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9話 剣術大会決勝

 ◆踏みにじられた正義◆


 剣が宙を舞った瞬間、アントニオの顔から血の気が引いた。

 観客席が静まり返る。マリンの剣が、彼の武器を弾き飛ばしたのだ。


「これが、“格の違い”ですわ」


 その言葉に、アントニオの顔が歪む。怒りと屈辱が混ざり合い、彼の瞳に狂気が宿る。


「……ふざけやがって」

 アントニオは地面に落ちた剣を拾い上げると、にやりと笑った。


「なるほどな。速さだけは本物ってわけだ。だがな、マリン様――」

 次の瞬間、アントニオが足元の砂利を蹴り上げた。


「っ!?」

 咄嗟に目を瞑ったマリン。その隙を突いて、アントニオの剣がマリンの足首を斬りつける。


「――っ!」


 マリンの足元が崩れ、体勢を崩した彼女に、アントニオの剣が容赦なく振り下ろされた。ギリギリのところで受け止めたが、衝撃で剣が弾かれ、マリンは後方へと吹き飛ばされた。


 観客席がざわめく。


「今の……反則じゃないのか!?」

「砂利を投げて目つぶしをした?」

「審判は何をしてるんだ!」


 だが、審判は動かない。

 アントニオの背後には、バレリーニ家の後ろ盾がある。この大会の運営にも、彼らの影響が及んでいるのは明白だった。

 マリンは、痛む足を押さえながら立ち上がる。足首の傷は、体重をかけるたびに激痛が走った。


「くっ……まだ……終われませんわ……!」

 彼女は剣を拾い上げ、再び構えた。その姿に、観客たちは息を呑む。

 アントニオが舌打ちをする。


「まだやる気かよ。足が潰れてんのに、無様だな」

「無様でも……私は、あなたにだけは負けたくない……!」


 マリンがギフト【剣豪(けんごう)】を再び発動する。

 だが、先ほどのような鋭さはない。足を庇う動きは、彼女の最大の武器である“速さ”を奪っていた。

 アントニオは余裕を取り戻し、にやりと笑う。

「だったら、もっと痛めつけてやるよ。俺をコケにした報いだ」


 彼の剣が、容赦なく振るわれる。

 マリンは必死に受け流すが、動きは鈍く、次第に傷が増えていく。 それでも、彼女は倒れなかった。何度も膝をつき、何度も立ち上がる。


 そのたびに、観客席からは悲鳴と声援が飛んだ。

「立つな、もういい!」

「やめろ、これ以上は……!」


 だが、マリンは剣を握りしめたまま、アントニオを見据えていた。

「私は……アラン様の許嫁です。誰が何と言おうとこの座は譲りません!!」


 その言葉に、アントニオの顔が歪む。


「アラン、アランって……! あいつの名前を出すなァッ!!」

 怒りに任せた一撃が、マリンの剣を弾き飛ばす。 そして、彼女の胸元に剣先が突きつけられた。


「終わりだな、マリン様。俺の勝ちだ」


 マリンは、悔しさに唇を噛みしめた。足はもう動かない。剣も手元にない。 それでも、彼女の瞳は折れていなかった。

「……勝ったのは、あなたの剣じゃない。卑怯な手と、バレリーニ家の力ですわ……!」


 剣術大会はアントニオの優勝で終わった。



 ◆君の想いに応えるために◆


 観客席で見ていたアランは拳を握りしめ、唇を噛む。


「こんな僕をまだ許嫁だと……なのに家督どころかマリンさえも奪われて、指を咥えてなにもしないのか!アラン・バレリーニ!!」

 ……なのに僕は親同士が決めた許嫁だと思ってマリンの気持ちに気づきもしなかった。


 叫びは心の奥底からのものだった。マリンの瞳に宿る、あの揺るぎない想い。

 それが自分に向けられていたと、ようやく気づいた。 奪われると知ったときでさえ、諦めることで心を守ろうとした。


 彼女は、ずっと信じてくれていたのに。

 なのに、自分はどうだ。何もできず、ただ立ち尽くしていた。


「許嫁の名に甘え、彼女の想いに気づこうともしなかった。奪われると知ったときでさえ、諦めることで心を守ろうとした。」


 マリンの想いを知ったアランは、自分の愚かさを嘆き、そして誓った。

 彼女の心を、もう一度この胸に取り戻すと。



 観客たちがざわつきから怒号へと変わる。


「あれは反則だ!」「審判は買収されたのか!?」


 アントニオが勝ち誇った笑みで観客を見下ろす。

「文句があるなら、いつでも相手してやるよ。まとめてかかってこい、雑魚ども!」


 さらにアランを指差し、

「あのチビのギフトなんざ、クズ中のクズだろ? 見てるだけの役立たずが!」


 観客の怒りは爆発寸前だった。



 王が立ち上がり、場を鎮めるように手を上げる。


「静まれ!このままでは大会の威信に関わる。よって、エキシビジョンマッチを提案する! アントニオ・バレリーニ、そしてアラン・フェルナンド。貴公らの一騎打ちを、ここに命ずる!」


 会場がどよめく。アントニオは鼻で笑い、アランを見下ろす。


「おいおい、マジかよ。あんな雑魚と? まあいい、1時間後に泣かせてやるよ」



 控室。アランはマリンのもとへ。


「マリン、君のギフトを……貸してくれないか?」


 マリンは驚きつつも、アランの目に宿る決意に頷く。

 アランが【魔力視(マジックビジョン)】を発動。

 するとマリンのギフト【剣豪】も勝手に発動し、アランの|魔力視《マジックビジョンが剣豪の形に変わっていく。

 それは、近づけば、まるで満ち潮に足を取られるような刃というより“潮そのもの”で、優しくもあり、同時に逆らうことを許さない、海の理のような力だった。


「……これが、マリンの“剣”……ありがとう、アントニオに必ず勝つと約束するよ」



 試合開始直前。アントニオが嘲笑を浮かべて言う。


「おいアラン、お前だけじゃなく、あの女も見る目がねぇな。雑魚に賭けるとか、哀れすぎるぜ?」


 アランの目が鋭く光る。

「その言葉、撤回しろ……!」


 アントニオがニヤリと笑う。

「撤回させたけりゃ、俺様に勝ってみろよ!」



 ◆潮流の剣、誓いの一閃◆


 試合開始の合図。


 アランが【剣豪】を発動。風を裂くような一閃。 その速さは、マリンのそれをも凌駕していた。

 アントニオが目を見開く。


「なっ、なんだよそれ……!? お前、誰だ……!」


 アランの剣がアントニオの防御を切り裂く。一撃、また一撃。観客が息を呑む。

 アランの剣は、怒りと誓いの刃。


「これは、マリンの剣だ。お前のような卑怯者に、触れさせてたまるか!」



 最後の一撃がアントニオの剣を弾き飛ばす。アントニオ、膝をつく。観客が歓声を上げる。

 アランは剣を収め、静かに言う。


「覚えておけ、マリンの許嫁は僕だ…!」


 …視界の端には能力模倣(ギフトコピー) 2/5の文字が光っていた。

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