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3話 暴走する御神木

 ◆野営の夜と“偶然”の真相◆


 野営の夜、焚き火を囲んでリックたちがニードルアーマー討伐の話で盛り上がっていた。魔物の森でしか見かけない程の魔物を倒したことで、少し浮かれているようだった。


「いやぁ、魔物の森っつーても大したことはなかったな、俺らでもなんとかなったし」

「このバカ!あのメイドさんがいなかったら私たちだけじゃ確実に死んじまってたよ」

「でもさ、すごかったよな。リフレクトマッシュルームが偶然、針をニードルアーマーだけに跳ね返してくれてさ。あれは助かったぜ」

「偶然?そんな都合のいいことが本当にあると思っているのですか」


 アランの食事を終えたラピスが、自分の食事を手にリック達の輪に加わって来た。どうやら主人であるアランの功績が軽んじられているのが気に入らなかったらしい。


「いくら主人(あるじ)と言っても無理して顔を立てなくても……どこに針が飛びかなんてわかるわけがーー」


 ダン!!


 ラピスの双剣がリックの目の前の地面に刺さった。


「わっ分かった分かった! ニードルアーマーは坊ちゃんのおかげで倒せた!」

「分かればいいのです」

 ニッコリと微笑むラピスを見てリックは心に誓った――“この人の前で坊っちゃまの悪口は絶対に言わない”と。



 ◆ラホ村の異変◆


 その後は特に魔物が出て来ることもなく村までの旅は順調だった。やがて、目的地であるラホ村が見えてきた。

 ……正直、どの家もボロボロで、辺鄙な村という印象の通りだ。


 馬車が村の入り口に差し掛かるとワラワラと人が集まってきた。だが、どこか違和感がある。ーー子供の姿がひとりも見えないのだ。


 村長を名乗る人が馬車の前に来て、挨拶をした。


「ワタシはこのラホ村の村長をしてますモルゲンという者です。貴方様はどなたですかな?」

「初めまして、アラン・バレリーニです。この度このラホ村の領主として父のジョバンニ・バレリーニに任命されました」

「バレリーニ家の…ははっー」


 馬車のバレリーニ家の紋章を確認した村長の態度が変わった。どこでも中間管職って辛いよね。などと思っていると、村長を押しのけて1人の女性が訴えてきた。


「あっあの、領主様。ウチの子をウチの子を助けてください!!」

「こら、勝手にしゃべるんじゃない!!」

「すみません領主様。こやつにはしっかり言いつけておきますから」

 女性は村の男の人に引きずられ連れていかれた。女性の『子供をたすけてください』と言う言葉が引っかかって村長に聞いてみた。


「村長、子供を助けてって、どういうことですか?」

「いっいえ、大したことではありません。……領主様が気にするほどのことでは…」

「そうですよ、気にするほどじゃありません」

 村長と村の男の人は女性の話を僕に聞かせたくない様で、明らかに何かを隠している様子だった。


「ねぇラピスあの女性を連れて来てくれる?」

「承知しました坊ちゃま」

「そんな、なにかあれば、私が説明を……」


「領主となったからには、どんな小さな問題でも放っておくことは出来ないよ」

 ラピスが女性を連れてくると、彼女は震えながらも語り始めた。


「実は……この村では、半年ほど前から子供たちが次々と倒れ始めたんです。最初は体の弱い子から、今では10歳未満の子は皆、寝たきりで……」

「領主様、子供たちを神官様に見せるだけのお金など村にはありま…ひいぃぃ!」

「貴様、坊っちゃまが聞いているのを邪魔するのか!」

 村長が話を遮ろうとするとラピスが睨みつけた。完全に蛇に睨まれたカエルで村長は身動き一つ出来ない。村長を黙らせ子供たちについて続きを聞いた。


「子供たちが倒れ始めたのはいつくらいから?」

「はっはい、半年くらい前からでしょうか」

「その頃に何か変わったことはなかった?」

「変わった事ですか、そうですね…あっありました」


 女性の言葉に村長が睨みつけ黙る様に圧力をかけるので、僕は座る位置を変えて女性の視界に村長たちが入らないようにした。

 ……変に邪魔されたらたまったもんじゃないからね。


「ちょうどその頃、王都から調査隊という人たちが村に来て色々調べて行きました」

「…その調査隊は何を調べていたか分かる?」

「いえ、調査隊の対応は村長がやっていたので他の人はなにも…」


 村長は視線をそらしたままこちらを見ようとしない。なにかを隠しているのは明らかで、身分を盾に強引に喋らせる事も考えた。でもそう言うのは好きではない。どうにかして喋ってくれないかと考えていると…

