2話 ニードルアーマーとの戦い
◆追放の真相と揺らぐ家族の絆◆
後日父上からフレイムベア討伐について詳細を聞きたいと呼ばれた。
「俺が剣で喉笛を切り裂いたんです」
「違います、僕が毒で……」
父上の呆れた気配が伝わってきた。埒が開かないと執事のジャミールに詳細を聞く。ジャミールなら倒したのが僕だと説明してくれるはずだ。
「もうよい、ジャミールお前はフレイムベアの後始末をしていたな。どうなんだ」
「はい、フレイムベアに止めを刺したのは…アントニオ様の剣による喉笛への攻撃でした」
僕は耳を疑った。え?アントニオの剣が??
「もうよい、アラン、貴様には失望したぞ。アントニオに家督を奪われたのを逆恨みし、手柄を横取りしようなどと恥を知れ!」
「まっ待ってください。本当にフレイムベアを倒したのは…そっそうだ調べれば死んだ原因が斬撃か毒かは分かるはずです」
しかしフレイムベアは生垣を超えて侵入した原因を調べるためギルドに提出済で、ここにはすでに無いと言った。ジャミールが嘘をついていると言っても父上には信じて貰えないだろう。それどころか更に疑惑の目を向けられるだろうと思い何も言えなかった。
……ジャミールはアントニオのギフトが通じなかったのを見ていたはずだ。なのになぜ嘘をついたのかは分からない、分かっているのはこれで僕のいう事は父上に信じて貰えないということだった。
「…父上、魔の森を超えた所にある村、あそこはバレリーニの領地でしたよね、あそこをアランに任せてませんか」
「あの村をか?確かにあそこは我が領地だが…特にこれと言って売りになる物もないようなクズ領地だぞ」
アントニオがフレイムベアの討伐褒美として僕を僻地の領地『ラホ村』の領主にしてみては。と言ってきた。
アントニオの狙いはこの家から僕を追い出そうと言うのだろう。万一の事を考えて後継ぎ候補はいない方が安心するのだろう。
「よし、いいだろう。アランお前は一週間後にラホ村に向かえ」
◆ラホ村行きと忠誠のメイド◆
一週間後のラホ村行きが決まった。こんな家にいても息が詰まるだけだし、小さいながらもラホ村へ行けば領主だ。僕は前向きに考える事にした。
気分が上がった僕が意気揚々と廊下を歩いているとなぜか荷物をまとめたメイドが立っていた。
彼女はアランが物心がついた時から身の回りの世話をしてくれたメイドで、名前はラピア・テラネッタ、子爵家から社会勉強のためにバレリーニ家に出向いている歴とした子爵令嬢だ。
「どうしたのラピス、僕に用?悪いけど僕は一週間後にラホ村に行かなければいけないんだ。なんかあればアントニオに言ってくれない?」
「お話は伺いました、私は坊っちゃま付きのメイドです。坊っちゃまが行くなら私もご一緒します」
当主と(元)跡取りの話を盗み聞きなんて、ここのセキュリティが心配になったが聞いていたなら話が早い。改めてラピスに聞いてみた。
「僕について来てくれるの?言っちゃ何だけどラホ村は物凄い辺鄙な所だよ」
「たとえ辺鄙だろうと地獄だろうと、坊っちゃまのいる所がラピスがいるべき所です」
「これから領主となる場所が地獄だと困るけど……」
ラピスの硬い決意がまっすぐに伝わってきた。 胸の奥に、久しく感じていなかった温かいものが灯る。
――僕を見捨てずについて来てくれる人がいる。
その事実が、追放の痛みを少しだけ和らげてくれた。
「……ありがとう、ラピス。君がいてくれるなら心強いよ」
自然と笑みがこぼれる。
アントニオの思惑がどうであれ、ラホ村は“僕の領地”になる。 ならば、そこで新しい道を切り開けばいい。
僕のギフト《魔力視》で、地獄だと言われる場所を天国に変えてやる。
そう強く決意し、僕はラホ村行きの準備を始めた。
「俺はパーティ【盾の守護者】のリーダー、リックと言います。今日はよろしくお願いします」
「アラン・バレリーニです。こちらこそ、よろしくお願いします」
一週間後の朝、バレリーニ家の門前に現れたのは、護衛を務める冒険者パーティ【盾の守護者】の4人。リーダーのリック、前衛のノーリス、火属性の魔術師ディアーズ、そして珍しい聖属性の魔術師ハーヴィー。
貴族の護衛任務だからこそ、回復役の聖属性がいるのだろう。万が一の怪我にも即対応できるように。
馬車が出発すると、リックたちは前後に分かれて警戒にあたった。
馬車の中、僕は変わりゆく景色に心を躍らせていたが、向かいに座るラピスは明らかに不満げだった。
「はあ……魔物なんて私ひとりで十分なのに。せっかくの二人きりの馬車旅が……」
「ラピスの強さは僕が一番知ってるよ。危なくなったら、頼りにしてるからね」
「お任せください!このラピス、坊っちゃまを命に代えてもお守りします!」
拳を握って気合いを入れるラピス。可憐な見た目からは想像もつかないが、彼女はバレリーニ家最強の戦力だ。彼女を連れて行くと告げたとき、父上が渋い顔をしていたのも無理はない。
◆魔物の森での襲撃◆
長閑だった馬車の旅も、草原を抜け、馬車はやがて薄暗い森の中へと入っていった。
