16話 ギフト 柔毛崇拝の本能
◆村じゅうギフト祭り◆
今ラホ村では授かったギフトがどんなギフトだったのかを報告し合うのがちょっとした流行りになっていた。
「どんなギフトだろうね」
「あのね、私が授かったギフトは…」
村の広場では人々が口々に自分のギフト自慢をしあっていた。
今日フローネからギフトを授けてもらうのはフローネと同じくらいのノノちゃんと言う女の子だった。お父さんとお母さんの三人暮らしで、ノノちゃんはいつも働きものの二人の事を自慢していた。
ただ、村の男の子たちに、お父さんの頭が剥げているのをからかわれているのが悩みの種だった。
「なんでそんなこと言うのかな、お父さん、すごく頑張ってるのに」
そんな気持ちが、ノノちゃんのひっそりとしまってある悩みだった。
ノノちゃんがフローネの前に跪いた。
フローネはそっと目を閉じ、胸の前で両手を重ねた。
フローネがギフト【星紡ぎの巫女】を発動する。
彼女の周囲の空気がふわりと震え、教会の薄暗い空間に微かな光の粒が浮かび上がる。
光の粒はフローネの足元からゆっくりと渦を描き、彼女の身体を包み込むように上昇していく。
白い髪が星明かりを受けて淡く輝き、瞳を開いた瞬間、その奥に深い夜空のような光が宿った。
少女の身体が淡い光に包まれ、やがて光は静かに収まり、フローネはギフトの内容を告げた。
「ノノちゃんのギフトは…【柔毛崇拝の本能】 です。
「【柔毛崇拝の本能】?」
聞きなれないギフトに僕は首を傾げた。するとフローネがギフトの説明をしてくれた。
「このギフトはノノちゃんが、ふさふさの毛をもつ動物をこよなく愛する心を女神さまがお認めになって授かったギフトです。どんな動物もふさふさの毛になるギフトです」
フローネの言葉を聞いたノノちゃんがぱぁっと明るい顔になった。
◆ノノちゃん、ふさふさの奇跡を試す◆
「ほんと?試して来る」
ノノちゃんはそういって外に行ってしまった
村で農耕用に飼っているモッシーにギフトをかけると、つるつるだった表皮に、ふわりと柔らかい毛が芽吹くように生え広がっていった。
みるみるうちに全身がふさふさになり、まるで大きな綿毛の塊のようになったモッシーに、ノノちゃんは目を輝かせて駆け寄る。
「わぁ……! モッシー、ふわふわだよ! すごい、すごいよ!」
頬をすり寄せ、両腕で抱きしめるようにして、何度も何度も嬉しそうに撫でる。
その笑顔は、太陽の光をそのまま形にしたような無邪気さで、見ているこちらまで頬がゆるむほどだった。
けれど、その少し離れた場所で、ひとり静かに立ち尽くす男の姿があった。
ノノちゃんのお父さんだ。
――ああ、そうか。
ノノは、あんなに嬉しそうに“ふわふわ”に頬ずりするんだな。
ふさふさのモッシーに頬を寄せるノノちゃんの姿を見ながら、お父さんは苦笑ともため息ともつかない息をそっと漏らした。
「ちょっとアンタ! 娘の前で何しょんぼりしてんのよ!」
「だ、だって……」
お父さんは肩をすくめ、視線を泳がせる。
「“だって”じゃないの! ノノが喜んでるんだから、一緒になって喜んであげなさいよ!」
ノノちゃんがモッシーに頬ずりして遊んでいる間、お父さんはお母さんに叱られてしゅんと項垂れていた。
そこへノノちゃんが、とことこと近づいてきた。
大好きなモッシーで目いっぱいふさふさを堪能したノノちゃんは、目をきらきらさせていた。
けれど、しゃがみ込むように小さくなっているお父さんを見つけると、首をかしげた。
「……お父さん、どうしたの?」
理由が分からず、不思議そうに瞬きをするノノちゃん。その横で、お母さんが腕を組み、ため息まじりに言った。
「ノノがモッシーばっかり構うから、お父さんが寂しいんだってさ」
その言葉に、ノノちゃんの目がまんまるになる。
「お父さん、寂しいの??」
お父さんは慌てて手を振るが、声は情けなく震えていた。
「い、いや……その……ちょっとだけ……」
その“ちょっとだけ”が、どう見ても“だいぶ”なのは誰の目にも明らかだった。
ノノちゃんは一瞬だけ考えるように考え込んで――そして、思いもよらない事を言った。
「じゃあ……お父さんもふさふさにしてあげるね!」
その宣言と同時に、ノノちゃんの小さな手が光を帯びる。ギフトが発動し、柔らかな光がふわりとお父さんの頭へ降り注いだ。
◆お父さん、ふさふさになる◆
次の瞬間――
つるつるだったお父さんの頭皮から、もこもこと毛が生え始めた。
最初は産毛のように細く、次第にしっかりとした毛並みに変わり、あっという間に“ふさふさ”へと成長していく。
お父さんは目を見開き、口をぱくぱくさせた。
「えっ……ちょ、ちょっと待っ……これは……!」
お母さんは腕を組んだまま、呆れたように笑う。
「よかったじゃない。ノノからのプレゼントよ、ありがたく受け取りなさい!」
ノノちゃんは満面の笑みで、お父さんの新しい“ふさふさ”に手を伸ばした。
「お父さん、ふわふわだ〜!」
その声に、お父さんの頬がゆるみ、胸の奥にあった寂しさがふっと溶けていった。
30歳を超えたノノちゃんのおとうさん、グラントのかみがふさふさになったという話は一部の人の間で瞬く間に広がった。
◆光輝頭の動揺◆
「なにぃ!スキンヘッド同士の会のグラントがふっさふさだと??そんなバカなことがあるか!」
ラホ村から少し離れた集落にある、男たちの憩いの酒場。
そこには、誇り高き(?)スキンヘッドたちが集う秘密の会——通称「光輝頭の同志会」があった。
その夜、酒場の扉を勢いよく開けて飛び込んできた男が、息を切らしながら叫んだ。
「聞いたか!? ラホ村のグラントが……あのグラントが……!」
仲間たちは一斉に振り返る。
「なんだ、また頭を日焼けさせたのか?」
「いや、あいつは磨き方が違うからな。今日もピカピカだったろ?」
そんな軽口が飛ぶ中、男は震える声で続けた。
「……ふ、ふさふさになったらしい……!」
酒場の空気が一瞬で凍りついた。
「なにぃ!!?」
「スキンヘッド同士の会のグラントが!? あの“鏡面仕上げのグラント”が!?」
「そんなバカなことがあるか! あいつの頭は村の誇りだったんだぞ!!」
誰もが信じられないという顔で立ち上がり、
中にはショックで椅子を蹴り倒す者までいた。
「裏切りだ……!」
「いや、違う! きっと何かの間違いだ!」
「毛が……毛が生えたっていうのか……?」
男たちは頭を抱え、酒場は混乱の渦に包まれた。
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