「貴様、坊ちゃまが質問している事に答えないか!」

「ひいいいいい!!」


 村長の煮え切らない態度にラピスが切れたのだ。怒号が部屋に響き村長が思わず悲鳴を上げた。村長は渋々と言った具合で話始めた。

「……王都から“調査隊”が来て、村の御神木を調べていきました。そのとき、御神木にこの機械を取り付けたのです」


 案内された御神木は、確かに癒しの魔力を放っていた。だが、根元には魔力を吸い上げる装置が取り付けられており、幹には魔力が結晶化した魔晶石がいくつもできていた。


 その中に、ひとつだけ異質な青紫色の魔晶石があった。

「これは……魔力の流れを乱してる?…」


 僕は魔晶石を手に取り、【魔力視(マジックビジョン)】で確認した。琥珀色の魔晶石は癒しの力を持っていたが、青紫のそれは周囲の魔力を乱し、悪影響を及ぼしていた。

 その魔晶石を見た時、僕は得体の知れない不安を覚えた。魔晶石は爪で引っ掻くとポロリと幹から外れて手の中に転がった。


「子供たちが倒れたのは、この魔晶石が原因ですね」

「坊ちゃま、今すぐその魔晶石を離してください」

「ひいぃぃ、そんな危ない魔晶石(もの)だなんて」

「大丈夫だよ、ラピス。僕のギフトなら、影響は受けないから」


 【魔力視(マジックビジョン)】は触れた対象の魔力の流れを操作できるギフトだ、青紫の魔晶石は普通の人には影響がある危険な物だが、僕には単なる魔晶石でしかない。


「じゃあこの機械は壊しちゃうね」

「ちょっと待ってくれ、いや下さい。せっかく金が稼げるチャンスをわざわざ潰さなくても、危ない魔晶石だけ捨てればいいのでは?」


「……分かった。じゃあ、あと一日だけ様子を見て、それでまた青紫の魔晶石ができたら、機械は壊すよ」



 その夜、御神木の周囲に複数の人影があった。


「せっかく金が入るってのに、壊されるなんて……」

「領主さまの命令には逆らえないからなぁ、おい早くしろ」

「わかってるって、今夜中に魔晶石を作っちまおうぜ」


 お金を得る事を覚えた村人にはそれを手放すのは代え難い魅力で、最後にあと1回と欲を出してしまうのは無理のない事だった。


 機械は最大出力で稼働し始めた。やがて異音を立て、幹には次々と青紫の魔晶石が生まれ始める。御神木が周り全ての魔力を巻き込んでその流れを乱し始め、周囲の魔力を吸い上げ、村全体に悪影響を及ぼし始めた。



 ◆御神木の暴走と再生◆

「坊ちゃま、坊ちゃま。起きて下さいーー起きないとチューしちゃいますよ…」

「う~ん、もう朝なの?」

「いえ、御神木で騒ぎが起きているようです」


 眠い目をこすりながら起き上がると、村長が慌てて部屋に飛び込んできた。

「領主様、大変です! 村人たちが機械を動かしてしまい、御神木が暴走を……!」


 影響は御神木に近づくことすら困難なほど、魔力が乱れていた。

 僕は御神木の根元に触れて【魔力視(マジックビジョン)】で魔力の流れを作り変えようとしたが、暴走状態の御神木はそれを拒んだ。

 ――触れた瞬間、御神木の魔力が牙を剥いた。


 まるで巨大な川の流れに腕を突っ込んだような、圧倒的な逆流。

 僕が流れを整えようと魔力を送り込むたび、御神木はそれを押し返し、魔力の奔流が腕を通して全身に逆流してくる。


「くっ……!」


 御神木の魔力は荒れ狂う獣のようで、僕の魔力を押し潰そうと暴れ回る。

 僕は必死に魔力の流れを掴み、方向を変えようとするが、御神木はさらに強く抵抗し、互いの魔力がぶつかり合って火花を散らすような感覚が走った。空気が軋み、周囲の魔力が悲鳴を上げる。


「坊っちゃま! 離れてください、危険です!」

 ラピスの声が遠くに聞こえたが、僕は手を離さなかった。


 ならば――逆に、御神木が魔力を吸収しているならばそれを理由すればいい。


 僕はギフトで作り変えた魔力を、あえて御神木に吸収させた。

 御神木は貪るように吸い上げ、綱引きの主導権が一気に向こう側へ傾く。


 風が渦巻き、全てを飲み込むように御神木が魔力を吸い上げる。

 もう駄目か――、魔力も限界に達し、意識が遠のきかけたそのとき――


 御神木の内部を流れる魔力が、ふっと黄金色に輝いた。

 まるで何かが“段階を越えた”かのように、光が脈動する。


 視界の隅に淡い光が灯り、文字が浮かび上がる。


 ――《魔力操作 4/5》


 それは一瞬だけ表示され、すぐに霧のように消えた。


 それまで荒れていた空気が静まり、御神木の周りに穏やかな風が吹き抜ける。


「坊ちゃま……心なしか、体が軽くなりました」

 ラピスが不思議そうに自分の手を見つめながら、そう呟いた。


 そこへ、心配そうな表情で村の女性が駆け寄ってくる。

「領主様……子供たちは、無事なのでしょうか?」


 僕は微笑んで、そっと頷いた。

「うん、しばらくすれば目を覚ますと思うよ」

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