プロローグ
「お兄さん、初めまして。私は、佐藤 優希です。よろしくお願いします。」
ある時、アパートの隣の部屋に引っ越してきた家族があいさつに来た。夫婦とその息子さんの3人とのことだったが、今挨拶してくれた息子さんをみて、俺は驚いていた。
「あ、ああ、初めまして。俺は佐久間 透です。えっと、優希君でよかったかな?」
そう聞き返してしまうほどに、優希の見た目に愕然としたのだ。
「はい、そうですよ。」
そう返事をした優希の見た目は、ほとんど女の子にした見えないほどだったのだ。年齢的には10歳前後に思えるが、黒くつやのある髪を背中の真ん中あたりまで伸ばしており、服装はジェンダーレスなのか、男にも女にも見える服装だった。正直、事前に息子と聞いてなければ、娘だと間違えるほどに、優希の容姿は女性的に整っていた。
「驚かしてごめんなさいね。この子、この見た目だから初めて会う人にはほとんど間違えられちゃうのよ。私はこの子の母親で久美子といいます。」
笑いながら謝ってくる母親の、佐藤 久美子さん。優希と同じように、艶のある髪を腰まで伸ばしていてる、世間話が好きそうな印象を受ける女性だ。だが、彼女の言葉を聞いている優希の表情は、どことなく影がにじんでいるようだった。
「私は優希の父の久彦です。これから、お隣さんになるので、よろしくお願いします。これ、つまらないものですが。」
礼儀正しく挨拶をしてくれたのは、父親の佐藤 久彦さん。優しそうな表情をしており、物腰も柔らかい。
「これはどうも、ご丁寧に。こちらこそ、よろしくお願いします。」
こうやって、佐藤一家との初対面が終わった。
そして、これが俺の人生の、とてもとても大きな分岐点になったということは、俺はまだ気づいていなかった。