ep1
俺の部屋の隣に佐藤家が引っ越してきてから1週間が過ぎた。その間、特に変わったことはなく、時々すれ違ったときに挨拶をするくらいだった。それでも、優希君に会うとドキッとしてしまう。
(何度見ても、すんごい美少女にしか見えないんだよな。)
と思っていた。それと同時に、生きにくいだろうなとは思っていた。実際、街中で見かけたとき、アイドルにならないかと声をかけられているのを見たし、ナンパもされていたな。すぐ近くにいた母の久美子さんに助けられていたが。
そう思って過ごしていたある日。インターホンが鳴り、モニターを確認すると、久彦さんと優希君がたっていた。
「こんにちは、どうしたんですか?」
俺はドアを開けて二人を迎え入れた。久彦さんは遠慮していたが、雨が降っていたこともありあがってもらった。
「急にすみません。佐久間さん。実は私と妻が仕事の都合で遠方に行かないといけなくなり、本来であれば優希もつれていきたいのですが、まだ転校して1週間ですぐに転校させるのもかわいそうで。それで、佐久間さん、すみませんが、しばらく間優希を預かっていただけませんか?」
久彦さんは申しわけなさそうな表情でそう告げてきた。確かに、優希君のことを考えたらそのほうがいいのかもしれない。転校を繰り返していては、学校になじめず友人もできないだろう。しかし、両親と離れるのもどうかと思う。俺には決断できないな。
「んー、正直いいんですか?俺、1週間前に知り合ったばかりの他人ですよ?どうして俺に頼るんです?」
そう、知り合って1週間の男に頼る内容ではないのだ。だが、そこで黙っていた優希君が声を出した。
「僕がお願いしたの。お兄さんと一緒にいれるならこっちに残るって。ねぇ、だめ?」
と首をかしげて、不安げな表情で俺に聞いてくる。そんな顔されたら断れないだろうがよ。
「はぁ、久彦さん、久美子さんは納得しているんですか?佐藤家がしっかり納得しているなら、俺は受け入れますよ。ですが、こちらはしがない大学生です。生活費はいくらか都合していただけないでしょうか。大家さんにはこちらから話を通しておきます。親戚なので何とかなると思いますので。」
俺がそういうと、久彦さんは申しわけなさそうな顔をしながら、
「もちろんです。生活費として月10万優希の口座に振り込もうと思います。足りなければ、言ってくだされば結城経由で送金します。大家さんには私からも説明します。本当に、急に頼んでしまって申し訳ありません。」
と、俺の出した条件を飲んでくれた。その後ろで優希君が嬉しそうに微笑んでいた。
「これからよろしくね、お兄さん。」
その笑顔に、ドキッとしてしまったのは秘密にしておこう。