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キスと魔法と××と~幼馴染みは両片想い!【嘘の魔法で7年間お預け状態。じれ甘恋物語】  作者: 静林


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禁止された覚えはない 4

 雫は池尻駅で途中下車して、駅前のショッピングモール内の日本茶専門店に寄っていた。

 梅照平寺でのお茶会の参加記念に配る懐紙を買うためだ。

 この店は大河内屋と取り引きがあり、雫は幼少期から訪れている。


「雫さん、今日は何を探してるの?」


 美しい棗に見惚れていると、雫の祖母ほどの年配の女性が親しげに声をかけてくれる。


「こんにちは。来月のお茶会のお客さんに配る懐紙を見に来ました」


 じゃあ、こっちにピッタリのがある、と言って手招きしてくれた。

 そこには朝顔の透かしが入った物や、花火の透かしが入った物など今の季節にピッタリの品物が並べられていた。


 「梅照平寺で開くんです」と伝えると、「あのお寺は梅が有名だけど、夏は朝顔も綺麗だから」と言って薦めてくれたのは、薄いピンク朝顔の透かしが入った物だった。


「素敵ですね」


 雫自身もあまりの可愛さに惹かれて即決で、人数分にプラスした数を購入した。


 今日はとても気分が良い。


 駿のかっこ良い姿を見るだけでなく、写真に収めることができたのだ。


 帰りの電車の中でもずっと見ていた。


ーあの場で「凄かったね」って言ってあげたかったな。


 小さく溜め息をついた時、ちょうど桜木駅のアナウンスが聞こえた。


 改札を出たところで呼び止められる。


「しずくぅ!」


 聞き慣れた声に振り向くと、小走りで大介が近づいて来た。


「予備校の帰りですか?」

「そう。夏季合宿のクラス分けテストが近いからね」


 この話は以前聞かされていた。

 事前のテストでクラスが分けられるのだが、大介が目指す「京都医療大学 医学部」は一番上のクラスに入らなければ難易度的に合わないらしい。


「どんな感じですか?」

「もちろん、ばっちりさ」


 親指を立てて自信をアピールする。


「応援しているので、頑張ってくださいね」

「うん。・・・ところで雫。今日は久賀くんの試合じゃなかったっけ?」

「行ってきましたよ。陰からこっそりですけどね。でも、しっかり応援して、写真も撮っちゃいました。見てくださいよ」


 そう言ってあの勇姿を見せる。


「おっ!これは、永久保存ですな!」

「はいっ」


 顔を近づけて雫のスマホを覗き、その距離で笑い合う。

 端から見れば「キスまで2秒」という距離だ。

 もちろん、雫にも大介にもその気はない。


 ところが、運悪くそれを見てしまった男がいたのである。


 駿だ。


 目を細めて睨んでいる。


 その後すぐに手を振り合って、雫と大介は逆方向に歩き出した。

 大介との距離が十分に離れるのを待ってから雫の背後に大股で近づき、意地悪そうな声をかける。


「公共の場でイチャつくなよ」


 びくっとして雫が振り向く。

 すると、すぐ後ろに目を細めて見下ろす駿が立っていた。


「びっくりしたぁ。試合の帰り?」

「そっちはデート帰りかよ」


 駿の言葉で、今日雫が試合を見に行ったことがバレてないのだと安心した。

 それならきっと、美玲にも気付かれてないだろう。

 雫があの場にいたことを美玲が知っていれば、すんなり駿を帰すはずがないのだから。


 ここは適当にごまかそうと決めた。


「だったとして、駿に関係ある?」


 駿の不機嫌ゲージがMAXを越えてしまった。


「オレの試合を見るより、先輩とのデートのほうが大事なんだな?ああ、そうかい。せっかく飯食いながら、試合がどんなだったか聞かせてやろうと思ってたけど、ヤメたよ!」


 ここで止めときゃよかったのに…。


「こんなとこ見せつけられるくらいなら、美玲にラーメン誘われたの、断るんじゃなかった!」


 そう言った瞬間、眉間に皺を寄せて固まる雫に気付いたが、時すでに遅し。


「今日は、ウチに食べに来ないで!美玲に電話して『やっぱりラーメン食べる』って言えば、喜んでホイホイ来てくれるでしょ!」


 言い終わると、下唇を思いっきり噛んで身体を反転させて走って行ってしまった。


 それを呆然と見ることしかできない。


ーオレは、アホなのか?また余計なことを言ってしまった。


 映画館での一件以来、彼なりに気を付けてきたつもりなのに、今のひと言で溝がより広く、より深くなったことを自覚する。


ーああ!1分でいいから、時間が戻らないかなぁ。


 晩御飯を食べながら、雫にゴールを決めた話をすることだけを考えてここまでペダルを漕いで来たのに、今は鉛のようにペダルが重く感じる。


 今夜は雫の家には行けない。


 泣きたい気分で自宅に向かって漕ぎだすが、スピードを上げることはできなかった。



 一方の雫も家に着くまで「駿のアホ! 駿のバカ!」を繰り返し呟き続けた。


 自分が大介とのデートを駿に誤解させるように言ったことが着火点になっているなど、全く認識していないのだ。


 「実は、こっそり応援に行ったよ」と言っていれば今夜の夕食も楽しいものになっただろうに、結局、拗れるときはとことん拗れるようになっているのかも知れない。


 家に着いても怒りは収まらなかった。

 夕食作りをしている母から「駿くんは、もうすぐ来るかしらね?」と呑気に尋ねられたのに対して、「駿は彼女とラーメン行くって!」と残してピシャリと自室の扉を閉めた。


 階段下から娘の部屋を見上げて母が溜め息を吐く。


「あ~あ。またやっちゃたのね」


次回、夏のお茶会ではやっと落ち着けたのですが…。

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