事件とデートは嵐の予感 2
雫の家に着くと、やっと気持ちが落ち着いてきた。
客間で荷物を解きながら、先程雫の両親から聞いた話を整理する。
雫は関係がないから、ということで駿だけが台所に呼ばれた。
「今朝、駿くんが家を出た少し後に、いきなり久賀建設の本社に捜査…調査が入ったのよ。テレビで見るような、数人が段ボールを持って入ってくるっていう、アレね。理由は、詳しく聞いてないけど、金銭が絡んだ事案みたい。暫くはそれで会社も、おそらく家にも調査が入るだろうから、駿くんを預かるよう頼まれたの」
「調査」と言い直しはしたが、「家宅捜査」というヤツだろう、と駿でもわかる。
やはり犯罪に関わっているのだろうか。
同じ言葉で雫の父が駿に話す。
「恐らく犯罪に関わる案件についての捜査だろうが、久賀建設は間違いなく潔白だから安心してここに居たらいい」
雫の父に言われると力が湧いてくる。
ただ、自分が聞いた「遠山議員、500万円、…」の話は雫の両親には言わなかった。
大河内の家族は、知らなくて良いことだ。
もしも、自分の両親が間違ったことをしていたら、胸を痛めるし迷惑をかけるだろう。
それで一応確認をする。
「オレを預かることで大河内の家に迷惑はかかりませんか?」
「それは心配しなくて大丈夫。別に匿ってるわけじゃないんだからね。久賀さんも駿くんの居場所を聞かれたら、ここにいることは言うだろうし」
ここで隠れているのではないと聞かされて安心した。
「ところで、学校には行けるんでしょうか?」
「それは問題ないわ。堂々としてればいいのよ。ただし、まだ表には出ていないことのようだから、駿くんは何も知らないっていうスタンスでいてね。いつも通りでね」
「はい。わかりました」
期限のわからない居候となり、「暫くお世話になります」と言って深々と頭を下げた。
ほとんど荷物の整理を終えたところに「駿、入っていいい?」と雫がやって来た。
雫の部屋は2階で、駿が与えられた客間は廊下を挟んで台所の向かいだ。
「いいよ。ちょうど片付けが終わったから」
雫は扉を開けたまま、入り口に膝を抱えて座った。
「大変なことになったみたいだね」
「うん」
「わたしは、何も聞かないほうが良いんだよね」
「そうだな。実際、まだよくわかってないみたいだし。・・・とはいえ、大体の予想はできるよな」
「明日、学校には行けるの?」
「行ってもいいけど、何も知らないフリをして、いつも通りにするようにって」
「もう、みんな知ってるのかなぁ」
「さあ、内密に動いてるって言ってたから、まだ誰も知らないかも。でも誰かが見てたら、あっという間に広がるよな」
「そっかぁ。駿が一時でも白い目で見られるのは嫌だな」
「大丈夫。おじさんが、安心しろって言ってくれたから、堂々としてるさ」
「うん。・・・一緒に登校しようね」
「うん。・・・えっ?」
駿は思わず雫の顔を見た。
こんな形で「一緒に登校」が復活するとは。
「美玲に見られるとマズいだろうから、せめて電車に乗るまで一緒に行こうよ」
雫が言う「美玲に見られるとマズい」というのは、駿と美玲がつき合ってるから、という意味ではない。
あの5つのワードに「遠山議員」と彼女の父親の名前が入っているので、できるだけ刺激しないほうがよいだろう、という意味だ。
「そうだな。暫くは『あの5つの言葉』に関わるものから雫は距離を取るほうが安全だよな」
雫は駿を気遣って言ったのだが、駿はあくまでも雫のことしか考えてなかった。
「わたし、美玲のことはあんまし好きじゃないけど、不幸にならなければ良いとは思ってるんだよ」
「雫は優しいからな」
雫は抱え込んだ膝の間に顔を埋めて「ちっとも優しくないよ」と呟いた。
駿も隣に腰を下ろして、彼女の頭をゆっくり撫でる。
「オレは雫と違って関係者の家族だから、美玲の心配をしてやるほど余裕はないよ。父さんと母さん、それと会社が守られるように祈るだけで精一杯なんだ」
顔を埋めたまま、雫は「うん」と頷く。
「いつまで続くんだろう。早く解決して欲しいな」
そう駿が願ったとおり、事態が動くのに時間はかからなかったのだった。
* *
翌日、登校すると美玲は休みだと聞かされた。
それを聞いて駿は、美玲の家にも動きがあったのだと直感で思った。
欠席するなら100%駿に連絡があるはずだからだ。
隣のクラスの雫の耳にもその情報は届き、「何かあった」とこちらもピンときた。
念のため、雫と駿はそれぞれの親からの連絡を期待して、授業中も机の中でスマホを握り続けた。
1限目が終了した休み時間、急に学生たちがスマホを見ながらざわつき出す。
同じクラスの知世子が「ウソー!何でよー!」と悲鳴を上げた。
雫も急いでネットニュースを開く。
「今朝、逮捕された遠山議員と川添建設の川添容疑者は…」
食い入るようにニュースを見ていると、「雫」と駿が教室に入って来て、彼女の腕を掴むと図書館裏まで一気に走った。
2限目の開始チャイムが鳴っても、それを気にすることなく走る。
人のいない図書館裏に着くと、2人とも息が切れていた。
「か、か、かあ…さんから、メールが…きたんだ」
そう言って、スマホの画面を見せた。
”遠山議員と川添建設の社長が、池尻駅再開発に関しての贈収賄容疑で今朝6時に逮捕。勿論、久賀建設は無関係で、何もなし”
「良かったぁ」
雫はお腹の底から安堵の溜め息を吐いて、その場にしゃがみ込んだ。
安心すると力が抜けてしまったのだ。
「ホントに良かったね」
その時、同じ内容のメッセージが雫にも届いた。
彼女のほうには続きがある。
”追伸。駿くんの家はまだごたごたするから、あと3日、ウチに泊まることになってるよ”
それを2人で見てから顔を見合わせて、一拍置いて同時に泣き出してしまった。
昨日からの緊張で、2人とも食欲もなく睡眠も十分取れていなかったために、ひと晩で状況が好転したことで、ある意味「拍子抜け」してしまったのだ。
涙と鼻水でぐずぐずになったお互いの顔を見ても、幼馴染みだからこそ「恥ずかしい」と思わなかったのだった。
「もう少し長期戦になると思ったのにな」
足元に無造作に置かれたブロックに並んで腰を下ろした。
事件は一段落し、日常が戻るかと思ったら…




