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03.能力覚醒——いや、これだけ!?

 浮遊カーが道路をスイスイと走り抜け、空には色とりどりの一人乗りミニ飛行機が飛び交っている。ビルの上にはホログラム広告が映し出され、道端にはロボットが掃除をしている。


 いやいや、未来感すごすぎない!?


 ここ、本当に異世界!?


 俺のイメージでは、馬車が走ってて、剣と魔法が飛び交うファンタジーな世界だったんだけど!?獣耳少女が「ご主人様ぁ~」とか言ってくれる感じじゃなかったのか!?


 なのに、目の前にあるのは――


 超!近未来都市!!


 ……いやまあ、異世界っちゃ異世界だけどさ!!


 攻略本には「モンスターを倒して経験値を獲得することで強化が可能」って書いてあったけど……


 そのモンスター、一体どこにいるの!?


 普通、こういうのって森とか洞窟とか荒野に生息してるもんじゃないの!?まさか、こんな都会のど真ん中で「うぉぉぉ、魔王の手下だぁぁ!」なんてことにはならないよな!?


 てか、そもそもこの世界ってどんなゲームバランスしてんの!?


「うーん……ナビでは、この辺りが学校のはずなんだけど。」


 隣でアカネがスマホのナビをじーっと見ながら、きょろきょろと辺りを見渡している。


「でもさ、それっぽい建物が全然ないんだけど?」


 どうやら、アカネも道が分かっていないらしい。ってことは、俺たち三人は今年高校に入学したばかりってことか。


「ちょっと貸してみ?」

「もう〜ルカちゃん!勝手に取らないでよ!」


 スッとアカネのスマホを奪い取ったルカが、画面をじーっと見つめる。しかし、数秒後――


「うん、やっぱわっかんね!!モモちゃん、道案内よろしく!」

「え?俺?」

「だって、私たち二人とも迷っちゃったし…… え? 俺??」


 え?ど、どうしたん?こいつ?


「モモちゃん!女の子なのに“俺”なんて言うの、ダメだからね!」


 アカネがぴしっと指をさしてくる。表情は真剣だけど、声のトーンはどこか優しげだ。


 ——あっ、そういえば、今の俺は椎名モモなんだった!幽鬼じゃない!となると、モモは普段“俺”なんて使わないはず……ってことは……


「……あ、あたし……?」

「うんうん、それでこそモモちゃんだね!」


 アカネが満足そうに頷く。


「女の子がそんな乱暴な言葉遣いしちゃダメだよ?モモちゃんは可愛いんだから、もっと可愛くしなきゃ!」

「は、はぁ……」


 ——いや、可愛くしなきゃって言われても、俺は男だぞ?まぁ、身体は女の子だけど……


「まぁ、それはそれとして!モモちゃん、道案内よろしくね!」


 ルカがスマホをぐいっと差し出してきた。


「……え、ちょっと待って。俺……じゃなくて、あたしもこの辺のことよくわかんないんだけど?」

「大丈夫大丈夫!なんかモモちゃんならわかる気がするし!」


 いや、その“なんか”って何だよ?どういう信頼の仕方してんだよこいつ。


 仕方ない!とりあえずスマホを受け取ってみよっか!


「で、どう? わかった?」

「う、うん……たぶん、こっち……かな?」


 まぁ、こんなマップの読み方ぐらい、俺の前世の経験からすれば余裕だしな……


 そうしてずっと道を進んでいくと——


「おぉ! ほんとにあった! モモちゃんすごーい!」

「さすがモモちゃん!しっかり者だね!」

「そ、そんなことないって……」


 目の前に広がるのは、「テンキアカデミー」という名の学校。


 正門からして完全に貴族学校のそれで、周囲には同年代の学生たちが次々と校内へ入っていく。


 しかも、その全員が貴族の子息かと疑うほど、品のある服装をしていた。


 ……え、ここ、本当に俺たちみたいなのが入っていい場所?


 どう見ても「庶民お断り」な雰囲気なんだけど!?


「よし、行くぞ!」


 ルカが先陣を切り、大股で正門へ向かう。その後ろで、アカネがにこやかに俺の手を取って、優しく言った。


「ほら、モモちゃん、行くよ~?迷子にならないようにねっ〜」


 ……いや、何この頼れるお姉さんキャラ!?優しすぎるんだが!?


 気がつけば、俺は茜に手を引かれながら小走りで門をくぐっていた。こうして手を引かれると、なんだか昔、お母さんに公園で走り回らされてた記憶が蘇るな……


 ……お母さん、今頃どうしてるんだろう。もう、俺が死んだことも知ってるよな……?きっと、すごく悲しんでるよな……


 頼むぞ、弟……お母さんのこと、しっかり支えてやってくれよ!


 そんなことを考えているうちに、俺たちは学校の敷地内へと足を踏み入れた。


 そこに広がっていたのは——


 ど真ん中に噴水と金色の銅像が鎮座する、色とりどりの花々が咲き誇り、手入れの行き届いた木々が並び、ベンチでは上品な雰囲気の生徒たちが優雅に談笑している。


 ここ、本当に学校?なんか、小さな都市みたいなんだけど……?


 気づけば、俺たち三人とも、そのあまりにも豪華な景色に圧倒されて立ち尽くしていた。


「うおおおおっ!ついに来たぞ!伝説のテンキアカデミー」


 ルカは両手を頭の後ろで組みながら、興奮した様子で周囲を見回していた。


「だって、あたしたち、ちゃんと入試を突破して入学したんだもんね♪」


 茜も笑顔で頷く。


 ——だが!


