痛いのはお互いサマ 3
一人の寂しさを実感する雫です。
翌朝、駿は迎えに来なかった。
もしかしたら、駿から「病院に来てくれてありがとう」と連絡があるかも、と期待して待ったが無駄だった。
救急車で一緒に病院に行った美玲が、いつまで付き添っていたのかはわからないが、傍に「彼女」がいるのだから、自分に連絡はこないか…と納得せざるを得なかった。
それでも、「風邪を引いた」「熱が出た」「怪我をした」、そんな時はいつも「大丈夫?」と聞いてくれたのに、「今朝は一緒に登校できなくてごめん」とは言ってくれないことが寂しいのだ。
ー大したことはない、っておばさん言ってたんだよね?
中等科から皆勤の彼が隣にいないことはあまりにも不自然で、片側の空間を見る。
ーこんなに広かったっけ。
駿には美玲という彼女がいて、自分にも表向きは大介がいるのだから、幼馴染みという理由だけで一緒に登校するのはおかしいのかも知れない。
大介はともかく、美玲はいい気がしてないだろうな、と推し測った。
入学以来初めて誰とも会話をせずに校門を潜った。
ー一人だとこんなに味気ないんだ。
そんなことを考えながら2組の教室に入ろうとすると、「しーずくっ」と妙に御機嫌な美玲の声で足を止める
「昨日は病院まで来てくれてありがとう、ネ」
声だけでなく、「御機嫌オーラ」が美玲の身体から発散されている。
ー彼女ヅラするんだ。あ、彼女だったか…。
「駿は大丈夫?」
今朝はまだ、駿の母親から雫の母に連絡が入ってなかったので、屈辱的ではあるが聞かざるを得ない。
「うん。今朝メッセージを送ったら、今日退院できるって。下校後なら付き添いたかったんだけど、それは無理だから、今日は頑張って駿のためにノートを取るの」
「そうなんだ」
美玲の嬉しそうな顔が雫には辛い。
「昨日は追い返すような言い方をしてゴメンね。雫と北原先輩の相合傘を見て怪我をしたんだと思い込んだもんだから、腹が立ってたのよ。
救急車の中で青白い顔の駿を見てたら、彼の手を握ることしかできなかったの。実際は、たまたまボールが頭に直撃しただけみたい。
そりゃそうよね。雫と北原先輩が一緒に帰ったって、駿が気にするようなことじゃないんだから」
一気に捲し立てる。
口を挟む気すら起こらない。
ーああ、気分が悪い。
美玲にニコッと微笑んだだけで、教室に入った。
駿が今日、退院することだけ聞けて良かったのだと自分に言い聞かせる。
美玲にとって、毎朝一緒に登校してくる幼馴染みの存在は目障りだろう。
それは雫にも理解できるのだ。
駿の隣は「彼女」である美玲の場所なのだから。
ーやっぱり「幼馴染み」より「恋人」のほうが格上だよね。
改めて思い知らされた。
それでも、今回の事で美玲からライバル視されることは減るかも…と少し期待をする。
朝から美玲の洗礼を受けて、一日中テンションが上がらない。
今日は茶道部の活動がないので、大介と図書館前で待ち合わせて、さっさと下校することにした。
「昨日久賀くん、怪我をしたんだって?」
「先輩の耳にも入りましたか…。そうなんです」
「うちのクラスに前のサッカー部マネージャーがいて、例の彼女から聞いたらしい。それで、具合はどうなの?」
例の彼女・・・美玲である。
一日中、「駿のことなら私に聞いて」とばかりに嬉しそうに話して回っていたのだ。
「ひと晩入院して、今日退院するそうです」
「俺の親が真田中央の病院長と親しいから、聞こうか?」
首を横に振る。
「退院するのは間違いないでしょうし、母親同士が友人なので、きっと情報が入ってると思います。気にしてもらって、ありがとうございます」
雫の気持ちを十分に理解する大介は、何か力になれないかと思って聞いたのだが。
「俺が協力できることがあったら頼ってよ」
「ありがとうございます。こうやって一緒に歩いてくれるだけでも、お釣りがくるくらい助けられてますよ」
これは事実である。
大介が傍にいてくれるから、駿の隣に美玲がいても平常心を保つことができるのだ。
それに、大介が父親に頼るような状況を、自分のために作るわけにはいかなかった。
今は大学合格まで、どんな些細なことでも火種にならないように、十分用心しなければいけないのだから。
こんなに不安な日でも、いつも通り桜木駅の改札口で手を振り合った。
「心細くなったら、いつでも連絡しておいでよ」
「ありがとうございます。先輩も勉強、頑張ってくださいね」
大介の背中を見送ると、雫も身体を反転させて、急ぎ足で自宅を目指した。
次回、雫は駿のお見舞いに行くのですが…