「……あれ? この道って、もしかして」
「坊っちゃま、これは"魔物の森"に通じる道です。普通なら通らないはずですが……」
「だよね。道を間違えたのかな?」
「私が確認してきます」
貴族の護衛中にわざわざ危険な"魔物の森"通るなんてありえない。単に道を間違えたのならいいが、何かの思惑があって危険な"魔物の森"を通ってるのだとしたら…。
ラピスは馬車の窓から身を乗り出し、前方のリックに怒鳴った。
「おい、そこの草履虫。"魔物の森"を通るとは貴様の頭の中はお花畑か!坊っちゃまにに何かあったらどうするつもりだ!貴様らが何人死のうが構わないが坊ちゃまはかけがえの無いお方なのだぞ」
「ラピス言葉! 波風立てないでってば……」
僕が慌ててなだめると、リックは苦笑しながら説明してくれた。
「ルートの変更はバレリーニ家からの依頼だぞ。"魔物の森"ルートを通る様にって。報酬も倍出すって話だったし、魔物が必ず出るわけでもないから、受けたんだ」
……父上がこんな雑なことをするだろうか? ギルドの記録を調べればすぐにバレるし、僕を始末したいならもっと確実な方法を選ぶはず。
……まぁ、そうそう危険な魔物が出るなんて事は…
「魔物だーー!!」
……あ、やっぱり出た。
◆ニードルアーマーとの戦い◆
現れたのは、四つ足で這うように動く魔物“ニードルアーマー”だ。硬い甲殻に覆われた背中には無数の穴があり、そこから毒針をランダムに射出してくる。
「ニードルアーマーだ、下手に近づくな。針には毒があるぞ」
ノーリスがギフト【硬化】で盾を強化し、針を防ぐ。だが、魔力の消耗が激しく長くはもたない。
「リーダー、これじゃ魔力がもたねぇぞ!」
「攻撃も通らないし、どうすんのよ!」
ディアーズの【火球弾】も通じず、ハーヴィーの回復も限界が近い。
リック達前衛を常に癒しているハーヴィも魔力不足を訴え始めた。
「もうこっちも魔力がないぞ、リックどうするんだ?」
しかしリックとノーリスは飛んでくる針を避けるので精一杯で、攻撃できる状態じゃなかった。
「うわっ!」
「ひいぃ」
「あんた達、避けてばかりだと倒せないじゃない」
「無茶言うな!避けないと死んじまうわ」
そんな中、ニードルアーマーが木に激突して一瞬気絶した。
「今だ!」
僕は馬車を飛び出し、魔物に触れてギフト【魔力視】を発動。だが、魔力は拒絶され、弾かれてしまった。
「坊っちゃま、危ない!」
目を覚ましたニードルアーマーが針を乱射。ラピスが僕を抱えて間一髪で回避する。
ニードルアーマーにギフトが使えないなら、別の魔物を探すだけだ。
ここは"魔物の森"、周りにはいろんな魔物がいる。見回すとリフレクトマッシュルームという植物系の魔物を見つけた。こいつは攻撃を受けるとそれを拡散して反射する植物系の魔物だ。
さっきのニードルアーマーは無理やり魔力を抑えようとして失敗したなら、押さえつけず魔力の流れる方向を変えたらどうだろう?リフレクトマッシュルームならギフトが通じるのではないだろうかと考えた。
「ラピス、ニードルアーマーを引きつけて、リフレクトマッシュルームの前に誘導して!」
「お任せください!」
正直ラピスを危ない所に立たせるのは嫌だったが、彼女以外に任せられる人はいない。
「ノーリスさん、ラピスが囮役を変わるから!」
「ありがてぇ、正直もう魔力が限界でした」
ラピスが僕を降ろしノーリスさんと入れ替わると、僕もリフレクトマッシュルームに触れてギフト【魔力視】を使った。
リフレクトマッシュルームの魔力の中に僕の魔力が流れ込む。反発しないように注意しながらニードルアーマーに向けて魔力が収束する様に調整する。
そのとき、視界の隅に淡い光が瞬いた。
――《魔力操作 3/5》
一瞬だけ浮かび、霧のように消える文字。
誰にも見えていないのに、確かに“僕だけ”に表示された。
(……今のは、何だ?)
疑問が胸をよぎるが、考えている暇はない。魔力の流れはすでに整っている。
「ラピス、準備は終わったよ。うまくニードルアーマーを引っ張ってきたら僕の方へ引っ張って来て」
「承知しました」
ラピスが地を蹴り、ニードルアーマーの注意を引きつけながらこちらへと誘導していく。
ニードルアーマーが針を発射――!
ドドドド!!!
無数の毒針がリフレクトマッシュルームに突き刺さる。
………ブゥーーン……イーーーン……ヒュンヒュンヒュン……
魔物の中で魔力がうねり、音が高まっていく。そして――
ドドドドドドドドッ!!!
リフレクトマッシュルームがニードルアーマーに向けて、吸収した針を一斉に撃ち返した!
グァ!グァァァァ!!
自らの毒針を浴びたニードルアーマーは、全身を穴だらけにされ、原形を留めぬ肉塊と化して倒れた。
静寂が"魔物の森"を包む。
後には元の形が分からなくなったニードルアーマーの肉塊が横たわっていた。
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