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キスと魔法と××と~幼馴染みは両片想い!【嘘の魔法で7年間お預け状態。じれ甘恋物語】  作者: 静林


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甘酒より恋に酔いたい 2

「雰囲気に呑まれそうになってしまった」


 慌てて言い訳されると、先程までの幸せな気持ちが一気に凍って砕けてしまった。


「ううん。わたしも吞まれそうになっちゃった」


 へへへ、と笑って誤魔化すが、雫は谷底に突き落とされた気持ちのまま帰路に就くことになってしまったのだ。


 泣きそうだった。

 美玲には強引にキスしたくせに、自分は雰囲気に呑まれてしまう魅力もないのかと…。


 家に着くと、既に父が駿を車で送って行く準備をしていた。


「じゃあまた」

「うん。おやすみ」


 お互いに初詣の余韻もなく、駿は父の車に乗って帰って行ったのだった。


ーなぁんだ。美玲がいなくなっても、わたしは恋人にはしてもらえないんだ。


 泣きそうなのに、涙は一粒も出てこない。



 雫の父に送ってもらって帰った駿は、あと少しで雫にキスしそうになったことで焦っていた。

 もしあの時、唇が触れていたら、10歳のシュウの時のように平手が飛んできていたかもしれない。

 雫にキスを受け容れる気持ちがあったとしても、キスした途端に「駿のバカ、大嫌い!」と魔法が発動するのではないか、その恐怖が頭を埋め尽くし、自分が雫をどれだけ傷つけたかを考える余裕はなかったのである。


ーああ、雫とキスしたいなあ。


 ベッドに寝転んで、目を瞑って自分の手の甲に唇を当ててみる。


ー雫の唇はもっとぽてっとして柔らかいんだろうなあ。


 日付が変わって新年初日は雫も駿も一睡もできない夜を過ごしたのだった。


          *          *


 3学期は1月6日から始まった。

 前日の日曜日まで、久賀家は年末の贈収賄事件の捜査協力をするために、そして潔白だと判を押してもらいたい他の建設会社とともに、新年の祝いどころではなかったのだ。

 池尻駅周辺の再開発はとても大きなプロジェクトで何百億というお金が動く。

 そしてそれに関わる贈収賄ということで、完全な身の潔白を示さなければ会社としての計画が狂ってくるのだ。

 第一、信用問題に関わってくる。

 そのために、久賀建設も積極的に資料の提出をした。


 家族揃ってゆっくり食事できたのは、1月5日の夕食からだった。


「年末からごたごたして、ごめんなさいね」


 大河内家から届いた赤飯と鯛の姿焼きで、随分遅れた新年の食事をしながら母が謝る。


「いいよ。これでスッキリできるなら、オレも学校に行きやすくなるし」



 始業式の朝、いつの通り爽やかな顔で雫を迎えに来た。


「おはよう、雫」

「おはよう、駿」


 そんな駿とは対照的に、まだ少しモヤモヤが残る雫は、初詣の話題には触れないように来週行われるサッカーの新春戦のことを聞いた。


「どこまで遠征に行くの?」

「栃木まで行くんだけど、美玲がいなくなったから急遽マネージャーを探してるんだ。ウチは2人でやってるだろう?」

「そっかぁ。それで年末、知世子がいろんな子に声をかけてたのね。わたしにまでメールがきたよ」


 東川北学園は全学生が、どこかの部に所属する決まりになっているので、なかなか「転部しても良い」という学生はいない。


「せめて掛け持ちが特例として認めてもらえたらいいんだけど、今回は無理だったよ。随分、藤倉Tが頑張って交渉してくれたんだけどね」

「厳しいね。サッカー部が問題を起こしたわけじゃないのに…」


 電車が真田中央駅に着く直前、雫のスマホが震えた。


   ”今日から新学期だよね。頑張って!こっちも良い感じだよ”


 雫が優しい表情で画面を見ている。


「誰から?」

「先輩」


 駿のほうを1度も見ることなく返事を打っている。


   ”頑張ります。先輩も体調を崩さないように、ちゃんと睡眠と栄養もとってくださいね!”


 そのメッセージと一緒に、手を振るゴリラのスタンプを送信した。

 隣でいかにも不機嫌な駿がその様子を見ているが、雫はお構いなしだ。

 美玲とのことで散々イライラさせられたのだから、少しくらい仕返ししたっていいでしょ、と考えていたのだ。


「北原先輩の合格発表って2月14日って言ってたよな」

「うん。そう」

「そこで別れるんだろ?」

「さあ、どうかな?先輩が京都に行っても、オンラインデートっていう手もあるし」

ーおいおい、合格までって言ってたじゃないか!

「そっちも北海道と?お互い遠恋っていうのもアリかもね」


 駿は「北海道」と言われてもすぐにはピンとこなかった。

 一拍置いて、それが美玲の転居先だと気付くとムッとする。

 「もう言わない」って言ってたクセに、何かと美玲を匂わしてくるのだ。

 雫にしても、本当は美玲のことなど思い出させたくはない。

 美玲には強引にキスをして、自分にはしてくれないことが、どうしても許せないのだ。


「だから美玲とは…」

「あ、愛華だ!先に行くね」


 学園が見えてきたところで愛華を見つけた雫は、駿の言葉を遮ってそう言うと、走って行ってしまった。

 それを憎々しげに見つめ、「チッ」っと舌打ちしたのだった。


ーそっちがいつまでも訳が分からないことを言うなら、オレだって、次は躊躇ったりしないからな。


 そんな度胸があれば、今頃とっくに恋仲になっている。

 雫に対してだけ、石橋を叩いても渡れない性格が今の状況を招いているとは思ってなかった。

 たった一言「好きだ」とすら伝えていないことに気付いていないのだから。


          *          *

次回は、大介の家族関係が語られます。それは重いくて辛い…

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