06.たとえEランクの超能力者でも最強になる!
「それじゃあ、モモさん。超能力とこの学院について、少し説明させてもらうわね。」
俺は先生の前のソファに腰を下ろしていた。
さっき新入生の手続きをしてくれた先生だ。ルカとアカネは関係者以外立入禁止ってことで、ドアの外で待たされてる。
「はい、お願いします。」
そう返事をすると、先生は立ち上がって、校則やカリキュラムが載ってるパンフレットを俺に渡すと、横のホワイトボードを手元に引き寄せた。
そこには、見慣れない用語がずらりと並んでいて、どうやら超能力に関する説明がびっしり書かれているみたい。
「まず、この世界の人間は大きく二種類に分かれる。一つは、生まれつき超能力の天賦を持つ超能力者、もう一つは、何の天賦もない一般人ね。つまり、俗に言う“マグル”と呼ばれる存在。超能力者は、文字通り超能力を鍛える才能を持っていて、その実力に応じてS、A、B、C、D、Eの六段階にランク分けされてる。これはさっきも少し聞いたわよね?」
「あ、うん……はい。」
そう言いつつ、内心では聞いてないけど!?とツッコミを入れていた。
……攻略本は読んだけど、ほんのちょっとだけだったし、正直こういう基礎知識的なページはスキップしてたんだよね……
でも、今の話でなんとなくわかってきた。
この世界では、全員が超能力を持ってるわけじゃなくて、モモは才能がないだけで、一応は超能力者の範疇ってことになるのか……
「そして、それぞれのランクには通称がある。たとえば、才能が極めて低く、訓練しても戦闘力がほとんど上がらないEランクは“アンロック(封能者)”と呼ばれてる。」
先生はそう言ってホワイトボードに手を伸ばしながら、説明を続けた。
「もっとも、“才能がない”というのはあくまでエスパー基準であって、普通の人間と比べれば微弱な能力は持っているのよ。他のランクについても、ここに一覧を書いておいたわ。目を通してちょうだい。」
ボードにはこう記されていた:
Eランク:アンロック(封能者)——微妙な能力を持つ
Dランク:ノーマル(一般者)——基礎的な戦闘力を持つ
Cランク:ミドル(中堅者)——中程度の能力を持つ
Bランク:ストロング(強者)——戦力の中核を担う実力者
Aランク:エリート(精鋭者)——トップクラスの才能を持つ
Sランク:エクストリーム(絶対者)——最強中の最強、規格外の存在
「通常、新入生の多くはDランクで、少数の才能ある者がCランクに達していることもある。あなたの友人の二人も、そのカテゴリーに入るね。」
あの二人、すげぇな……俺だけEランクなんて、やっぱり悔しい!
「そして……あなたのようなEランクの生徒はね、基本的に本校では受け入れてないの。戦闘面で期待できないからよ。」
そう言いながら、先生は横の棚から一冊の冊子を取り出し、俺に手渡した。
「これは、五百年以上の本校の歴史の中で、特例として入学を許可されたEランク生徒のリスト。二十数名しかいないけど、全員、何かしら特異な才能を持っていた。今回あなたが入学できたのも、その“例外”に当てはまるからなんだ。」
再び先生は椅子に腰掛け、眼鏡をクイッと押し上げながら、真剣な目でこちらを見つめてきた。
「あなたの記録はすでに確認したけど、入学の理由は——卓越した頭脳、ね?」
「えっ? あ、うん……?」
え、なにそれ初耳……!っていうか、俺モモじゃないからそんなの知らないし!!
でも、そういうことにしとくしかないよね……まさか、モモって見た目だけじゃなくて、頭もよかったの!?
