1話 女神様からハズレギフトを授かりました
◆ギフト授与の日◆
「アラン、バレリーニ家の跡継ぎとして、恥ずかしいギフトを授かることは許さんぞ」
父、ジョバンニ・バレリーニ伯爵は、朝からずっとその話ばかりだった。
この世界では、満八歳になるとすべての子供が神から“ギフト”を授かる聖授の儀
と言うモノが行われる。
魔物と戦うには剣の腕前よりも、ギフトによる強化が重要とされるためだ。
特にバレリーニ家の領地は【魔物の森】と隣接しており、魔物の襲撃が絶えない。領民たちは身を守るため、強力なギフトを求め、逆にそれ以外のギフトは“ハズレ”と蔑まれる。
ジョバンニ伯爵もまた、炎の魔力を授かり、その力で領地を守ってきた。
そして、アラン八歳の夏。ついに聖授の儀の日がやってきた。
聖授の儀は平民から始まり、騎士爵、男爵、子爵、伯爵の順に進む。アランは他の子供たちのギフトを見守っていた。火や水の魔力、生活に役立つものなど、さまざまなギフトが授与されていく。
「おおぉぉーーー!!」
ひときわ大きな歓声が上がった。どうやら、ある男爵家の次男が“剣聖”のギフトを授かったらしい。しかも炎属性だという。
――これはまずい。伯爵家の跡継ぎとして、強力なギフトを授からなければ面目が立たない。
そんな不安を抱えながら、アランは父の期待を背負って女神像の前に立った。
「アラン・バレリーニ、女神さまの前で真摯に祈りなさい」
神父の言葉に従い、アランは目を閉じて祈りを捧げた。やがて女神像が光を放ち、アランを包み込む。
ギフトが授けられた証だった。
神父が水晶を覗き込む。しばらく沈黙した後、戸惑いながらも口を開いた。
「アラン様の授かったギフトは……『魔力視』です」
「魔力視?それはどんなギフトなのだ」
「……私も聞いたことがありません。詳細は今後調査が必要かと」
ジョバンニ伯爵は水晶を何度も見直したが、文字が変わる事はなかった。
“魔力の流れが見える”ギフト。だが、それだけだ。戦いに役立つとは言い難い力だった。
◆失望と廃嫡◆
アランは屋敷で魔石を観察し、魔力の流れを見ては試行錯誤を繰り返した。だが、何も起こらない。
「う〜ん、この漂ってるモヤみたいなものが魔力で間違いなさそうだなぁ、となるとギフトでこのモヤを思い通りに出来るようになる……とか?」
アランは火の魔石から立ち上る赤い魔力の靄をじっと見つめながら、ぼんやりとつぶやいた。
「……『炎よ、その力を刃に変えて、すべてを焼き尽くせ!』」
子供の頃、父がギフトを発動していた姿を思い出しながら、真似して叫んでみる。だが、当然ながら何も起こらない。
「……やっぱり、ギフトがなきゃ意味ないか」
予想はしていたものの、胸の奥に広がるのは、やり場のない悔しさだった。
ふとアランが視界の端に ――《魔力操作 1/5》という文字に気づいた。
数字の意味が気になり、思わず目を細める。
「……1/5? 何を示してるんだ?」
深く考えても分からないと判断し、アランはそのまま意識を切り替えた。
その日、屋敷ではちょっとした騒ぎが起こった。
庭の枯れ葉が突然燃え上がり、危うく火事になりかけたのだ。幸い、近くにいたメイドがすぐに気づいて火を消し止めたため、大事には至らなかった。
火の気は見当たらず、原因は庭師の不注意ということで片付けられた
そんなある日、父に呼ばれ執務室へ向かうと、そこには見覚えのある少年がいた。剣聖のギフトを授かった男爵家の次男、アントニオだった。
「アラン、お前のギフトは戦いに役立たぬ。よって“ハズレ”と認めざるを得ん。 そして…今日からアントニオを我が家の跡継ぎとする」
父の言葉にアランは息を呑む。 その横でアントニオは、わざとらしく肩をすくめてみせた。
「はじめまして、アラン“くん”。今日からバレリーニ家の嫡男となった、アントニオ・バレリーニだよ。いやぁ、まさか伯爵家の跡継ぎが“魔力視”なんて聞いたこともないハズレだとは思わなかったけど……」
アントニオは口元を隠し、クスクスと笑う。
「まあ、安心していいよ。僕が立派にこの家を継いであげるから。 君は……そうだな、せいぜい雑務でも頑張って?」
その声音は、同情を装いながらも、底の底までアランを見下しているのがはっきりと分かった。
◆魔物襲来◆
ある日、父が不在の中、アランとアントニオは庭で訓練をしていた。
「よう、アラン。今日もゴミギフトの訓練か?」
