4話 聖なる石壁
◆御神木の再生と新たな問題◆
魔力の流れが正しく巡り始めると、御神木全体が柔らかく光り出した。
その神々しさに、村人たちは思わず見惚れていた。
一方で、機械を暴走させていた村人たちは肩を落としている。
金が入らなくなることを嘆いているのだろう。
だが、村全体を危険に晒したのだから、しっかり反省してほしい。
「御神木の魔力って、本当に凄いね」
「坊っちゃま、これほどの魔力……何か活用出来ないでしょうか?」
「そうだね、何かないか考えてみようと思う」
このまま御神木として村を見守ってくれるだけでも十分だが、これほどの魔力を目にするとやはり“活かさないのはもったいない”と思った。
「ノーリスさん、この土壁に向かって思いっきり体当たりしてみてくれる?」
「え? いいのか? こんなボロ壁、簡単にぶっ壊れちまうぞ?」
「いいですよ、どのくらい耐えられるか見たいから思いっきりやっちゃって!!」
ノーリスが勢いよく突っ込むと、土壁はあっけなく崩れた。これには僕もノーリスも文字通り肩透かしを食らった気分だ。
「坊ちゃんこれじゃぁ、魔物や野盗が来たら一発でやられちまいますよ」
ノーリスが足元に転がった土壁の破片を手に取り、軽く握っただけで粉々に砕けた。僕も拾い上げてみると、中はスカスカで、強度がまるで足りていない。
「ねえ、ここで一番堅いものってなにがあるかな?」
「そりゃぁ、家の土台に使っている川底の石だな」
「村では川底から取って来た石を家の土台にするんですよ。あれなら硬さは申し分ないです」
「だけど壁には使えませんよ、横から押されたらすぐ崩れちまいます」
村人たちの話を聞きながら、僕は村を流れる川へ向かった。川底には大きな石がゴロゴロと転がっている。その一つを拾い上げてみると、確かに硬さは申し分ない
「ノーリスさん、川底から大きめの石を持ってきてもらえる?」
「任せてください、力仕事は得意ですから」
僕だと1つ運ぶだけでヘトヘトになりそうな石をいくつも運んで来た。ノーリスが次々と石を運んでくる。それを僕が【魔力視】で加工し、形と大きさを整えていく。
「坊ちゃん、それは何ですか?」
「これはストーンキューブだよ、組みやすい様に大きさと形を揃えてたんだ。これで土壁の代わりにしようと思ってね。試しにどのくらい硬いか試してみようか。ノーリスさん、これに硬化のギフトをかけてくれる?」
「了解です、【硬化】!」
ストーンキューブをさっき壊した土壁に沿って並べて【硬化】をかけてもらった。キューブ同士が魔力で結びつき、堅牢な石壁が完成した。
【硬化】は単に物質の硬さを上げるだけじゃなく、互いの位置情報を固定する。つまり魔力で繋がっていれば引きはがすのも困難になる。
「じゃあ、もう一度体当たりしてみてくれる?」
「OK、坊ちゃん。行くぞ!せーの!!」
ドガッ!
ノーリスの体当たりを受けても、石壁はびくともしなかった。
「すげぇ……前の土壁とは比べ物にならないほど堅いですよ。ただ【硬化】が解けるとバラバラになっちゃいますよ」
「う〜ん、それだとダメだよなぁ。…あ、そうだ!御神木の魔力と繋げて、効果が切れないようにできないかな?」
「そんな事までできるんですか?」
「ノーリスさんが僕の事を信用してくれていれば?」
「そりゃ坊ちゃんの事は信用してますが、どういうことですか?」
僕はニードルアーマーの時に感じた魔力の支配権”の話をした。失敗したのは抵抗されたのが原因で、ギフトを使う時に相手が僕を信じていれば、魔力の流れをスムーズに引き継げるはずだ。
「分かりました、坊ちゃんの事を全面的に信用してますから問題ありません」
「ありがとう、じゃぁ早速【硬化】をかけてくれる?」
「承知しました、【硬化】!」
ノーリスさんが【硬化】を使ったのを確認してから【魔力視】を発動して御神木の魔力を操る。
ノーリスさんに触れて流れる魔力に僕の魔力を混ぜていく。ゆっくりと少しずつ混ぜる量を増やして【硬化】の支配権を奪っていく。
「坊ちゃんの魔力が流れ込んでくる……うお、なんだこれ、変な感じだな」
完全に僕の魔力に移し替えると最終的に御神木の魔力へと繋げた。
「ふぅ、終わりました」
「アレが坊ちゃんのギフトなのか、なんかくすぐったかったな」
視界の端で淡い光がまた滲んだ。
反射的に目を向けると、《魔力操作 5/5》の文字が静かに浮かんでいる。そこまでは、いつものことだ。
けれど、その下に続いた見慣れない一文を読んだ瞬間、胸の奥がわずかにざわついた。
《上位スキル ギフト再構築 アンロック》
見覚えのないスキル。まるで喉の奥に小さな違和感が引っかかるような、そんな感覚がじんわりと広がる。
「……なんだ、これ」
ノーリスさんの魔力を御神木の魔力に移し替える事に成功したが、それよりも視界に見えた文字の方が気になった。 「ギフト再構築だって?」
◆石壁と亡者の噂◆
数日後、村で奇妙な噂が広がり始めた。
朝になると石壁の外側に古びた装飾品やらが見つかった。つまりそれらの落とし主は村の外から来たのだ。
「本当だって、あれは森で亡くなった父さんだった」
「私も見た。子供の頃魔物に殺されたお姉ちゃんが石壁に近づいたとおもったら、パァッと光ってシュッって消えたの」
「幽霊でもいい……もう一度会えるなら……」
