平穏の後の胸騒ぎ 3
秋葉原の駅周辺ではオタクたちが「推し」のグッズを買うために、ごった返してる。
どうやら地下アイドルたちのイベントが開催されているらしい。
夏休みを利用して地方からファンが押し寄せているのだろう。
駿は、目当ての品を買いに〇〇会館へ急ぐ。
最近、雫は「ごじろくじ」というVTuberのうちの、男性キャラがいつも抱いているネコのぬいぐるみに嵌っているのだ。
そのグッズを買いに来た。
「秋葉原限定」とか「ただいま入荷しました」というポップがあちらこちらで天井からぶら下がっている。
目当てのキャラクターのコーナーになかなか辿り着けない。
階段もエスカレーターも、人、人、人。
ーおいおい。まさか売り切れって言われないだろうな。
少しずつ不安になるが、事前に得た情報では6階に置いてあるらしい。
並んでいるオタクたちが全員、駿のライバルに見えて来た。
やっと6階。
売り場に急ぐと、運良くちょうど店頭に並べている最中だ。
かなりの人が既に手にしているが、駿も手を伸ばして狙っていたピンクとイエローのネコを買うことができた。
これは雫から聞いた話であるが、大抵の人が、ピンクとブルーのネコがペアだと思っているのだ。
現に駿の目の前でもその色をペアとして持っている人がいる。
しかしそれは間違いで、本当はピンクとイエローのネコがペアなのだ。
駿は「オレは知ってるんだ」という顔をしながらレジに向かった。
ー好きなほうを雫に選ばせて、残ったほうをオレのにしよう。
以前、映画館で美玲が言ってたことと同じことを考えて苦笑する。
ーそういえば、あのキーホルダー、美玲が無理矢理かばんに付けたんだよな。
本当は外したいのだが、そこまで酷いことはしたくないので、そのままにしてある。
そのキーホルダーを見る度に、雫が胸を痛めているとは思ってもいなかった。
もし雫と大介がペアのキーホルダーを付けていたら、自分はどう思うだろうか…それが考えられれば良かったのだが。
必要な物を買ったところで、時計を見ると15時を過ぎたところだった。
今から今回の東京に来た2つめの目的を果たしに行く。
下調べはバッチリだ。
お茶会からの帰りの車内で、大介の行動をさりげなく聞き出しておいた。
「北原先輩は合宿なんだよな。受験生って大変なんだろ?」
「そうよ。わたしたちだって、こうやってのんびりしてられるのも、2年生の間だけよ」
「来年は、オレたちも受験生だからな。そう言えば、予備校の夏季合宿って朝から晩まで缶詰にされるのか?」
「ううん。16時にその日の講習は終わって、18時から自習室に籠るんだって。
問題集とか、参考書がいっぱい置いてあるから、自室より勉強しやすくなってるんだって」
ーお、いい感じに喋ってくれるじゃないか。
「その間に晩御飯か。まあ、東京なら食べに行くところは、いっぱいあるから良いよな。でも、あんまり時間がないから、近くのコンビニで弁当でも買うのかな?」
「ううん。予備校のすぐ近くにピザ屋さんがあって、そこはメニューも豊富だから、大抵そこに行くんだって」
ーピザ屋か!
まさか自分から情報が引き出されているとも知らず、雫は聞かれたことに対して丁寧に答える。
ネットで調べると、予備校近くのピザ屋は1件。
ービンゴ!!
今いる秋葉原から山手線で1時間かからない。
予備校は渋谷駅近く。
早速移動する。
渋谷も人がごった返している。
16時まであと10分。
取り敢えずコンビニで冷たい麦茶を買って、予備校の出入り口がよく見える場所を探した。
すっかり探偵になった気分だ。
ピザ屋までの通りも合わせて見れたら大介を見逃すことはないだろう。
そう思って予備校とピザ屋を交互にキョロキョロ見ていると、1番に走って出てきたのが大介だった
目的の人物に気付かれないように、距離を取って後を追う。
ーなんでそんなに急ぐんだ?まだ、混雑するような時間帯じゃないだろうに…。
疑問に思いながら付いて行くと、大介が右手をすっと上げた。
ーなるほど、誰かと待ち合わせてたのか。
前方を行く大介が立ち止まったため、手にした麦茶の蓋を開けようとした、まさにその時、1人の女性が大介の腕にしがみついたのだ。
「えっ??」
思わず小さく声が出た。
後ろから見ても、2人が顔を近づけて、笑顔で話しているのがはっきりわかる。
茶髪のポニーテールはストレートで、胸の位置まである。
スキニーデニムパンツに白のTシャツというラフで都会的な格好は、恐らく近所に住んでいるのだろう。
女性は大介より年上に見えた。
女性が大介の腕を離すと、彼と向かい合って今度は腰に腕を回して下半身を密着させる格好になった。
そして大介は女性の両頬に手を当てて、何やら会話している。
大介と女性の背丈はほとんど変わらない。
痩身で長身、横顔は鼻筋がすうっと通っている。
間違いなく、美人だ。
駿は建物の陰から2人の様子を見ているが、心臓がバクバクして、周囲の音が掻き消されている。
このまま2人がキスするんじゃないか、と思わせる程顔が近い。
ーあ、写真撮らなきゃ。
証拠を残して雫に見せないと、信じてもらえないだろう。
そう思ってリュックからスマホを取り出し、いざ撮影、と思って構えたら、2人の姿はもう、そこにはなかった。
きっとピザ屋に入ったのだろう。
そう思っても、もう確かめに行く勇気が湧いてこなかった。
『アレ』を見たのに、それ以上なにを確かめるというのか?
次回、駿が告げた大介の真実に雫は…。




