、ひと晩で完読かよ…。すごいな。じゃあ、またプレゼントってことで」

「いいの?では、駿が読み終わったらありがたく頂戴いたしますね」


 そう言って、いつもしているように仰々しく頭を下げてみせた。



 駿は雫の「好きな物」と「嫌いな物」を全て把握している。


 桜小路小説は「好きな物」の1つで、彼女を喜ばせるために「オレが予約するから一番最初に読ませてあげるし、オレが読み終わったらあげるよ」と言ってきた。

 それを何度か繰り返しているうちに、自然とその流れが成立しているのだ。


「やっぱり桜小路恭介は天才だわ。今回の作品がダントツ1位ね」


このセリフは毎回言うものだった。


 初めのうちは「貰ってばっかりは悪いわ」と言っていた。

それでも、息子の想いを知っている母親から「良いのよ、晩御飯ご馳走になってるんだから」と言われると「じゃあ」とあっさり納得したのである。




 雫と駿は幼稚園、小学校も一緒。

 そして中高一貫の東川北学園にも一緒に在籍している。


 この学園はすこぶる制服が可愛いので人気がある。

 高等科は男女共ブレザーでごくありふれたものだが、人気があるのは中等科女子の「正統系セーラー服」だ。

 襟に刺繍が施されていて、リボンは蝶々結びするようになっている。


 初めて幼馴染みの制服姿を見た駿は、「ドールみたいだ」と思った。


「雫のセーラー服姿、最高に可愛い」


 駿は、そんな彼女と一緒に通学するのが誇らしくてたまらなかった。

 「雫の隣」は自分の指定席で、誰にも取られたくないために、あの非効率的な登校方法をあみ出したのだ。


 同じ桜木町内に住んでいるが、雫と駿の家は自転車で5分程かかる距離があるため、「ご近所」というわけではない。


 それでも夕食を大河内家で食べるため、という表向きの口実で、こうやって毎朝迎えに来ている。


 まるで護衛騎士のように、毎朝遠回りをしてでも一緒に登校するのを見た友人から「2人はつき合ってるのか」と当然聞かれた。


「ううん。駿とは兄妹みたいな感じ。好きって言われたことないし」


 こう答えることに慣れはしたが、何度口にしても寂しい。

 本心では「そうなの、つき合ってるの」と言ってみたかった。


 中等科2年にタケノコのごとく背が伸びるまでは、女子から恋愛対象にされたことがなかったために、「駿はわたしと一緒にいるのが当たり前」だと思っていた。


 それなのに、あっという間に高身長のグループに仲間入りすると状況が一変する。


 もともと顔のつくりが美しい、いわゆるイケメンなので、急に女子から黄色い声がかかるようになったのだ。


「ねえ、久賀くんって彼女いるの?」

「手紙渡してくれない?」

「せめて電車を降りてから、私も一緒に通学させてよ」


 当然、幼馴染みの雫にいろんなことを聞いてくるし頼んでくる。

 そうなると今まで呑気に隣を歩いていた雫も焦り出した。


 誰に対しても優しい駿が、自分に優しくしてきたのは、恋愛感情があるからなのか、単に妹と思っているからなのか判別できなかった。


 それを確かめたければ「わたしのこと好き?」とひと言尋ねれば、駿なら応えてくれるだろう。

 ところが、自分から告白めいたことをするなど、そんな勇気は持ち合わせていないのだ。


 駿のほうも、雫のために髪形を整え、身体を鍛え、背を伸ばすために牛乳をがぶがぶ飲み、成績優秀者に名を連ねるよう、今まで努力をしてきた。

 ただ、成績に関しては、常に学年トップの雫には敵わないが、「モテる」男子だと誰からも認められる程度に仕上がったと自負している。


「久賀くん、カッコいい」

「久賀くんの彼女にして」


 そう言われるたびに、自分が雫に相応しくなったのだと嬉しかった。


 駿にしてみれば、小学校高学年になった頃から「雫のことが好き」だとアピールしているつもりだが、奥手の彼女には伝わっていなかった。


 とは言え、自分も雫の気持ちには1ミリも気付いていないのだ。


 「可愛い」と「好き」を同じ感覚で言ってきた男は、すでに「赤い糸」をもつれさせていたのだった。


          *          *


「雫、今日のお稽古の準備は15分遅らせるように、って宮野先生から連絡あったよ」


 同じ茶道部の花井田(はないだ)愛華(あいか)が2組の教室に来て伝える。


「わかった。日誌を書いて職員室に届けてから、お茶室行くね」

「じゃあ先に行ってる」


 ホームルームが終わって放課後に突入すると、各々が所属する部活動へ移動するため、教室も廊下も一斉に賑やかになる。



この後22時10分から第5話が公開されます。

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