村では“亡者が家族を迎えに来ている“と噂が広がっていた。最近では誰もが怖がって村から一歩も外に出なくなっていた。このままだと、ラホ村という名前が消えてしまう。
村人が亡者を見たという所に来てみた。地面には誰のものか分からない古びた装飾品らしきものが落ちている。村のみんなで話し合って、見覚えのない物はそのままにしておこうという事になった。
「う~ん、どうしてここだけなんだろう?」
「ここだけとは?」
「亡者の目撃が集中してるのが、この辺だけなんだよ。家族に会いに来るなら、もっと家の近くに現れてもいいはずなのに」
「!…坊っちゃま、お下がりください」
ラピスが双剣を構えた。見ると森から1人の亡者が現れこちらに近づいて来る。
ラピスを片手で制しながら、亡者の動きをじっと見守った。
こちらを一瞥することもなく、亡者はふらつく足取りのまま石壁へと向かっていく。まるで何かに引き寄せられるように、迷いのない歩みだった。
そして、指先が石壁に触れた瞬間――。
淡い黄金色の光が、ぱっと水面のように広がった。
亡者の身体はその光に包まれ、抵抗する素振りもなく、静かに溶けるように消えていく。
音もなく、影も残さず、ただ光だけが一瞬だけそこにあった。
「これが亡者の噂のカラクリだったのか」
「でも、坊ちゃま、なぜ亡者はここだけに来るのでしょう」
「それはまだわからないけど……亡者が消えた原因は、この聖属性の石壁だね」
【魔力視】を展開すると、石壁全体が淡く黄金色に染まって見えた。
御神木から流れ込む魔力が石壁に浸透し、まるで薄い膜のように聖属性の力をまとわせている。
その光は穏やかで、触れた者を拒むというより、“浄化する”という表現がふさわしい。
亡者が消えたのは、攻撃されたからではない。
ただ、聖なる力に触れた結果、存在そのものが霧散した――そんな自然な消滅だった。
◆野盗の陰謀◆
放棄された砦跡には、野盗たちが集まっていた。
近くには町へ続く街道があり、小さな商人を襲うには都合がいい。
準備も撤退も簡単にできる、絶好の拠点だ。
その場でお頭が何かを叫んだ。
だが、飲みすぎているのか……下っ端の男は思わずそう思った。
「お前ら、ラホ村を襲うぞ!」
「え? あんな貧乏村、襲っても意味ないだろ?」
「お頭、最近ラホ村はやばいと聞いたぜ。突進猪が村の壁に突進したが逆に頭が割れたらしいぜ」
「ちったぁ頭を使え!村の子供でも攫えばいいだろ、それに村には魔晶石がいくつもあるって話だ、それをそっくり頂こうって話さ」
「本当にあんな貧乏村に魔晶石なんてあるんですか?」
「この前捕まえた商人が喋った情報だ。情報がガセだったら殺すと脅したらペラペラしゃべり出したぞ。だ・か・ら、情報が本当だと分かったら…殺せ」
男はお頭の非道な言葉を聞き、少しでも機嫌を損ねたら自分も危ういと理解した。そして翌日から仲間と共に村の近くで子供を攫う機会をうかがった。
◆村の少女の誘拐◆
その日リリアナは浮かれていた。
新しい領主様の歓迎で滅多に食べられない突進猪のお肉を自分も食べられると聞いていたからだ。
村の門を守っているハロルドさんが声をかけてくれた。
「おっ?リリアナ、今日もお婆ちゃんの薬草を採りに行くのか?」
「うん、もう残りが少ないし、切らしたら大変だからね」
「気を付けるんだぞ、森には入るんじゃないぞ魔物が出るからな」
「わかってるって~。心配性だなぁ、ハロルドさんは」
村と森の間には草原が広がっていて、この草原のおかげでラホ村はよっぽど迂闊でない限り魔物に襲われることはなかった。というのも紫粒玉という毒を持っている果物が自生しているおかげで魔物が寄りつかなくなっていた。
「もう~、ハロルドさんは心配性なんだから」
そう言いながらも、リリアナの頬は少し赤らんでいた。父を早くに亡くした彼女にとって、心配してくれる大人の男性はどこか懐かしく、嬉しかった。
生い茂る草をかき分け目的の薬草を見つけた。しっかりと根から摘まないと日持ちがしないため1つ1つ丁寧に積んでいく。
今日は運がいいとリリアナは思った。見つからないときはなかなか見つけられない薬草がもう目的の半分も集まったからだ。
そう思っていると視界が急に暗くなり、何だろうと顔を上げた瞬間視界を遮られ気を失った。後になって誘拐されたのだと分かった。
「おい!、貴様らそこでなにをしている!!」
「見つかったぞ!まだなのか、もう待てないぞ!!」
「分かってる、こんな簡単な仕事で金を貰えるなんてたまんねえぜ」
何かの袋を頭から被せられ、なにも見えない状態でリリアナは冷静だった。(……お婆ちゃんの薬草、落とさないようにしなきゃ)そんな不安を覚えながら野盗たちのアジト、砦跡に連れて来られた。
「お頭、攫ってきました」
「後は付けられてないだろうな」
「もちろんです!そんなヘマなんて…」
手下2人がお頭に無事?誘拐が成功した事を報告すると、リリアナの口からとんでもない爆弾発言が飛び出した。
「…このおじさんたち、私を運んでいる時”もう待てない”とか”たまんねえ”とか言ってた」
「!お前!?なんて事を言っちゃってるの??」
リリアナの言葉に2人は抹殺されると思った。社会的に……
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