学園祭は戦場です 4
1日目の学園祭が終了して、疲れ切った駿は雫の家に帰って来た。
昼間の大惨事の詳細を駿から教えてもらって、雫はお腹を抱えて笑った。
「あらかたの話は聞いてたけど、そんなに大変なことになってたのね」
笑い過ぎて涙が出てくる。
「笑うだろ?バドミントン部なんか、その後サッカー部に来て『余ってるたこ焼きプレートがあったら使わせて』って言って来たんだぜ。アイツら、懲りずにちょっとでも売って、お金を回収しようと企んだんだ」
「貸したんでしょ?」
「油と天かす、ネギ、タコが焼かれたプレートだぜ?それでカステラなんか焼けるか?」
想像して雫はまた笑う。
「じゃあ、貸さなかったのね?」
「ところが、後輩が『これ、焦げたのが1枚余ってるから、貸しちゃいましょうよ』って悪い顔してバドミントン部に貸したんだ」
「あらぁ…嫌な予感しかしない…」
雫は笑い過ぎて、ティッシュで鼻をかむ。
「まったく雫の想像通りだよ。・・・何とも複雑な味のカステラが出来上がったんだ。焼いた本人は食べずに、買いに来た学生に涼しい顔で渡したら、『マズイー!!』って。案の定、返金になってしまったんだ」
話を聞いて、涙を拭きながら笑う雫と、思い出して笑う駿。
そんな話をしながら楽しい夕食になった。
そして帰る駿を見送るために表に出た雫は、「駿が元気になって良かった」と伝えた。
「雫のおかげだよ。ありがとう」
そう言って、雫の頬にそっと手を当てる。
暫くそのまま見つめ合ってから、「また明日。明日は絶対に美味いたこ焼きを届けるから」と言って自転車に跨った。
雫は彼が触れた頬に手を当てて、帰路に就く幼馴染みが見えなくなるまで見つめたのだった。
* *
学園祭2日目。
昨日黒焦げにしたたこ焼きプレートはひと晩経って、何事もなかったかのように綺麗に磨かれて、順調にベビーカステラが焼かれている。
看板には「あんこ入り」だけで、「チョコレート入り」の文字には大きくバツ印が書かれていた。
前を通る学生が「あれ?今日はチョコレート入りはないの?」と揶揄う。
駿は今日こそは12時30分にたこ焼きを持って茶道部に行くんだと決めていたので、何度も時計を気にしていた。
「ねえ、駿。一緒にブース回ろうよぉ。『占いの館』に行きたいぃ」
昨日の「ベビーカステラ事件」のために一緒に回れなかった美玲が駿に甘える。
ー『占いの館』?冗談じゃない!オレは占いだの魔法だの呪文だのには近づきたくないんだ。
駿の手を握って左右に振りながら、「行こうよぉ」と上目遣いで訴えている。
「占いは信じないほうだから。他のブースなら一緒に行っても良い」
「一緒に行っても良い」という一言が貰えたことで、美玲の後ろに花が咲き乱れた。
余程嬉しかったのだろう。
「ねえ、駿が行きたいところってどこ?」
時計を見ると12時30分までは2時間ある。
美玲を茶道部に連れて行くわけにはいかないから、一番遠い音楽部の「喫茶店」を提案してみた。
「行く!一緒に行く!」
こうやって嬉しそうにしている美玲は、本来ならとても可愛いのだ。
駿も自分が雫を好きでなかったら、高等科にいる間くらい美玲とつき合っても良いと思えるくらいに。
ただ、雫を想う気持ちは「単なる好き」のレベルではない。
絶対に「オレの雫」であり、「オレだけの雫」なのだ。
いつまでも美玲に期待を持たせてはいけない、そう思っているが、あの「遠山議員、500万円…」という言葉が引っ掛かって、まだ彼女を遠ざけるのは危険な気がするのだった。
「喫茶店」はなかなか良く出来ていた。
音楽部がアニメの主題歌や映画音楽を演奏し、それを聴きながらコーヒーを飲むのだ。
こういうブースにはやはりカップルが多い。
たかが高校生の演奏を…と思ったのだが、どうしてなかなかレベルが高いのだ。
音楽に集中するフリをしていれば、美玲は話しかけてこない。
冷たいようだが、どうしても「恋人ごっこ」はできなかった。
それでも、一緒にブースを回れた美玲は納得したのか、それ以上駿に纏わりついてこなかった。
12時30分、約束通りたこ焼きを2つ持って茶道部に行く。
「ありがとう。2パックあるんなら、一緒に食べない?」
「愛華の分、って思ったんだけど?」
「愛華はきつねうどんに行ったよ。わたし1人で2パックは無理だから、一緒に食べようよ」
ーラッキー!!
青のり少なめのたこ焼きを2人で食べて、お茶席ではちゃんと主客になれたので、雫が点てたお茶を飲むことができた。
駿は「今年の学園祭は良い!」と、昨日の挽回ができたことで満足していたのだ。
そして午後2時に模擬店が終了し、いよいよ恒例の「クラブ対抗リレー」の時間になった。
このリレーには全部活が出場するわけではない。
出場すると「来年の部費アップ」という賞品が貰えるが、それは上位6チームだけである。
出場するには1チーム10人必要なのだが、茶道部だけ8名しか部員がいない。
本来なら諦めて応援にまわるのだが、そろそろ新しい道具を買いたい。
宮野先生と部員が直談判して、足を怪我して走れない部員の分と合わせて男性講師3名が助っ人に入ることが認められたのは良かったが、他の部からは「ズルい」と言われた。
「部費アップがかかってるんだから、『ズルい』と言われたっていいじゃん!そんなこと気にしてたら、いつまでたっても開ききった茶筅と、ひびが入ってる棗しかないよ?」と開き直ったのだ。
教師も学生も体操服に着替えて、全員がグラウンドに集合する。
楽しそうにキャッキャ、キャッキャしているのは中等科の学生で、殺気立っているのは高等科の運動部。
特に、野球部、サッカー部、陸上部は毎年真剣そのもので、雫たち茶道部は助っ人講師に「部費アップが貰えたらいいですから」と笑って勝負を託している有り様だ。
出場する学生たちは軽くウオーミングアップを始めた。
まだまだ辛いすれ違いは続くのです。
果たして、リレーの結果は?




