04.最底辺のEランク!?俺、封能者って言われても納得できないんだけど!
案内板に従って進むと、そこにあったのは……どう見ても新入生受付じゃないか?本当にギルド?!
俺のイメージしていたギルドとは、魔物討伐の依頼が飛び交うような場所だったんだけど……これはもう、完全に学校の受付じゃん。
目の前に広がるのは、教室十数個分はありそうな広大なホール。そして、そこに詰めかけた大量の新入生たち。
「わぁ~!めっちゃ広い!」
ルカが目を輝かせながら、ホール内をキョロキョロ見渡す。
「ルカちゃん、あまり大声出すと迷惑だよ?」
「わかってるって! それより見てこれ、すごくない!?」
……いや、絶対わかってないやつのテンションだこれ。
まぁ、初めての場所は新鮮に感じるものだし、気持ちはわかるけどさ……でも、忘れちゃいけない。俺たち、あくまで受付に来てるんだよね?
「あのー、それ、あまり触らないでくださいね?」
突然、やわらかな声が聞こえた。振り向くと、そこには白衣を着た女性が立っていて、ルカに微笑みかけていた。
「壊しちゃったら弁償になりますよ?結構高いんですからね?」
「ひゃっ!? ご、ごめんなさいっ!」
ルカが子供みたいにシュンとしながら、慌てて頭を下げる。
だが、その女性は怒ることもなく、相変わらず優しげな笑顔を浮かべたままだった。
「大丈夫ですよ。もしかして、今日の新入生ですか?」
「そうですそうです!」
ルカが勢いよく返事をすると、女性は「ふふっ」と微笑んで言った。
「今日は新入生が多くて、私も臨時で受付の手伝いをしてるんです。よかったら、案内しましょうか?並ばなくても済みますよ?」
「えっ!?本当ですか!?ありがとうございます!!」
ルカは先ほどとは違い、今度はテンション高くお礼を言うと、バッと俺たちの方へ向き直り——
「モモちゃん、アカネちゃん、行くよっ!!」
と、俺たちの手をガシッと掴み、勢いよく女性の後を追い始めた。
「ちょっ、ル、ルカちゃん!?ちょっと待ってってば!」
「こけるかと思った……」
ルカに腕を引っ張られ、俺と茜はほぼ強制的に受付まで連れてこられた。勢いが強すぎて、危うく転びそうになるレベルだ。
「はーい、新入生の皆さん、こちらで入学手続きを行いまーす!」
さっきの白衣の女性が、受付カウンターの椅子に腰掛けながら大声で呼びかける。
すると——
「うおおおおおお!!!」
まるで特売セールに群がる客のように、一気に人が押し寄せてきた。そのせいで俺たちの後ろには、ものすごい長蛇の列ができてしまう。
これ、もしさっきの誘いを断ってたら、普通に詰んでたな……並ぶだけでどれくらい時間かかったんだろう。
「じゃあ、あなたたちから手続きを始めましょうか。」
女性がカウンターから三枚の紙を取り出し、それぞれ俺たちに渡す。
「ここに基本情報と、天性の超能力、それから入学試験の評価ランクを記入してくださいね。」
——ん?天性の超能力?評価ランク?
俺は思わず手元の紙を二度見する。
基本情報はまぁ分かる。名前とか年齢とか、そういうのだろう。
でも、俺の天性の超能力って何?えーと……たぶんさっきのアレのことだよね?
でも、評価ランクって何?
たぶん、入学試験の成績みたいなものなんだろう?試験で超能力の適性を測られて、その結果でランクが決まる……って感じ?
で、俺の成績は?
……知らん!まじで分からん!!どうすんのこれ!?
あ、待てよ?そういえば、さっきルカは俺が最低点で合格したって言ってたな?
ってことは、俺のランクは間違いなくド底辺!
でも、その最底辺のランクってどのくらいヤバいんだ?それに、俺の超能力の正式名称って何だっけ?
ヤベェぞこれ……ん? そういえば!
攻略本にモモのプロフィールが載ってたよな!?けど、ちゃんと読んでなかったせいで肝心なところを思い出せない……!くそっ、なんとかしてもう一回確認しないと!!