アントニオは剣を肩に担ぎ、わざとらしくため息をつく。
「剣聖のギフトは強力なギフトだ、鍛錬を頑張れば――」
「様を付けろって言ってるだろ、落ちこぼれ。」
僕にアドバイスされた事が癇に触ったのかアントニオが敬称を付けろと言ってきた。
アントニオの養子縁組はまだなので今の段階では僕の方が地位は高いはずだけど、と思っていると彼の背後に異様な魔力の流れを見た。
「アントニオ、おかしな魔力が漂ってる、気を付けろ!」
「だから様を付けろって言って――」
次の瞬間、生垣が爆ぜ、フレイムベアが現れた。
「うわっ!」
「ぎゃーー!!」
僕もアントニオも突然の音に全身が竦んだ。壊れた生垣の中から現れたのはフレイムベアという魔物だ。
「なっなんで敷地の中に魔物が入って来るんだ?」
アントニオが悲鳴のような声で訴える。が今は理由なんてどうでもいい。それよりも父上が留守の今、どうやって倒すかを考えなければいけない。
アントニオの全身を赤い光が包み、握る剣の刃が燃え盛る炎のように膨れ上がる。
それは剣聖のギフト――炎属性の【剣聖】。
燃え盛る赤い刃を作り出し、自身の能力を引き上げる、彼のギフトだ。
「喰らえぇっ!!」
炎をまとった斬撃が空気を裂き、一直線にフレイムベアへと叩き込まれる。
轟音とともに火花が散り、地面が抉れた。
しかし――。
「……嘘だろ」
フレイムベアは微動だにせず、毛皮の一部が赤く光っただけで、傷一つついていない。
「なんでだよ……剣聖のギフトなのに!」
アントニオの声は震えていた。
燃え盛る赤い刃が、まるで紙を切るように敵を断ち裂くはずなのに、その“常識”が、目の前であっさりと否定された。
「アントニオ、危ない!」
ギフトが通じなかったことがショックだったのか、棒立ちになったところにフレイムベアの引っ掻き攻撃を受け、アントニオの体が小枝の様に地面に転がった。
幸いにもアントニオは無事だったが気を失ったようだ。
フレイムベアはアントニオへの興味を失ったらしく、当たりを見回すと生垣の紅粒玉の果実を食べ始めた
……あれ?生垣に植えられているのは毒性のある紫粒玉じゃなかったか?
庭の生垣には魔物が侵入してこない様に毒性のある果物を植えている。
だがフレイムベアが食べているのは毒のない紅粒玉だった。
僕はそれが気になったが考える時間は無い。というのもフレイムベアが紅粒玉を食べ尽くす前に倒す方法を考えなければいけない。
そうしないとフレイムベアの傍で倒れているアントニオの命が危ない。
フレイムベアの周りを調べると紅粒玉の樹がすぐ近くまで枝が伸びていた。フレイムベアを刺激しない様に匍匐前進で生垣の中を進む。
……あと少しで樹の枝に触れる。
もう少し、と焦ったのがいけなかったのか、枝に服が引っ掛かかった。樹がゆさゆさと揺れフレイムベアの視線がこちらを捕らえた。驚くほど俊敏な動作でフレイムベアが僕に向かって近づき前足を振り下ろした。
僕はフレイムベアの前足を掻い潜って紅粒玉の樹の枝を掴んだ。ギフト【魔力視】を発動すると紅粒玉の魔力が分解されていく。瑞しい甘みや芳醇な匂いが猛毒に、鮮やかな赤が鮮血の真っ赤な赤になり、紅粒玉が一粒の爆弾となった。
「これでも食らえ!!」
僕はフレイムベアの口の中を目掛けて、猛毒化した紅粒玉を投げつけた。
見た目は美味しそうな紅粒玉の粒が山なりに飛んでいきフレイムベアの口に入るとそれをかみ砕いた。
よしっ食いついた! とガッツポーズをする。
ぐおおおおぉぉぉ!!
フレイムベアの巨体がゆらりと揺れた。
次第に体全体に水ぶくれがでてきて腐り落ち、苦しそうな悲鳴を上げるとフレイムベアがついに大きな音を立てて倒れた。
フレイムベアとの戦闘を終えたその瞬間──
視界の端に、再び淡い光が灯った。
――《魔力操作 2/5》
息を整える間もなく、アランはその表示に目を奪われた。
フレイムベアとの戦闘中はたしかに1/5だった。だが、確かに数字は変わっている。
戦いの余韻で高鳴る鼓動とは別に、胸の奥に冷たい戸惑いが広がっていく。
自分の知らないところで、何かが進んでいる。
それが良いことなのか悪いことなのか、判断すらつかない。
答えの見えない疑問だけが、戦闘後の静けさの中に残った。
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