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キスと魔法と××と~幼馴染みは両片想い!【嘘の魔法で7年間お預け状態。じれ甘恋物語】  作者: 静林


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平穏の後の胸騒ぎ 1

「駿は後ろに乗って、箱が崩れないようにこうやって支えてて」


 雫は、積んだ和菓子の箱が崩れてこないか再度確認してから、駿に指示を出した。

 駿も雫に言われた通り、しっかり役目を果たそうと大量の箱を抱きかかえるようにする。


「いつもこき使って悪いねえ」


 男手が必要な時は必ず「駿くん、手伝い頼んでいいかな?」と遠慮なく声をかけるのに、毎回形式的に申し訳なさそうな顔をするのが父の「やり方」だ。

 助手席の雫が「またこの台詞。別に断ってくれてもいいんだからね」と笑う。

 もちろん、駿が断らないことを知って言っているのだ。

 「似たもの親子」である。 


「いいですよ。好きで手伝ってますから」


 これは本心だ。

 その証拠に断ったことも、渋い顔をしたこともない。

 雫の役に立てるなら喜んで何でもやるし、何処にでも行くのが「駿」なのだ。



 今日は8月第1週目の日曜日。

 梅照平寺で開催する、東川北学園と岡崎高校との合同お茶会の日。


 そこで出される主菓子と干菓子を詰めた箱とともに会場入りする雫と駿。

 駿は「運び人」として一緒に行き、お茶席に入ることはないが、奥で父と住職の世間話につき合うことになっている。

 準備の合い間に雫が点てたお茶を、運んできた和菓子とともにいただくことができるのだ。


 当たり前のように駿は手伝いをし、当たり前のように雫が終わるまで待つ。


 湊高校とのサッカーの試合の日に大喧嘩したにもかかわらず、翌日から何事もなかったかのように会話をしている。

 さすが、生まれた時からのつき合いだ。


 恋愛関係の喧嘩は派手ではあるが、いつもの言い合いと同じで、長く緒を引くことはない。

 互いに不安と寂しさは募るものの、相手と縁を切ることはできない家族関係なので、蒸し返さないようにしているのだ。

 唯一、登校時の雫の隣を大介に取られたままなのは、気に食わないことではあるが…。


 朝、大河内家を訪ねた駿は薄桃色の絽の色無地を纏った雫を見た時、思わず「綺麗だ」と呟いた。

 背中までのストレートヘアを編んでハーフアップにし、べっ甲のかんざしを留めてある。

 着物も髪形も非常にシンプルだが、少し垂れ気味の大きな黒い瞳と、すっきり通った鼻筋が上品さを醸し出していた。


「駿くん、何枚か撮ってくれるかな?」


 大急ぎで雫の父のスマホをジンバルに固定して、大好きな雫を撮影する。


「雫、こっち見て」


 そんな駿に応えるように雫も、ニコッと微笑んだり、ピースサインを出したりした。


「モデルが良いんだから、可愛く撮ってね」

「大丈夫。雫はどう撮ったって可愛いから」


 鉄壁の言葉である。


ーあとでオレのスマホでも撮らなきゃ。




「今年の生菓子の銘は『夏の波』ですか」


 水色の錦玉と道明寺粉で波打ち際を表現した和菓子を眺めている。

 そんな住職とともに、駿も取り敢えず懐紙に乗った菓子を目の高さまで上げて観察するのだが、気持ちは「早く食べたい」。

 そんな駿の気持ちを弄ぶように、90歳を越えている住職はとにかくのんびりしている。


「まさに波ですなぁ…」とか、「見てるだけで涼しく感じますなぁ」などと称賛するのは勝手だが、住職がひと口でも食べてくれなければ、一番年下の駿は口にすることができないのである。


