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キスと魔法と××と~幼馴染みは両片想い!【嘘の魔法で7年間お預け状態。じれ甘恋物語】  作者: 静林


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禁止された覚えはない 1

「もう朝は迎えに来ないで」と雫から言われた翌々日から、駿は自転車で家から真っ直ぐ東川北学園に通学している。


 ああは言ったが、駿のことだからいつも通り、何事もなかったかのような顔で迎えに来てくれるんじゃないかと思っていた雫は、初日、かなり落ち込んだのだった。


ーわたしから突き放したんだからしようがないよね。


 駿が迎えに来なくなった1日目、学校で顔を合わせても彼はニコリともしない。

 雫は、廊下で彼とすれ違う時、指で唇を擦った。

 それを横目で捉えた駿は心の中で「よしよし」とほくそ笑んだのだ。

 雫は寂しいときに、この仕草をする。


ー雫はきっと、オレがいつも通り迎えに行くと思ってたんだろうな。


 きっちり見抜かれていたのだ。 


 見抜いていたが、駿の計画はすぐに破綻してしまった。


 寂しくてたまらなくなった雫が、「やっぱり迎えに来て欲しい」と泣きついてくると思っていたのだ。

 ところが、2日目、3日目になっても一向に雫から何も言ってこない。

 このままだと土曜日、日曜日を挟んでしまう。

 丸1週間、彼女と口をきかないと完全に詰む。


 「雫不足」になるのだ。


 金曜日の朝、学校までの20分の自転車で「おはよう。もう体調も戻ったから、月曜日からまた迎えに行くよ」とスマートに言ってやろう、そう思って軽快にペダルを漕いだ。

 雫が何時何分に学校に着くかは知っている。


ー仕方ないなあ。オレのほうが大人の対応をしてやるか。


 そんな風に考えて、薄ら笑いを浮かべていたのだ。

 そしてもうすぐ校門、というタイミングで目撃してしまった。


「マジかよ!」


 思わず吐き捨てる。


 雫が大介と並んで歩いているではないか!

 薄ら笑いを浮かべたまま固まってしまった。


 雫は、駿が迎えに来なくなった1日目の下校時に、早々と大介に事の経緯を説明していたのだ。

 そして、「それじゃあ登校も一緒にしよう」とあっさり一人登校の寂しさを解決してしまっていた。


 下校だけでなく、登校まで取られてしまって焦った駿は、その日の授業中、何とか雫の近くにいる方法はないかと考えて、スマホの「連絡帳」をスクロールしていた。


『雫の母さん』


 その登録名を見た瞬間、頭の中で豆電球がピカッと光った。


ーこれだ!


 授業の終了を告げるチャイムと同時に超高速で文章を入力し、そして送信したのだった。


          *          *


 雫は部活終了後、顧問の宮野先生と、来月行われる梅照平寺でのお茶会について打ち合わせをしていた。


 宮野先生は家元の親戚筋で今回のお茶会でも、姉の宮野講師に亭主(ていしゅ)(主催者で茶を点てる)を依頼している。

 そして、宮野先生が半東(はんとう)(亭主のサポート)、雫がお(つめ)(お茶会のサポートをする客)という役割を決めていた。


 毎年8月に開催している岡崎高校との合同お茶会で、今年は東川学園が主催することになっている。


「岡崎高校から5名、うちから5名の計10名の客で用意して欲しいの。人数は直前に増減することも頭に入れといて」


 雫はメモを取りながら指示を聞く。


「お寺に納めてもらう分も合わせて最低32個は必要ね。今年も素敵な和菓子を頼むわね。数は大河内屋さんに任せるから」


 2年前も「大河内屋」の和菓子を出した。

 「清流」と銘打たれた菓子は錦玉で川の流れを表現し、見た目にも涼しげで評判が良かったのだそうだ。


ーお父さん、また張り切るだろうなあ。


 注文が来ることはわかっているので、当然アイデアは出来ているだろう。


「わかりました。父に伝えて、また何種類か試作を持ってきます」

「それから、私と大河内さんは絽の色無地だから」


 絽とは、夏用の着物である。

 客として参加する生徒も希望者全員、絽の着物を着ることができ、レンタルする場合は部費から出ることになっている。

 本来なら、1月の初釜を正式なお茶会としたいところなのだが、受験に重なる生徒に配慮して、この夏のお茶会を正式な形式で行うのである。


「今年は、薄紅の色無地を父が仕立ててくれているので、袖を通すのが楽しみです」

「大河内さんは、去年は淡い水色だったわよね。あれも良く似合っていて、素敵だったわよ」

「ありがとうございます」


 和菓子屋と呉服屋は切っても切れない間柄なので、雫の着物は増える一方だ。

 父は一人娘の雫には甘く、呉服屋の店主に「雫さんによく似合う」などと言われてしまうと、次の瞬間には注文書にサインしているのだった。


「お花と花器については、花井田さんも交えて話し合いましょう。皆には、着物の説明をしておいてね」


 レンタルの手配までが雫の役目だ。



 お茶会の打ち合わせの後、いつものように大介を迎えに図書館に行った。

 今日は世界史の勉強をしているようで、ヴィクトリア朝時代の絵画のページを開いている。

 そして、雫は邪魔をしないように隣に座って静かに洋書を読むのだ。


 暫くすると「お待たせ」と言って机の上の教科書と参考書を片付け始めた。


「今日はちょっと遅かったね」

「8月に学園主催のお茶会を開くんですけど、そこで出すお菓子の件で、先生と話をしてたんです」

「あ、前に言ってた梅照平寺の?雫は着物を着るんだっけ?」

「はい。参加する生徒も着物で、とても雰囲気のあるお茶会ですよ」

「8月は予備校の合宿講習で東京に行くから、着物姿の写真を送ってよ、待ち受けにする」

「了解です。」


 隣を歩く大介の向こうに、グラウンドで駿が走っているのが見えた。

 すっかり回復した駿は、湊高校との試合に向けて練習しているのだ。


「ほら、春紀も駿も、頑張ってぇー」


 マネージャーの知世子が声を張って、クリップボードを持つ手を左右に振っている。

 雫は「怪我をしたのはあなたの所為」などと言いがかりをつけられたくなくて、できるだけ大介の身体に隠れるようにして歩いた。


 それでも駿は走りながら、しっかり2人の姿を視界に入れていたのだ。

 「あれはまだ禁止されてないんだよな」と呟いて片方の口角を上げた。

 

駿の言う、まだ禁止されてない「あれ」とは?

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