「……とは言ってもさぁ?」


 突然、ルカがニヤリといたずらっぽい笑みを浮かべ、こっちを向いた。


 ん?なんで俺を見る?まさか——


「誰かさんは最低点で合格したんだけどね~?」


 ……は?


 いや、ちょっと待て!ってことはつまり——モモはギリギリの点数で合格したってこと!?


「もう〜ルカちゃん、そんなことでモモちゃんをからかわないの!」


 アカネが軽く眉をひそめる……が、その直後——


「モモちゃんだって頑張ったんだから!そりゃあ、超能力の才能はまったくなくて、どれだけ練習しても成長しないし、おまけにドジで何でもかんでも失敗するし……それに、ご飯食べるのも遅いし、お風呂入るのも遅いし……ダメなところが山ほどあるけど!でもそれは仕方ないじゃない!その分、普通科目はすごく優秀なんだから!こんな学校に合格できただけでも、モモちゃんはすごいのよ!」


 ……いやいやいや、アカネさん、それフォローになってないから!?


 むしろ傷えぐられたんだけど!?


 たしかに、今は椎名モモっていう存在になってるけど……いや、それにしたって、これはキツい。


 だって俺、前世では文化も体育もオール満点の模範生で、死ぬ直前まで「世界最強の暗殺者」って呼ばれてた最強の男だぞ!?


 なのに……


 最低点ギリギリで合格……


 ……ハハッ、組織のみんなに知られたら、絶対ネタにされるな……


 まぁ、仮に俺が「幽鬼」の姿で現実世界に戻って「転生したら女子高生になってた」なんて話したところで、誰も信じないだろうけどな……


「まあ〜とはいえさ?」


 ルカが再びこっちを見て、ニヤニヤしながら近づいてくる。


「モモちゃんってさ~、超能力の才能ゼロだけど、顔が可愛すぎて、めちゃくちゃ守ってあげたくなるんだよね~まぁ、戦えなくても、その可愛さがあればオールオッケーってことで!」

「ちょっ、ちょっと待っ——んんっ!」


 気づけば、ルカの両手が俺の頬を包み込み、めちゃくちゃにむにむにされていた。


「ふふっ、やっぱりこのほっぺ、最高に気持ちいい~~」


「いちゃちゃちゃ……!ルカちゃん、もうちょっと手加減してよ……!」

「えへへ~でもさぁ、モモちゃんが可愛すぎるのが悪いんだよ~」


 ……なるほど、可愛すぎるのも大変なんだな、モモよ、この十六年間、よく頑張って生きてきたな……


 それにしても、さっきアカネが言ってた「才能はまったくない」って、超能力のことだったのか。てっきり、学力の話かと思った……


 ん……そうなると、俺の超能力って何なんだ?アメリィは三時間以内に能力が覚醒するとか言ってたけど——


 今、もう二時間以上経ってるんですけど!?


「ほらほら、ルカちゃん、もうモモちゃんをいじるのはやめて、早くギルドに行くよ!」

「はーい!」


 ギルド?あの、魔王討伐とかモンスター狩りのために冒険者たちが集まるギルドか?


「モモちゃん〜早く行こー!」


 数歩先を歩いていたルカが、こちらを振り返りながら手を振る。


「……あ、うん!」


 まあ、何だかよく分からないけど、とりあえずついていくしかないか——と思った、その瞬間。


「……あれ?」


 ふと、足が止まった。


 ——何か、おかしい。


 視線の先、少し離れたところで、三人の学生が向かい合っていた。そのうちの一人が、もう一人に向かって何かを言い放つ。


 ……いや、これはただの会話じゃない。


 挑発的な態度、そして薄ら笑い。


 そして——突如として、そいつは相手の肩を強く押した。


「ほら、やっぱり。バカじゃん。」


 そう言って、あいつは勝ち誇ったように笑った。


 俺は特に反応することもなく、ただ無意識に周囲を見渡していた——いや、何を探してるわけでもない。ただの癖だ。


 だが、ふと頭の中に違和感がよぎる。


 こいつの動き、ちょっと遅くないか?


 何気なく目を向けた瞬間、その違和感」の正体がわかった。


 ——いや、違う。


 遅いんじゃない。俺の目が、やたらとはっきりと動きを捉えているんだ。


 あいつの腕の軌道が見える。筋肉の微かな緊張、関節のわずかな動きのズレ。


 まるで——スローモーションみたいだ。


 え?こんなことまで感じ取れるなんて……


 意識を集中させると、もっと細かい部分まで見えてくる。指のわずかな角度の変化、踏み込む際の重心の移動。


 ——まさか、これが、俺の能力?


「……っ、はは。」


 思わず笑いが漏れた。


 目の前のやりとりは、まるでスローモーション映像を眺めているみたいに、次に何が起こるかが手に取るように分かる。


 ——なるほど、俺の能力は相手の動きを読むってことか。


 ……いや、だからって、だからってさぁ!?こんなの全然すごくないじゃん!!


 俺の「超能力覚醒」の瞬間、もっとド派手なものを期待してたんだけど!?時間停止とか、空間操作とか、炎を操るとか、そういうのがよかったんだけど!?


 これ、現実世界なら最強かもしれないけど、ここ「超能力が当たり前の世界」だぞ!?


 この能力を持ってても、結局「普通の人間」と大差ないってことじゃん……!


「……はぁ。」


 思わず溜め息が出た。


 やっぱり、椎名モモは……いや、俺はつくづく凡人らしい。


「モモちゃん〜早くしないと置いてっちゃうよー!」


 前方から、ルカの元気な声が聞こえてきた。


「……あっ、はいはい!すぐ行く!」


 俺は慌てて駆け出し、二人の後を追いかけた。


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