「よーし、私は書き終わりましたよ!」
「あたしも~……あれ?モモちゃんまだ?」
アカネが提出したついでに、俺のほうをチラッと見てくる。
いや、俺だって早く書き終えたいよ!でも無理なもんは無理なんだ!!知らないことは書けないし、攻略本もまともに読んでないし、この世界のルールもあんまり分かってないし……!!
「あ、あはは……ちょっと手が震えててさ……ほら、緊張するとか、そういうやつ……?」
適当に誤魔化してみる——が、めちゃくちゃ怪しい、どう考えても言い訳が雑すぎるだろ……
「そっか~!それだけモモちゃんがここに入れたのが嬉しいってことだね〜」
「あ、あははは……そ、そうね……」
いや、なんで素直に信じちゃうの!? もっとツッコんでくれていいんだよ!?
そう思っていたら、アカネがニコッと微笑みながら、ふわっと俺の手を握ってきた。
……は?
そして、そのまま優しく指を揉みほぐし始める。
「お姉ちゃんがマッサージしてあげるね~♪残りはルカちゃんに書いてもらおう?」
「おぉっ、任せとけ!」
いやいやいやいやいや!!!
ツッコミが追いつかない。何この状況!?俺だけ扱いが異様に良すぎない!?
しかも周りの視線がガンガン集まってる!絶対「なんだあの子たち……」って思われてるよな!?
たとえ愛されヒロインでも、そうな展開……社会的死!死にてぇよ俺は——!!!
「椎名……モモ?モモさん、あなたのランクって……」
その女性がルカが書いた書類を見た瞬間、何とも言えない表情になった。
驚いてる? いや、ちょっと困惑してる? どっちとも取れる微妙な反応だ。
「え、えっと……何か問題でも?」
俺がそう聞くと、彼女は軽く咳払いをして、ゆっくりと言った。
「あなたの評価ランク、つまり実力ランクは最低のEランクですよ!つまり、封能者ってことですね。」
「ふ、封能者……?」
瞬間、頭の中でピキッと音がした。
──封能者。
それは、攻略本に載っていた最悪のハズレ職。どれだけ鍛えても、どれだけ戦っても、強くなることができない、才能ゼロの落ちこぼれ。
……は!? ちょ、待て待て待て!?
俺が封能者!?かつて「世界最強の暗殺者」だったこの俺が!?
ふざけんなよ!こんなはずない!いや、だって確かに能力は微妙だけど、ランクまで底辺とか、これじゃあまるで──
「し、知ってますけど……それが何か?」
なんとか取り繕いながら答えると、彼女はため息をつきながら言った。
「……どうやら、あなたはこの状況の深刻さを理解していないようですね。」
「えっ……?」
「詳しい事情は分かりませんが、あなたは何らかの理由でこの学園を志望し、最低ランクの成績で合格しましたね。でも……この問題はあなたの今後の人生に直結します。」
「……っ!」
「ですので、報告が終わったら私のオフィスに来てください。しっかりとお話ししましょう。」
──うわ、マジかよ。
なんかめちゃくちゃ深刻な話になってる!?
「せ、先生っ!」
突然、ルカが前のめりになって叫んだ。
「モモちゃんはそんな子じゃありません!そりゃあ、確かに超能力はちょっとアレかもしれないけど、めちゃくちゃ努力家なんです! だからこそ、特別に合格を認めたんです!」
「そ、そうです!」
アカネも焦ったように頷く。
「モモちゃんは本当に頑張り屋さんなんですよ!ちょっと不器用なところはあるけど、でも誰よりも努力してます!」
「……ええ、そのことは理解しています。」
その女性は静かに頷いた。
「ですが……これは努力の問題ではありません。」
「え……?」
「安心してください。私はあなたの入学を取り消すつもりはありません。ただ、あなたの状況はこの二人とはまったく異なるのです。」
「えっ、それって……」
「ルカさんとアカネさんのランクはCランク、つまり将来有望な中堅者クラス。しかし、モモさん……あなたは封能者です。」
「……」
「この違いについて、きちんと話しておくべきでしょう。」
そう言いながら、彼女は俺の書類を返してきた。
「では、モモさん。報告が終わったら、学園本部の2階にある私のオフィスまで来てください。」
──そう言い残し、彼女はアカネとルカの書類を回収し、次の生徒の対応に移った。
……俺の実力って、そんなにやばいのか!?