意外ね……
「正直に言うとね、あなたの立場も考慮した上での判断よ。Eランクの実力では、たとえ特例で入学できたとしても——一学期を乗り越えられるかどうかは誰にも分からない。」
そう言って彼女は一度言葉を切り、真剣な眼差しでこちらを見据えた。
その声には、これまでの柔らかさがまるでなかった。
「だからこそ、私自身が聞きたいの。あなたは本当に、この学園に入りたいの?ここは、ただ授業を受けるだけの学校じゃない。本物の戦場で、生きるための力を磨く場所なのよ。」
ピリ……と、空気が張りつめる。
さっきまでの説明ムードとは打って変わって、重苦しい空気が室内を包み込んだ。
ふと視線を落とし、手元のパンフレットに目をやる。
開いたばかりのページ、その端は少しめくれていて、何人もの手に渡った痕跡があった。
そして、そこに書かれていた一文——あらゆる可能性は、信じる価値がある。
……けど、今この瞬間、その言葉がやけに眩しくて、ちょっとだけムカつく。
「チッ……」
舌打ちが漏れた。頭の中に、過去の記憶がフラッシュバックする。
血の匂い。漆黒の夜。静寂と死の気配。
そして、人々が恐れ、名を呼ぶ——幽鬼という存在。
最強の暗殺者、神出鬼没の影、暗夜を終わらせる者。
いろんな称号で呼ばれたが、俺が一番気に入っていたのは、たった一文字——影だ
姿を見せず、記憶にも残らず。
だが、それでも戦局を左右する――それが俺だった。
……それなのに、今の俺は椎名モモ。Eランクの、超能力が弱すぎる普通の少女。
でもな——
たとえこの身体が過去の自分とは別物でも、この世界のルールが全然違っていても……
影として歩んできた記憶が、まだ俺の中にある限り――簡単に負けるわけにはいかないんだよ。
幽鬼に、恥は許されない!
「入学します。」
俺は迷いなく、きっぱりとそう答えた。
先生は一瞬だけ驚いたような顔を見せたが、すぐにふっと笑みを浮かべた。
「そっか。なら、心から歓迎するわ。おめでとう、モモさん。」
「ありがとうございます。」
手元の冊子をポケットにしまいながら、少し気取って立ち上がった。そしてそのままの勢いで、さらっと言い放つ。
「俺はただ……奪われたものを取り返しに来ただけだ。」
「……えっ?」
「……あっ、い、いえ!なんでもないです!」
思わず本音が出てしまい、あわてて咳払いしながら声色を変えた。
椎名モモの声じゃないとダメなんだ。
「えっと……これから、お世話になりますっ!」
——あぶなっ!
うっかり“幽鬼モード”になるところだった……!
先生は満足そうに笑みを浮かべ、パチパチと拍手をしてくれた。
「それじゃあ、今日からモモさんもテンキアカデミーの一員よ。」
その瞬間、ドンッ!とドアの外から音がした。
「うわあああっ!!やっと終わった!?もう足が限界だよぉおおお!!」
バンッと勢いよくドアが開き、ルカがまるで弾丸のように飛び込んできた。
そのままの勢いで、俺の隣のソファに倒れ込む。
「も、もう一歩も動けない……!」
その上に、まるでおまけのようにアカネがゆるゆると乗っかってくる。
こっちはどこか苦笑いを浮かべながら、申し訳なさそうに目を逸らした。
……この二人、絶対ドアの外で盗み聞きしてたよね?
「はぁ……二人とも、せめてノックぐらいしなさいよ。」
先生はため息をつきながら、呆れたように二人を見つめた。
「あはははは……ご、ごめんなさーい。で、でも先生、モモちゃんはもう入学OKなんですよね?」
アカネが少し不安げに確認するように聞いた。
「もちろんよ。あとの流れは分かってるわよね?明日の入学式とかその後のオリエンテーションとか。」
「バッチリですっ!明日は絶対遅刻しませんっ!」
ルカが威勢よく答え、続けざまに俺の前まで走ってきて、ぎゅっと両手を握ってきた。
「よかったぁ~!モモちゃん、これで一緒に戦えるね!」
「でも戦いはモモちゃんにとってちょっと危ないかも……だからお姉ちゃんが全力で守ってあげる~!」
二人のテンションに圧倒され、俺はなんとか引きつった笑顔でうなずくしかなかった。
……な、なんだこの感じ。美少女戦士チームでも結成されたの?
まあ……俺はもう幽鬼じゃないけど、ここでは椎名モモとして——違う形の“強さ”を手に入れられるかもしれない。
たとえEランクでも、証明してみせる——最強は、ランクなんかじゃ決まらないってことを!