7話 許嫁の願いと揺るがぬ決意
◆青き令嬢の訪問◆
「ふぅ、なんとか勝てたー!」
「お見事です、坊っちゃま」
今日は盾の守護者のみんなと魔物狩りに来ていた。リックさんに肩を支えられながら村へ戻る途中、道の先で薄い青色の髪が風に揺れた。
そこにはコルネラ子爵令嬢――マリン・コルネラが立っていた。
「マリン? 久しぶりだね。こんなところまでどうしたの?」
彼女とは親同士が決めた許嫁だった。僕の廃嫡と同時に婚約は解消されたはずだ。
意外な再会に戸惑っていると、マリンは一瞬だけ嬉しそうに微笑んだ。しかしすぐに真剣な表情に戻り、信じられない言葉を口にした。
「アラン様、私のギフト【剣人】を作り替えて下さい」
「え?ちょっちょっと待って!状況が理解できないんだけど」
「アラン様、ここじゃなんですから村に戻ってからにしましょう」
ラピスに言われて、仮にも子爵令嬢を道の真ん中に立たせたままだと気づいた。
許嫁だった頃の距離感のまま話してしまったけど、もう僕たちは婚約者じゃない。
マリンと護衛騎士を村へ案内し、事情を聞くことにした。
「実は先日、バレリーニ家から“婚約者をアラン様からアントニオに変更する”と打診がありました。一度解消するならまだしも、相手の変更なんて……コルネラ家を、私を馬鹿にしているとしか思えません!」
マリンはテーブルを叩き、怒りを露わにした。
「その前にひとつ確認したいんだけど。僕のギフト【魔力視】のこと、どこで知ったの?」
「うちのメイドが……この前の野盗との戦いを見ていて。アラン様とラピスさんの会話を聞いたそうです」
メイドさんが? なぜラホ村に?
疑問に思っていると、ラピスが手を挙げた。
「マヤは戦闘は苦手ですが、ギフト【千里眼】は“見る”だけでなく“知る”能力だと聞いています」
「マヤ……?」
「はい、マヤは私の双子の姉です」
「えっ、姉!? じゃあその“知る能力”って?」
「そこまでは……ただ、マヤが“知りたい”と思ったことを知る能力だと」
なるほど、隠しても意味がないわけだ。
「で、どうしてギフトを作り替えたいの?」
マリンは良くも悪くも融通が利かない性格で、ズルやインチキと言ったことを極度に嫌う。そのマリンが自分のギフトを作り替えてほしいと頼ん出来たのが僕には不思議だった。
「え?ええっと…」
さっきまでの勇ましい言動は何処に行ったのかと思うほど、言葉に歯切れが悪くマリン嬢は下を向いてしまった。彼女の代わりに側にいた護衛騎士が口を開いた。
◆ギフト改変の儀と、交わされる誓い◆
「アラン様、護衛騎士の身分で口を挟むご無礼をお許し下さい」
僕が了承の意味で片手を挙げると、護衛騎士が語り出した。
「許嫁の変更を聞いたお嬢様は確認にバレリーニ家に出向きました。そこでアラン様の廃嫡と許嫁がアントニオ様に代わった事を知り……大層落胆されましてそれなら婚約解消すべきとおっしゃいました」
マリンは"落胆"の所で顔を真っ赤にして俯いたまま微動だにしない。
「その時アントニオ様がアラン様の事を"役に立たないギフト持ち"と、それに怒ったお嬢様が次の剣術大会でアントニオ様を倒したら今の言葉を撤回しろ!とおっしゃいました」
さらにマリンは"撤回"の所で両手で顔を覆って隠した。……強気なのに、こういうところで恥ずかしがるなんて女心は不可解だなぁと思う。
「もう後は自分で話すわ、だからアントニオって奴には絶対負けられないの」
「でもアントニオのギフトは【剣聖】だよ」
「そんな事わかっているわ、でも女には負けられない戦いがあるのよ。そこでアランにお願いがあるの。私のギフト【剣人】を作り替えて」
真っすぐに見つめるマリンの目にはゆるぎない覚悟があった。
◆嫉妬の刃、護る者の眼差し◆
ギフトの作り変えをする前にいくつか話しておかない事がある。それを伝えないで行うのは詐欺で騙すようなものだ。
1・僕に敵対しない事。敵対した瞬間その人のギフトが壊れるように仕込んでいる。
2・作り替えは元のギフトの恩恵だけを飛躍的に強化する。
3・作り替えしている間は僕を全面的に信用する。
「マリン、僕の事を心から信じられる?」もし少しでも心配するような事があれば辞めた方が…」
「大丈夫!アラン様の事は信じてますから!」
「将来、僕に敵対する事になったらギフトが壊れちゃうんだよ?一生生殺与奪を握られるのと同じだよ」
「アラン様を裏切るなんて事は天地がひっくり返ってもあり得ないですから問題ありません」
そのきっぱりとした返事に、覚悟は固いと思った。
マリンと向かい合い、彼女がギフトを発動する。
淡い青色の魔力が彼女の手元に集まり、やがて一本の剣の形を成した。
それは――流麗な青の剣。
鋭さよりも“しなやかさ”を感じさせる光をまとい、穏やかでありながら、周囲の空気ごと包み込んでしまうような、おおらかな気配を放っていた。
静かに揺れる水面のようでいて、ひとたび踏み込めば深い海へと引きずり込まれそうな、そんな底知れぬ力があった。
僕も【魔力視】を発動し、その青い剣へと魔力を流し込む。
「アラン様の魔力が……私の中に……来る……あっ……」
(……本当に、勘弁してほしい……)
「も、もう……だめ……っ」
マリンの身体が震え、魔力が変質していく。
その瞬間――刺すような視線を感じた。 視線の主はもちろん。
「また坊っちゃまが他の女のギフトを……!」
ラピスが双剣を握りしめ、今にも斬りかかりそうな目でこちらを睨んでいた。
(……だから嫌なんだよ、この誤解される感じ……)
◆命を断つ剣――新人戦前夜◆
毎年春先、王都で開催される【剣術大会】。
強さこそが価値となるこの世界で、最も注目される武の祭典だ。
大会は本戦だけでなく、若い剣士たちが腕を競う【新人戦】も毎年行われている。
今年、その新人戦にアントニオが出場するという。
「バレリーニ家の新たな後継者」として名を上げるつもりらしい。
トーナメント形式で勝ち上がるだけの単純なルールだが、会場には耐久アップや斬撃ダウンの魔法が施されているにもかかわらず、毎年死人が出るほど苛烈な戦いになる。
そして――マリンもまた、その新人戦に出場する。
表向きは「アランの名誉を取り戻すため」と言っているが、
アントニオなんかと“許嫁”になるのがどうしても嫌だった。
アランを侮辱したアントニオを許せない。
そして、アランの隣に立つのは自分でありたい――
その強い思いが、彼女を剣術大会へと駆り立てていた。
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