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キスと魔法と××と~幼馴染みは両片想い!【嘘の魔法で7年間お預け状態。じれ甘恋物語】  作者: 静林


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事件とデートは嵐の予感 4

「何を着て行こう」


 出来るだけ可愛くして行きたいけど、子どもっぽいのは嫌。

 ホテルのテートなのだから、ちょっと大人っぽく清楚な感じで。


 雫はクローゼットを開けて、去年従姉の結婚式の行き帰りに着たベージュのワンピースを取り出す。

 膝丈のフレアスカートの裾と襟元に濃いえんじのベルベットリボンが付いている。

 ハイウエストで切り替えてあって、少々寂しいバストもそこそこ豊かに見せてくれる親切なデザインだ。

 このワンピースにラビットファーの襟が付いた白のコートを重ねれば、「うん、いい感じ」となった。

 それに合わせるバッグは小さめのピンクにした。


 ベッドに並べると思った通り満足のいく装いである。


ーきっといつものように「雫は何を着ても可愛い」と言ってくれるだろうな。


 本当なら、背中までの黒髪の毛先をカールしたいところだが、スプレーで固めなければ保てない。

 動きに合わせてなびかなければ、自分的には美しくないのだ。


ー寝ぐせは簡単に付くのに。…髪は諦めよう。


 ホテルのビュッフェなど、初めての経験である。

 駿と2人でクリスマスのイルミネーションが光る街路樹の下を、腕を組んで歩く姿を想像した。


 ドラマで見たことがあるシーンだ。

 20センチの差があるのだから、見上げる雫と優しく微笑む駿の位置関係はバッチリだ。

 雪が舞っている。


 想像はどんどん膨らんだ。

 キラキラのLEDの下、見つめ合う2人がすることは・・・1つしかない。


「キャー!!ついに?・・・ついに?」


 ベッドにダイブして枕を抱いて左右に転がった。


 雫は忘れていた。


 明日は明るいうちに帰って来なければいけない。

 おまけに、年末には珍しいくらい気温が高いと言われているのだ。

 イルミネーションは点灯してないし、雪も降らないだろう。




 翌朝、約束通り10時ちょうどに駿が迎えに来た。

 店のほうから母が「雫、駿くんが迎えにきてくれたよ」と声を大にして言う。


「わかった。玄関から出るから。行ってきます」


 日頃は履かない5センチのヒールのパンプスに足を入れて、姿見で服装チェックをしてからドアを開けた。


「うわっ!」


 目の前に、ブラウンニットにストレートの濃紺デニム、その上にモッズコートを羽織った幼馴染みが立っている。


ーカッコ良!


 そう言葉にしかけたが、駿のほうが一瞬早かった。


「メッチャ綺麗じゃん」


 その台詞を聞いた途端、顔が真っ赤っかになって、間違いなく頭のてっぺんから蒸気がシューッと出ていただろう。


「あ、ありがとう。駿もカッコイイ」


 雫は恥ずかしくて俯き、上目遣いで目の前のイケメンに伝えた。


「行こうか」


 駿が左手をさっと出す。

 それを右手で取ると、ごく当たり前のように指を絡めてきた。


ーえっ!?『恋人繋ぎ?』。


 これは初めてである。

 雫は振り払う気は毛頭なく、「とことんデートの雰囲気を出してくれるのね」と考えて、今日一日に期待を高めたのだった。


ーよし。オレ、頑張ってるぞ。


 夕べ、雫がベッドで転がりながら妄想していた頃、駿も今日のためにしっかり計画を練っていたのだ。


 ERABLE HOTEL のチケットはゲットできた。


 クリスマスイブにデートに誘うことも成功した。


 「恋人繋ぎ」もできた。


 この後も、要所要所で雫との物理的距離を縮める作戦が用意されていた。


 しかし、さすが幼馴染みである。

 イルミネーションの下、雪が舞い散る中での抱擁、それからの口づけ。

 まるっきし雫と同じ妄想で、そして時間と気温のことが頭になかったというところまで全く一緒だった。



 桜木町と違って、東京のクリスマスは見て歩くだけでもワクワクさせてくれる。

 デパートやブランドショップのクリスマスツリーや、それに付いているオーナメント、サンタやトナカイのディスプレイを見つけると、雫はずっと「駿、あれ見て」「駿、これ可愛い」とはしゃいでいるのだ。


ーサンタやトナカイより雫のほうが何百倍も可愛い。


 目を輝かせてはしゃぐ雫から目が離せなかった。


 隣の雫の顔がいつもより近いのは、5センチのヒールの所為だと気付いた駿が、「足、痛くない?」と気遣った。


「うん、大丈夫」


 雫は何度も、いつもより5センチ近い駿の唇を意識して微笑むが、抱き寄せてはくれない。


ーまあ、タイミング的には今じゃないよね。



 ERABLE HOTEL でのランチビュッフェは、ピアノとバイオリンの生演奏を聴きながら、好きなケーキやパフェを楽しむものだった。

 家族連れの数よりも、圧倒的にカップルが多い。

 見てるほうが恥ずかしくなるくらい、見つめ合ったり、「あ~ん」とケーキを食べさせたりしているのだ。


「あの人たち、絶対に周りが見えてないんだろうね」


 雫が隣に座る駿の耳元で囁いた。


 1段高いステージにグランドピアノが置かれ、その前でバイオリニストが演奏している。

 それを正面に見るようにテーブルが置かれ、椅子もカップルが並んで座るように配置されていた。

 昼間であり、一流ホテルのロビーラウンジということもあって、さすがに抱き合ったりキスしたりする不埒ものはいないが、テーブルの上で手を重ねるカップルは何組もいる。


 耳元で囁かれた声が、生演奏よりも艶っぽく聞こえてドキッとして唾を飲み込んだ。

 そしてコマ送りのように顔を雫に向けて「そうだな」と返したが、幼馴染みが急に大人の女性に見えて、自分が抱く妄想が幼く感じてしまった。


ーああ、抱きしめてキスしたいな。


 いつもより綺麗にしている雫を、自分のものにしたいという欲望がふつふつ湧いてくるが、周りの「大人のカップル」はいたって上品に見えた。


ーきっと、あのカップルなら、イルミネーションの煌めく街路樹の下を選ぶだろう。

ーあそこのカップルだったら、このホテルの最上階のバーラウンジを選ぶだろう。


 そんなことを考えながら、微笑む雫を見ていたのだった。

 この瞬間、あの「雫はキスした相手を嫌いになる」という呪文を完全に忘れていた。

 この時がチャンスだったのに、ERABLE HOTEL を出た時、まだ日が出ていたのだ。


「もう帰らなきゃ」


 隣で駿が悶え苦しんでいるとは露知らず、「今日こそは…」と期待した雫の思いは、この最適な日であっても叶うことはなかった。


少しずつ「キス」が近づく2人の年末は…


誤字訂正しました。

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