 それを見かねた父が、「ご住職、どうぞ味も確かめてください」と言って、漸く駿も味わうことが叶ったのだった。


「爽やかな後味はニッキですかな?」


 味覚には自信がある住職がズバリ言い当てた。


ー雫の家に帰ったら、あと3つは食べよう。


 1人頷きながら、小さく切って口に運んだ。



 茶室では愛華が、涼しげな花籠に桔梗と仙翁せんのう金水引きんみずひきを生けている。

 掛け軸が芙蓉ふようの花なので、色合いが美しい。


「こっちはもう準備オッケーだよ」


 薄緑色の色無地を着た愛華は、生け花も習っているため、茶室の準備は雫と2人で担当することが多い。


「昨日、大雨が降ったからどうなるかと心配だったけど、晴れて良かったね」

「ちょっと…かなり蒸し暑いけど、せっかく着物を着るんだから、ホント、晴れて良かったよ」

「お菓子は水屋いる宮野先生に届けてあるから、わたしは露地に打ち水をしてくるね」


 水屋とは、茶道具が置かれている、いわゆる台所である。

 そこで宮野先生は道具の確認と運ぶ順番を確認している。


「あ、私も終わったから一緒に行く」


 あと少しで客である学生たちが来る時間なので、雫と愛華が水を打ちに外に出た。

 他の部員はお茶会の後に出される簡単な食事の準備にかかってる。


「ところで今日、久賀くんは?」

「お父さんと、住職さんの世間話を聞いてると思う。お父さんはすぐに帰るって言ってたけど、駿はお寺の隅で勉強するみたい」

「夏休み中の図書館より静かだし涼しいからね」


 バケツと柄杓を寺から借りて水を撒く。

 バシャッと撒いた水は瞬く間に地面に消える。


 雫は駿の顔が見れなくても、同じ寺にいるのだと思うだけで嬉しかった。

 少なくとも、ここに居る間は美玲に邪魔されることがないので気分が良い。


 暫くすると、着物姿の学生たちがぞろぞろとマイクロバスから降りて、寺へ続く坂を賑やかに上って来るのが見えた。


          *          *


 雫の父が「終わる頃、また迎えに来る」と言い残して家に帰った後、駿は住職の相手をすることになってしまった。


「そう言えば、池尻駅前の再開発の件で、この前、遠山議員が来られたよ」

「遠山議員ですか?娘さんの美玲さんとは同い年で、今は同じクラスなんです」

「あの人も建設族の議員さんだから、美味しい話にはガッツリ食い込んどるよね」


 高校生の駿でもその手の話は何度も耳にしている。


 現在、池尻駅は老朽化に伴って、建て替えることが決まっているのだ。

 それと同時に駅と直結したショッピングモールを高層ビルにしようという計画が持ち上がっている。

 駅前再開発が現実になると、周辺にマンションやオフィスビルが建つだろう。

 当然、それに絡んで利益を得ようと建設業だけでなく、あらゆる業界が集まって来るのだ。

 もちろん、駿の実家「久賀建設」も名を連ねるために、既に画策していた。


 ただ、遠山議員は力もあるが、常に黒い噂も付きまとっている。

 駿にとっての美玲は「遠山議員の娘」という感覚はほとんどない。

 単なるクラスメイトであり、サッカー部のマネージャーだ。


 それでも「黒い噂のある議員」は高校生の駿にとって、不気味な存在である。

 万が一、美玲の機嫌を損ねたために、彼女がひとこと「久賀俊に嫌な思いをさせられた」とチクられればどうなることか、とそれが怖かった。

 そのために、雫に不満げな顔をされても、美玲からのアタックを無下にすることができないのだ。

 当然、雫にこんな話は聞かせられない。


「お父さんの会社も忙しくなっとるんじゃないかい?」


 住職が、まさか駿から何かしらの情報を得ようとしているとは思えないが、これでも「久賀建設」の後継者である。

 ここで「そうですね」などと言えば、ウチにも迷惑がかかるかも知れないという自覚はあった。

 目を細めて優しく微笑む住職に「家のことは難しくて…」とだけ答えた。


「オンライン講習がもうすぐ始まるので、待合室を借りてもいいですか?」


 雫たちのお茶会が終わるまで3時間はある。

 手伝いという肩書で来ているため、昼食も用意されている。


「学生は勉強第一じゃな。頑張りなさい」


 住職はそう言って、本堂から出て行き、駿も待合室に移動することができたのだった。

次回、駿が雫と大介に疑念を抱きます。

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