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キスと魔法と××と~幼馴染みは両片想い!【嘘の魔法で7年間お預け状態。じれ甘恋物語】  作者: 静林


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学生ですからテストは大事 5

 温かい気持ちで帰宅した雫だったが、今は正座している駿を前にして、再び怒り心頭の顔で向かい合って正座している。


「日曜日、誰と、どこで、何をしてたか。まずはそれから聞かせてちょうだい」

ーいよいよ尋問。


 雫の前に座らされても、「雫って怒ってても可愛いよな」と思えるほど、まだ余裕があった。

 こういう時、駿は嘘をつかない。


「日曜日、美玲に頼まれて池尻駅前のクリスティーナドーナツ屋に『ニャッぴいのドーナツ』を10個買うために並んでいました」


 クリスティーナドーナツ屋は庇のないところで並ばなければいけない。

 悪びれた様子もなく、涼しい顔で答える駿に怒りが増した。


「あの日は朝から雨だったよね?風もあって、ちょっと肌寒かったよね?

 で、何時から並んだの?」

「8時から…」


 思わず目を見開いて、淡々と答える幼馴染みの顔を見た。

 怒りを通り越して憐れむ表情に変わる。


「はあっ?10時開店なのに、2時間も前から?」

「美玲がそれくらい並ばないと買えないって…」


 呆れて溜め息を吐く。

 信じられない、とばかりに頭を横に振った。

 「美玲」「美玲」と名前が連呼されて再び怒りに火が点いた。


「あなた、バカなの?テスト前日に雨の中、2時間もドーナツのために並ぶ?いくら好きな子に頼まれたからって…。それで風邪をひいて、14位?」

「別に美玲のこと好き…」

「怒るわたしがバカに思えてきたわ」

ーまた「美玲」って言った!


 否定しかけた駿の言葉に被せて、雫が声を荒げる。


「もういい!今回は駿がわたしに勝つって宣言したから、結果を楽しみにしてたけど、もういい。所詮、わたしとの約束ってその程度の軽いものなんだよね」


 吐き捨てるようにいうと、立ち上がって「話は終わり。御飯食べに行こう」と言って部屋から出て行ってしまった。

 さすがにここまで怒らせてしまったことを後悔する。

 もう少し神妙な顔で、ショックを受けたように俯けば良かったのか、と思った。


 ただ、雫が知ればこうなることは初めから予想していたのだ。


 美玲が「ニャッぴいのドーナツを買ってきて」と知世子に言っているのを耳にした時、知らんぷりしてれば良かったのに、「これは使えるかも…」と閃いた。

 そして「ここで恩を売っておけば」と思って、知世子の代わりに買いに行ったのだった。


ーまさか風邪をひくとは…。


 得意科目が初日に集まっていたことで、総合点がぐっと下がってしまった。

 明らかに誤算だった。

 ドーナツを買いに行ったくらいでは順位が下がる結果にはならない。 

 それなのに、38度の熱と解熱剤の服用とで、靄がかかったような状態で受けた試験で、100%の力が発揮できるはずがないのだ。


ー罰があたったんだな。


 晩御飯中、雫は一言も喋らないし、駿と視線を合わそうとしなかった。

 さっさと食べ終わると、自分の食器を流しに置いて、自室に行ってしまったのである。

「わたしは不機嫌だから、誰も声をかけないで」と言うように、階段をドンドン音を立てて上がり、ドアをバタンと閉じた。


「機嫌が悪いからって、あの態度は良くないなぁ」


 父が「後で叱っておくから」と駿に申し訳なさそうに言った。


「ゴメン、おじさん、おばさん。雫を怒らせたのはオレなんです」


 雫の両親にちゃんと事情を説明しなければ、悪いのは雫になってしまう。

 軽蔑されるかも知れないと思ったが、駿は正直に打ち明けた。


「じゃあ、遠山議員の娘さんが『大河内屋をステーションビルに入れるな』って遠山さん言ったら、ウチが困ると思ってドーナツを買いに行ったのね?」


 さすが母は冷静である。

 息子同然の駿の性格を知り尽くした雫の両親は、精一杯考えて取った行動を頭ごなしに非難したりしない。


「でもな。駿くんはまだ高校生なんだから、勉強を第一に考えないといけないよ。ウチがステーションビルに入れるかどうかなんてまだまだ先の話だし、その時に遠山さんが議員でいるか、わからないんだから」


 父も優しく言い聞かせる。


「すみませんでした。次はちゃんと頑張ります」


 自分の親に叱られるよりもキツイ。


「雫に謝ってきます」

「あの子にもちゃんと理由を話してあげてね。駿くんのこと、いつも気にしてるんだから」

「はい」


 自室に戻った雫は、駿から誕生日に貰った「ピンクぴい」というネコのぬいぐるみを目の前にぶら下げて眺めていた。


 今回、駿が美玲のために並んだ「ニャッぴい」とは、「ピンクぴい」の友達キャラなのだ。


 ずっと好きで集めていたこのシリーズのグッズがどんどん「どうでも良い物」に思えてきた。


 自分でも、すうっと熱が冷めるのを感じて、引き出しの奥に仕舞って、完全に視界から消した。


「雫、ごめん」


 ドア越しに聞こえる幼馴染みの声は、さすがに沈んでいる。


「うん。もういい」

「次はちゃんと結果を出すから」

「うん。わかった」

「雫」

「ん?」

「ごめん」

「うん」


 暫く続いた「ごめん」と「うん」の繰り返しは、駿が理由を話すよりも雫を安心させたのだった。


次回、学園祭前夜の不穏な会話が駿を悩ませます。

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